四十八.女の子の名前はハピア
「それで、どうしたら良いと思う? 取り合えずこの子を連れて来たんだけど」
そういえばこの子の名前すら聞いてなかったな。
「あー、君の名前は?」
「あたしは、ハピア! よろしくね」
ハピアに続いて俺達も、各自自己紹介をした。
「どうするっても、ガイウスが返ってくるまではどうしようもないだろ」
「それな、柴田の言うとおりだよ」
「ハピアちゃんは、急ぎの用事でもあるのかな?」
ミズキの言う通り、この子にも何か用事があるのかもしれない。
「特にないよー、ただ、爺ちゃんが心配してると思う」
親御さんが心配するのは当然だろうなと思っていると、この小さな体から何か物を喰わせろと言わんばかりの騒音が鳴り響いた。
俺達は顔を見合わせて、笑いあった。
そういえば、もう日が傾き始めたころだった。
「良し、ガイウスがいつ帰ってくるかわからないけど、今は出来る事をしようか。まず、ギルドに行って村の場所を調べて、伝鳥を飛ばそう」
ついでに酒場で食事を取ってから、今日は休めばいいさ。
そうと決まって俺達は、ギルドに足を運んだ。
受付では猫の獣人と思われる女性が対応してくれた。
「あの、調べたい事があるんだけど、『ゴーン』って村わかる?」
「ゴーン村ですねー、少々お待ちください」
受付嬢は、引き出しから地図を取り出し指で村の位置を指し示してくれた。
だが、俺の意識はそこではなく受付嬢のもふもふとした、手を触りたい衝動に駆られ手を伸ばした。
その瞬間、指先からカッという音と共に鋭い爪が出てきた。
受付嬢に目を向けると終始にこやかではあったが、触ったら許さないと言うような気迫が見て取れた為、素直に地図に目線を落とした。
俺達がこれから向かうウィンティア王都の道筋からは少し離れているが、これくらいなら寄れない事は無いだろうと思った。
受付嬢にお礼を言って、先に酒場で待機している皆の元へ向かった。
「どうだったの?」
「王都に向かう道筋からは離れるけど行けない所じゃないみたい。それと、ハピアにはこれを書いて貰いたい」
そう言って伝鳥に届けさせる手紙を書いて貰う為に紙を差し出した。
「あたし、まだ字が書けない。それに、ここが何処かもわからない」
悲しい表情を浮かべて、見上げてくる姿につい、抱きしめたくなるような可愛らしさがあった。
「じゃ、代わりに書いてあげるよ。爺ちゃんの名前は?」
「爺ちゃんはヴィクトールって言うの!」
「分かった。何か伝えたい事とかあるかな?」
「あたしは元気だよーって書いて!」
了解ですとも、お嬢さん。
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ゴーン村のヴィクトール殿へ
初めまして、俺はショウという冒険者です。ハピアちゃんは、国境の街ボダニ付近で出会い保護しました。
俺達は騎士の巡礼の護衛中で近々ウィンティア王都に行く予定です。その際、ゴーン村に立ち寄りハピアちゃんを送り届ける旨をお伝えいたします。
ハピアちゃんはとても元気ですので、ご安心ください。
冒険者ショウとハピアより
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こんなもんかな。
「じゃ、俺は伝鳥飛ばしてくるから、料理注文しといてよ」
そうして、用事をすませ腹も満たした所で、俺達は宿屋へと帰った。
無事にあの手紙が届き、ヴィクトールさんを安心させられたら良いのだけど。
ハピアちゃんは、俺と一緒に寝たいと言い出したが、そこは遠慮して貰った。
ミズキが、また暴走しかねないので、何とか説得しミズキ達の部屋に連れて行った。
そういえば、ハピアちゃんはどうやってボダニの街まで来たのだろう?
本人は知らない内にって言っていたから誰かに連れてこられたとか?
分からない事もあるけど、ガイウスが戻ってくるまで数日掛かるだろう。
その間に何かしら情報が手に入る事を願い、眠りについた。
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