四十四.義手の男
ギルドから依頼を受けた翌日、ボダニの街に兵士の姿が増えた。その様子を、俺は宿屋の窓から眺めていた。
ガルバ様の言っていた、作戦が始まったのだろうと思われた。
「それにしても、暇だよな」
同じく窓の外を眺めている柴田が呟いた。
「せっかく、ギルドで仕事貰ったのに何もしないなんてつまらねぇ」
「まぁ、そういうな。変に関わって何かあればガルバ様から大目玉を食らわされるからな」
ガイウスの言う事には、俺達がわからない過去の重みが乗っている様に思えた。
「じゃ、俺はミズキと出掛けて来るから」
馬車の中では、二人きりになる時間は無いので、いい機会だと思いミズキとデートする事にしていた。
「夕食までには戻れよ」
後ろから掛けられたガイウスの言葉を置き去りにしながら俺は宿屋を出た。
見覚えのある後ろ姿は、不意に振り返り俺を覗き込むようにして、にこやかに微笑んだ。
「お待たせ! 行こうか」
「うん!」
俺は軽く挨拶を交わし、ボダニの街を散策する事にした。
相変わらず、国境を越えようと多くの行商人や、冒険者達等が列をなして待っているのが伺える。
国境の街という事で、物珍しい物があるんじゃ無いかと思い。俺達は、商店が立ち並ぶ商業エリアに向かった。
予想通り、目新しい物が数多く存在した。それを行商人達が買い付けを道端でしている風景が見える。
レイク王都では、見た事の無い果物や、食材、独特な民族衣装を思わせる衣服、その中でも特に目を見張る物が置いてある所へと足を向けた。
それは、様々な大きさで、人の腕の様な物もあれば、足の様な物もある。
「なんだい兄ちゃん? 見た所必要無さそうだが? さては、使い物にならなくなったのかい?」
冗談交じりで店主は俺の下腹部を指さしながら告げてきた。
使い物にならないかはさておき、使った事すらないのだがとは心の中で呟くとしよう。
隣にいるミズキは頬を染めて、俯いていた。
ミズキ違うからね、そういう意味でこの店に寄った訳じゃないから。
「そう言うって事は、これは義手と言うやつなの?」
「おう、見るのは初めてかい? ウィンティア王国のギルドが開発した物だ」
詳しく話を聞くと、ウィンティア王国では鉱山が盛んだが、崩落等の事故が良くあるそうだ。それにより、四肢を失くした者が再度就労出来る様にと、こういった義肢の技術が発展したらしい。
使い方としては、魔鉱が義肢に埋め込まれており、失った四肢に装着し魔力で動かすそうだ。
日常に支障の無いレベルになるには相当のリハビリが必要そうだ。
どこにでも研究者という人は居るものだなと感心した。
「なぁ、店主。売れ行きはどうだ?」
「さっぱりだぜ! ぼちぼち王都にでも行こうとしている所だ。でも、数日前一本売れたぜ」
俺はその時ギルドでの噂話を思い出していた。
「それは、左腕だろう?」
「おっ、兄ちゃんすげぇな。その通りだよ」
俺はその瞬間、一人の人物を思い出した。その人物に聞きたい事がある……。そう思いミズキが傍にいるのも忘れて店主に問いただす。
「そいつは、どこにいるんだ?」
「さぁな、そこまではわからんよ」
期待に応えられなくてすまんな、という面持ちで首を傾げた店主にお礼を言いその場を後にした。
「どうしたの? 急に?」
ミズキが不安げな顔で尋ねてくる。
「ごめん。やる事があるから、先に宿に戻っててくれない?」
「ヤダ。危ないかもしれない事するんでしょ? 私も付いて行く」
こう言いだしたミズキは結構頑固で譲歩の余地はない。それに少し見当がついている様にもみえる。
渋々動向を承諾し、俺達は建設途中の家が立ち並ぶエリアへ足を運んだ。
これも、ギルドの噂話の一つだが俺は確信へと近づいていると思う。何としてもガルバ様達より先に会わなくてはいけない。
そう考えているうちに、建設途中の家が立ち並ぶエリアへ到着した。
中心部とは雰囲気が一変し、閑散とした風景はどこかのスラム街を彷彿とさせた。
通路を進む度、無数の視線が向けられる。
「ミズキ、ここからは俺から離れるなよ」
「……うん! わかった」
何やら、にやけている様に見えるけど、分かってくれたなら良い。
慎重に歩みを進めていると、そばの瓦礫の中から少年が飛び出してきて、俺の腰袋を盗ろうとした。
それを軽く躱し、逃げようとする少年の服を掴み捕らえた。
「くっそ、色ボケカップルのくせに! 離せ!」
「誰が色ボケだ。良く見てみろ」
「ふん! お前なんか知るか! 金か食い物をよこせ! ってあれ? 兄ちゃんは……」
その少年は、俺とミズキの顔を行ったり来たりして確認すると、少し安心したのか落ち着きを取り戻した。
俺はその少年の事を忘れはしない、スクラの街で他の子供達を纏めていたリーダーだ。
「思い出したか? 俺達をハインドの所に連れて行ってくれないか? 大事な話があるんだ」
少年は何か言いたそうに口を少し開けたが、きゅっと唇を閉じ俺達を先導し始めた。
いつの間にか、夕日は傾きガイウスとの約束は守れないなと思いながら、俺達は進んでいく。
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