四十三.父と子の繋がり
翌朝、俺達はアイザック卿の父、ガルバ様に会いに行く為、馬車を走らせた。
ガルバ様は国境一帯を領地に持っており、爵位は辺境伯だ。
息子のアイザック卿が、騎士団長を務めたのは実力あってこそだろうが、父としてはさぞ出来の良い息子だったのだろうと思われる。
場所はボダニから西に向かった所にある国境の塀よりも高く聳え立つ砦だった。
着くなり兵にガルバ様がいる所まで案内された。
ガルバ様は、椅子に座して地図を眺めながら険しい表情をしていた。
俺達に気付くと険しい表情のまま話し掛けてくる。
「ガイウスか、良く来た。」
「ガルバ様もお元気そうで何よりです」
「うむ、連れの者達も良く来た。王都から手紙が届いて活躍は聞いておる」
俺達は、各々ガルバ様に軽い自己紹介を交わした。
ガルバ様は、年老いているにも係わらずアイザック卿と同じく体躯に恵まれ、今だ現役と言わんばかりであった。
「早速で悪いのだがな、わざわざ来て貰った訳を話そう。お前達の力を見込んで頼みたい事があるのだ」
「と、申しますと?」
ガイウスが促すように聞き返す。
「盗賊ギルドを知っているか? 最近になって許可の無い者を国境の外へと連れ出している盗賊達がいるみたいなのだ」
話を細かく聞いてみると、定期的に冒険者ギルドと連携し、街を出入りする人数調査を行っているそうなのだが、入る人数は多いのに出ていく人が少ないそうだ。
当然、定住の可能性もあるが、それも書類で管理しており、人数が合わないのだ。
門を通る際にはさらに細かく調べるため、門から通っては無いと断言する。
国境にある街だからこその統治方法だろうが、前の世界においては一般的な考え方だった。
「それでは、この国境沿いの塀に穴を空けたりしているのでは……?」
俺がつい口を挟む。
「それは最初に疑って兵を連れて見て回ったが、どこも可笑しな所は無かった。それに、街の出入りの人数が合わないと言っているのだ。お前は、話を聞いているのか?」
厳つい目で、睨みを聞かせるガルバ様は、少し苛立ちを隠せない様だ。
「要するに、私達にして欲しい事は、何でしょう?」
俺に向けられた視線を遮るように、ガイウスが尋ねる。
「お前達は少なからず、このボダニの街に王都での活躍が噂になっておる。そこで、冒険者ギルドに調査依頼を出すので受けて欲しい」
俺達の名前を出す事によって、盗賊達の抑止力となった所で、ガルバ様が人海戦術で突き止める作戦らしい。
頭を使っているようにみえて、数に物を言わす脳筋的発想だった。
これでは、俺達の存在は必要ないのでは? と思いガイウスに目配せする。
何も言うなとガイウスの目が物語っていた。
その意図を分かった俺は、もう何も思考しなかった。
そう、ガルバ様もエリナリーゼ様と同じく、人の話を聞かないタイプのようだ。
息子が【獅子奮迅】を習得しているし、父は【猪突猛進】を習得しているみたいだ。別に、スキルでもなんでもないけど……。
藪蛇にならない様に俺達は承諾し、その輩達が見つかるまで、ボダニの街に滞在する事を余儀なくされた。
「とりあえず、ギルドで受注するだけで良いそうだから、昼食がてら行こうか」
帰りの馬車の中で、俺達は話し合いをしていた。
「ショウに目を向けられた時、一瞬ひやひやしたぞ」
ガイウスが告げて来る。
「どうして?」
「あれにショウが何か返答してたら始まっていた……」
ガイウスが言うには、「私の若い頃は……」と説教が始まり、相手が反省の色を見せると延々と自身の武勇伝を語ってくるそうだ。泊り込みで。
そのパターンに入り掛けた所をガイウスが防いでくれていた。
エリナリーゼ様の二の舞になる所だった。軍曹ならば食いつく話かも知れないけど、俺には興味無いから避けられて良かった。
そんな事を話しつつ俺達は、ボダニに到着し早速ギルドへと向かう。
「ギルドで仕事を受注とか冒険者っぽくて良いな! これがやりたかったんだよ」
柴田の言う通り、俺達はギルドで仕事の受注をした事は無く始めての経験だった。
取合えず説明を受けるために受付へと向かった。
「仕事のご依頼ですか? ギルドカードを拝見しても宜しいでしょうか?」
ギルドカードは冒険者になると同時に貰える証明書のようなもので、自身の名前とランクが表示されている。
俺は王都で更新してもらったから、現在はAランクだ。
「Aランクのショウ様ですね、王都での話は伺っております。ガルバ卿から指名の依頼がありますので確認お願いします」
提示してくれたのは、ガルバ様が言っていた依頼だったのでそれを受注した。
少しわくわくしてた俺と柴田は事務的に手続きが終わり落胆した。
そんな気を紛らわせる為、併設された酒場へと移動し昼食を取る。
席につくなりあちこちから噂話が舞い込んで来る。昼間から酒を飲んでいる冒険者達は、どういう生活しているのか気になる所だが、いつもの様に料理がくるまで耳を傾けてみた。
「あの席に座っている連中なんでも、魔人を討伐した奴ららしいぞ」
「魔人だって? あの各国で禁止された人体実験の産物じゃないか。そんな馬鹿な話信じれるかよ」
「本当だって! さっき受付に並んでた時ランクAって見えたんだよ。王都では英雄扱いらしいし舞台の脚本にもなるそうだ」
確かに、このボダニでも俺達の噂はあるみたいだが、舞台になるって? 恥かしいからそれはただの噂であって欲しい。
「この街も大きくなったよな~」
「建設途中で放棄された家に奴隷達が、住み着いてるそうよ」
「そんな話何処にでもある。きりがねえぜ」
「それより、国境を越える為にもう五日目。嫌になっちゃうわ」
ただ待つだけって言うのは簡単そうに思えて意外と苦痛だ。ニートだった俺が言えた義理では無いかも知れないけど。
「ここだけの話し、フードを纏った男に話しかけると翌日には向こう側へ行けるって話があるぞ」
「なにその話。こういう場所ではありがちで面白くないわ」
「嘘か本当か分からないから、良いんじゃねぇか。ちなみにその男の片手は人では無いそうだ」
「その設定いる? 急に馬鹿らしくなったんだけど」
そんな他愛の無い話を聞き流しながら、俺達はお腹一杯になり一度宿屋へ戻った。
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