四十二.国境の街ボダニ
男の手元にある書状にはこう書いてあった。
『此度の件、命があっただけでも幸いでしたね。今回は、秘策も失敗に終わりましたが良い資料集めになりました。今は休暇の様に寛いでいて下さい。こちらの準備が整った時こそが行動の時です』
男は、窓に沈む太陽を見ながら目の奥に宿る光を輝かせているようだった。
―――――――
避暑地で英気? を養った俺達は、国境の街ボダニを目指す為馬車を進めていた。
途中、魔獣に襲われる事もあったが、今の俺達ならば街道沿いに出る魔獣なんて相手じゃない。
ミズキの魔法も加わり、さらに安定した感じだった。
ガイウスが前線で敵の動きを止め、メグミンが【隠伏】で背後から攻撃、俺は近距離または遠距離から臨機応変に対応でき、極めつけはミズキの魔法攻撃だ。
柴田は……「助けてくれぇ!」と叫びながらも奮戦していた。
火の賢者クライスに指示したミズキだが発動までのコツを教わっただけで、後は実践あるのみだそうだ。
ミズキはまだ戦闘で動きながら魔法を発動というのは出来ないのでスキだらけだ。
それを除いてもミズキの【水弾】は相手を気絶又は怯ませるのには十分だった。
俺も経験済みなのでよく分かる。
二度と怒らせる事はするまいと心に誓うほどだ。あれは、俺が悪いわけでは無いのだけどね。
「見えてきたぞー、あれが国境の街ボダニだ」
ガイウスの一言で俺は外に目を向けた。
国境線と思われる範囲には石積みされた大きな塀が築き上げられ、水平線の彼方まで続いているようだった。
その一部に門があり、その周辺を覆うように建物が建造され街となっている。
今尚、建築途中と推測される区画もあり、年々大きくなっている様相が見て取れた。
規模で言うと王都並みに大きいのではと考えられる。
交易の場でもあり他人種が多く行きかうこの街は、独特の色合いを放っている。
国境を越えようとする門前には長蛇の列が並び、まだか、まだかと前方の様子を伺う人達がいるが動く気配は無い。
玄人であろう人物は、まだ日が高いにも関わらず、毛布に包まり寝ている始末だ。
「おい、ガイウス。ここはいつもこんな感じなのか?」
「いや、国境を越えるのは俺も初めてだから分からないが、この様子を見るに平常運転なんだろう」
こんなに待つのかよと、半ばげんなりしたが、俺達にはレイク王から貰った許可証がある事を思い出した。
「まあ、ウィンティアに入国する前に、ここボダニで準備して、明日国境を越えよう。それまでに門にいる衛兵にこの許可証を見せて先に進めるように手配しておく」
ガイウスの提案通り、俺達は物資の買出しと、宿屋の手配とをする為二手に分かれて行動した。
宿の手配と、衛兵に聞きに行くのはガイウス一人に任せて、残った俺達は買出しへと出かけた。
「かわいい!」
「うちも、思ってた!」
ミズキやメグミンは、街中に入ってからずうっと目新しそうにある人達を見ていた。
犬のような特徴の耳をした人や猫耳をした人、あれは獣人という人達だろうか? 毛や尻尾がもふもふしていそうで思わず触りたくなる。
ミズキ達が目を輝かせるのも無理は無い。
「見てみろよショウ! あそこ!」
柴田が呼ぶので指さす方を見ると、ウサギの耳にぽっこリと可愛らしい尻尾を携えたお姉さんが手招きしていた。
どうやら、お店の呼び込みらしく看板には『孤独なウサギ達~ご主人の帰りをお待ちしてます~』と書いてある。
どんなお店か非常に気になる所だが、ミズキ達の視線がもう無視出来ない所まで来てるから先に進もうな柴田。
始めてみる光景に目移りしながらも、俺達は買い物を終え、ガイウスと落ち合う為一度宿屋に向かうことにした。
宿前にはガイウスが仁王立ちで俺達を待ち構えており、表情はどこか曇っていた。
「どうしたんだ?」
「おお! やっと戻ってきてくれたか! 実は、衛兵に聞きに言ったら、この地を統治する貴族が俺達に是非会いたいと言伝をしていてな、それからじゃないと俺達を通す事は出来ないそうだ」
「と、言う事は?」
「その貴族に会いに行くしかないだろう」
「その貴族って言うのはガイウスは知ってる人なのか?」
「ああ、アイザック卿もよく知っている人物だ」
アイザック卿もよく知っている人物? 誰だろうか? アイザック卿ならこの国の有名人だから多くの人と知り合いなのだろうけど。
「で、誰なんだ?」
「ガルバ=アイザック……アイザック卿の父上だ」
ん? 簡単に整理すると、ガルバさんいわゆるアイザック父が俺達に会いたいから、会うまでは門を通さないぞって事で良いのかな。
「なんの用事があって?」
「それは、わからんが明日ガルバ様に会いに行く為、砦に向かう……俺は胃が痛むので今日はもう休む」
意気消沈した面持ちで、とぼとぼと宿屋に入っていくガイウスを見ながら、俺は嫌な予感しか頭に浮かんでこなかった。
エリナリーゼ様の二の舞にならない事だけを切に願う。
読んで頂き感謝しております。
これからも、頑張っていきますのでよろしくお願いいします。