四十七.見知らぬ女の子
俺達は無事検問を通りウィンティア王国へと入国する事が出来た。
門を通り抜けた先には、ボダニの街と同じ様に建物が建造され賑わっている。
街の外に目を向けると山々が連なり、荒野が広がっていた。
レイク王国の緑溢れる大地とは対をなす土地の様だ。
さてと、この後は特に何も考えてない。ガイウスがガルバ卿から解放されるのをただ待つだけだった。
「上手くいったな」
「ああ、呼び止められた時は、もう、暴れるしかないと思ったぜ」
ハインド達は緊張の一瞬から解放されたおかげで、ひどく疲れた様子を見せた。
それと共に、安堵という言葉が正しいかわからないが、馬車の中は穏やかな空気が感じられた。
「ハインドはこれからどうするんだ?」
「俺達か? とりあえず、手下共と合流して休みたいぜ。その後の行動は、その時決めるさ」
「そうか……じゃあ、ここでお別れだな」
「そうなるな、この恩はいつか返すぜ」
「返されなくても良い様に生きていくよ」
俺の心境としては複雑であった。一度は敵対した相手だが、腕を切り飛ばしたのは俺だ。
そんな俺に対して、恩だなんて恐れ多い、ハインドの腕が健在であればここまで疲弊はしていなかった様にも思える。
ハインドは皆を連れて、馬車から降り自分達の待ち合わせ場所へと向かって歩き始めた。
その様子を、ミズキ達は手を振って見送っていた。
途中ハンドが振り返り質問してきた。
「あぁそうだ、お前達は最終的に神聖王国に行くんだよなぁ?」
「そうだけど」
「神聖王国には、あまり長居しない方が良いぜ。教皇が替わった話を知っているか? そのあたりから、国内の雰囲気が変わったそうだぜ」
「わかった、心に留めておく」
言いたい事を言って再び皆を連れてハインドは歩き始めた。
俺達はその姿が見えなくなるまで見つめた。
どこかのギルドで神聖王国の噂は聞いたような気はするけど、何だったかな? まあ、ハインドの言葉を忘れずにしよう。
「ねぇショウ。これから、どうするの?」
「そうだなー、ガイウスの帰還を待つだけだから、宿を確保してから自由行動でどうだ?」
「うちは賛成!」
「柴田はどうだ?」
「良いんじゃないか? 別にやる事もないし」
皆の意見がまとまった所で、宿屋を探しに俺達は歩き出した。
ほどなく歩いて、宿屋を発見したので俺達は、部屋を取り各々休憩することにした。
俺は街並みを散策したかったので一人宿屋を後にした。
こうしてみると、門を潜る前にもいた獣人が多く見受けられる。この国は基本的に獣人が多いみたいだ。
「ちょっと、そこのおじさん」
声を掛けられて振り返るが誰もいない。
「どこ見てんの! 下だよ」
言われた通りに視線を下げると、翠の髪色で小柄な女の子が俺を見上げていた。
「何か用? 迷子かな?」
「迷子じゃないもん! 目が覚めたら知らない所に居ただけだもん」
それを迷子と言うのではと思うも、とりあえず話を聞いてみよう。
「それで、何か用?」
「そうだった! おじさんは冒険者?」
「おじさんじゃないけど、一応冒険者だよ」
「だったら、あたしを村まで連れてって欲しいの!」
「村!? この街の子供じゃないの?」
「ここ全然しらない、あたしの村は『鉱山の村ゴーン』だよ」
う~ん、参ったな。こんな子供を放っとく訳にも行かないし、かといって、ガイウスを待たないと行けないから動けないし。そもそも、それが何処かすらわからない。
まあ、村に名前が付いているなら、ギルドに行けば分かるかもしれないけど。
悩んだ挙句、一旦宿屋に連れて行って皆と相談しようと考え着いた。
「よし、じゃあ付いて来て。逸れない様に手でも繋ごうか」
「わーい、ありがとう。お兄ちゃん」
おお、可愛いな。いや、別に変な意味ではなく、普通に子供っぽいのが可愛いだけだ。
宿屋に着き、まずは柴田に声を掛けようと扉を開けると、剣を構えて何やら技名を発している様だった。
こちらに気付き、恥ずかしがる様子もなく近づいてきた。
「おお! 幼女だ! その子どうしたんだ?」
「皆に一気に説明したいから、隣のミズキ達を呼んできてくれないか?」
ああ、分かったと部屋を出て行く柴田を見送り、適当な椅子に女の子を座らせた。
すると、ドタドタと駆け足で俺達の部屋に入ってきた者がいた。
それは、ミズキだった。口元はブツブツと何かを唱え、手を俺に向けている。
「えっ!? ちょっと! 何してるの?」
「こっちが聞きたいよ! こんな幼気な女の子を部屋に連れ込んで、何してるの!」
「何か誤解してない? 柴田から聞いたんじゃないの?」
「ショウが幼女を部屋に連れ込んだから来て欲しいって聞いたよ!」
「ん? いや、まぁ、間違いでは無いけど……」
「やっぱり!」
ミズキの身体が仄かに光り出す。
この流れはまずい! 意識を刈り取られるパターンだ。
「いやいや、話を聞いてくれよ! 相談したい事があるから柴田に呼んで来てもらったんだよ」
「話? 柴田君はそんな事言ってなかったけど?」
徐々にミズキの身体から光が消えていくのが見て取れて、ほっと胸を撫でおろした。
「ちぇ、つまんねーの」
扉から密かに覗いていたであろう柴田がそう口走りながら入ってきた。
「柴田わざと勘違いするような言い方しただろ?」
言葉って難しいよなーと、他人事のように呟いた。
その後からメグミンが続けて入ってきた。
「ミズキはショウの事になると、後先考えないよねー」
それを聞いたミズキは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
まぁ、それだけ思われているのは嫌な気分では無いけど、バイオレンスな彼女は嫌いになっちゃうぞ。
ミズキは怒ると怖いからなー。
ただ、こういうのも嫌いではなく、今の事を少し思い出して可笑しくなり、俺は一人笑った。
読んで頂き感謝しております。
これからも、頑張っていきますのでよろしくお願いいします。