四十六.いざウィンティア王国へ
俺達が宿屋に戻った時には、既に遅かったため翌日の朝に話し合いをする事にして休んだ。
翌朝、ギルド併設の酒場でいつもの様に朝食にありつきながら、皆に昨晩の話を簡潔に話した。
「……というわけで、国境を越えるのを手伝いたいんだ」
「うちは、手伝ってもいいと思う」
「ありがとうメグミン。柴田はどうだ?」
「面白そうだから、良いぜ」
残るはガイウスだけだが、事の顛末を話す間、ずっと眉をしかめながら聞いていた。
「ガイウスはどう?」
「俺は反対だな、事情があるにせよ、法を犯した連中だからな。それに、ガルバ卿の事もある」
ガイウスは堅物だからなー、そういうと思った。
ただ、ハインドに頭を下げられ俺はそれを請け負った。今更ダメでしたなんて言える訳が無い。
いや、俺から申し出た事だ。意地でも言いくるめてやる。
「ガイウスは、ハインド達が……、いや、領民達が苦しんでいるのを見て見ぬ振りをするって事で良いんだな?」
「う……、そう言う訳では無いが」
「でも、このままじゃ彼らは、討伐隊やガルバ卿に捕まり、処刑か牢獄に入れられ、もう日の目を見られなくなるかもしれないんだよ?」
「それは、彼らの今までの行いに対しての罰だ、当然背負う義務がある」
「確かに、ハインド達の盗賊団は汚い事をやらされていたかもしれない。だけど、子供達や母親達はどうなる? ハインドが居なくなれば、生きてはいけないんじゃないのか?」
当然ハインドが捕まれば処刑されるだろう、貴族同士の争い事を裏で暗躍し色々手を染めていたみたいだから……。
だけど、子供達や母親達には何の罪も無い。
脳内で、騎士のプライドと情や、ガルバ卿の顔と色々な物を秤に掛けながらガイウスは思案しているようだ。
「とりあえず、話だけは聞こう。何か作戦があるんだろう?」
ようやく、スタートラインに立てたぞ、ここからは、犠牲者を選ぶだけで事足りる。
その犠牲者は、もう既に決まっているけどね。
「そう言ってくれて嬉しいよ! ガイウスにしか出来ない事があるんだ。正に話だけ聞いてくれたら良いんだ」
作戦を皆に伝えて、俺達は直ぐに行動に移した。
相乗りの馬車に、トボトボと乗り込み出荷されて行くガイウスを、見送った後ハインド達がいる場所へと向かった。
扉の前に着くと、中から見ていたのか、少年リーダーが出迎えてくれた。
「ハインドはいるか?」
「奥に居るぜ」
案内されるままに、昨晩話し合いをした部屋へとついて行った。
「よぉ、順調か?」
「ああ、もちろん!」
ハインドは、あれからも起きて周囲を警戒していたのだろう、瞼に重たい物をぶら下げているようだった。
「近くに馬車を止めているんだ。その中に、外套があるから乗ったら羽織ってくれ」
「それだけか? いや、任せたんだ、従うぜ。おい、チビ共! 皆を乗せな」
ハインドの号令と共に、少年少女達は母達を先に乗せさせ、自らも続いて乗り込んだ。
よし! 全員乗ったな。
「他の団員達はいないのかな?」
ミズキは、辺りを見渡しながら尋ねてきた。
確かに、ハインド以外の団員の姿は見ていない。もしかすると、もう……。
「他の連中には、ウィンティア側で拠点を作って貰っているぜ」
「そうだったんだね。良かった」
「お嬢ちゃんは、優しいな……」
てっきり、最悪な絵が浮かんできたけど、杞憂だったようだ。
それよりも、ハインドにお願いしないといけないことがあった。
「皆には、騎士の巡礼途中に従士を志願したって事で話を合わせて貰いたい」
ハインドが、ちょっと待てと声を掛けてくる。
「それは、無理があるんじゃないか? チビ共はともかく女はどうするんだよ!」
「その辺は、俺に考えがあるから、任せとけって」
そんな会話をしている間に、国境門前にたどり着いた。
昨日は街中に大勢いた兵士達は、少なくなっていた。
ガイウスが上手くやってくれたのだろうと思われる。
自然と皆に緊張が走ったように感じられたが、俺自身はそうでもない。
ガイウスに聞いた所によると、巡礼途中で従士を見つけるのは珍しい事では無いそうだ。
「そこの馬車ここで一旦停止せよ!」
門兵が、道を塞ぐように立ちはだかった。
「許可証は持っているのか? あるなら、見せて見ろ」
言われるがままに、王都で貰った許可証を取り出し、そのまま門兵に手渡した。
「うむ、本物の様だな。行って良し!」
後ろの方では、安堵した雰囲気が漂っていた。
「ちょっと、待ってくれ! 後ろの子供達は従士だろうが、女達はなんだ?」
この門兵さんも、仕事だから聞かない訳にはいかないだろう。
「この馬車は、騎士ガイウス様の馬車です。彼の者は、従士時代を元騎士団長アイザック様に教えを請い、晴れてこの度巡礼の儀式をするまでになりました」
「それは、聞き及んでおる。それに、本人がおらんではないか?」
「本人は今、ガルバ卿の武勇伝を聞きたいというので、我々だけ先に行って欲しいとの事です」
そう、ガイウスにはガルバ卿が、街中で指揮出来ない様に、ガルバスイッチを押す為に人柱になって貰った。
なぜ、ガイウスなのかというと、俺達はガルバ卿の事をあまり知らないし、許可証で先に行かれると、街の外まで続く列に並ばなくてはいけない。
ガイウスだと、ガルバ卿から許可を得てすんなり通る事が出来るかもしれないが、俺達ではそうは行かないだろう。
だから、ガイウス一択だった訳だ。
「武勇伝か……。永いからな大変だな。だが、女達の説明がまだだぞ」
「おや、門兵さんは、アイザック子爵の噂はご存じないのですか?」
「噂……? まさか、百人切りの!?」
「そうです! 従士だった彼の者も、それはもう、凄まじい剣捌きなのです」
「なんと! 若さとは羨ましい限りだな。よし、行っていいぞ」
「はい、お勤めご苦労様です~」
すまない、ガイウス。
この事を突っ込まれたら言い様がこれしか思い浮かばなかったんだ。
これで、ガイウスの異名が新しく生まれるだろう。
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