四十一.休息2
「あ~、生き返る~」
俺は水面に仰向けになり漂いながら呟いた。
湖の水温は、少し肌寒い様に感じられるも、太陽の熱気と相まって気持ち良い。
そりゃ! ドボン、と続けて飛び込んで来たのは柴田だった。
「ん、お! 深い! だずげで……」
威勢よく飛び込んだくせに泳げないのかよ! と突っ込む時間も無く柴田はみるみる沈んでいく。
仕方なく柴田を引張り岸まで連れて行くと、目の前に生足が飛び込んできた。
生唾を飲み込み、その程よくハリのあるふくらはぎ、引き締まった太股、薄っすらと割れた腹筋、無駄の肉のついていないすらりと伸びた腕を眺めていると声を掛けられた。
「何をじろじろ見てるんだ? 気持ち悪い」
ガイウスかよ! そういえばこいつは、年齢の割りに非常に体毛が少なかったのを忘れていた。普段フルプレートに身を包んでいる為、がっしりしているかと勘違いされるが、宿屋で寝るときなんかは意外とすらりとしている印象だ。
一瞬でもドキリとした自分が恥かしいのではぐらかそう。
「見てない! ところで、ミズキ達は?」
「二人なら馬車の中で着替え中だ、お前達二人の監視を頼まれている」
俺はいつにも増して真剣な面持ちで、ガイウスに尋ねる。
「ガイウスここには何しに来たんだ? 折角の避暑地だ、休息に来た、違うか?」
「そうだが……何が言いたい?」
「女子二人は着替え中、やたら大声で文句を言う柴田はダウンしている、そして今動けるのは俺とお前だ、分かるか? 言いたい事が?」
「ま、まさか! 死地に飛び込もうとでも言うのか!? いや、俺は騎士だ! その様な行いは出来ん!」
ぬぬ、しぶとい奴だな。ミズキ達に変な事を吹き込んだお返しに、覗きという汚名を着せようと思ったのに感づかれたのか? いや、この開放的な雰囲気に抗える者などそうは居ない筈だ。
俺も一緒に覗きの汚名を甘んじて受ける覚悟は出来ている。
「ここは避暑地だ! 今この場に居る瞬間だけは、お前は騎士じゃ無くても良いんだ! 普通の青年なんだよ!」
これでどうだ? 逃げ道を用意してやったぞ、いつもの悪戯心をさらけ出すがいい。
「そうか……。そうだな! 今は何もかも忘れて羽を伸ばそうではないか!」
「よく言った同志よ! さあ! 今まさに死地に羽ばたかん!」
案の定、誘いに乗ってくれたガイウスを連れ、俺達は抜き足、差し足で馬車の下まで辿り着く事が出来た。
後は、顔を覗かせるだけで、馬車の中が見えるであろう位置に布陣すると、ガイウスと目で語り合い満を持して覗き込む、その瞬間後頭部に強烈な痛みが走った。
「いったー!」
痛みに顔をしかめつつ振り返ると、ミズキ達が大きな布に身を包み、手には木の棒を握り締めているのが見えた。
「あれ? 着替えてたんじゃ?」
「こうなると思った。何が、死地に羽ばたかんよ! うちらの方まで丸聞こえだったよ」
「それは、ガイウスが突然大きな声を上げるから、つい熱が入って……まさか!」
ガイウスの方に目を向けると、小憎らしい表情を浮かべながら俺を見ていた。
「俺は騎士道に反する事はしない」
やられた! ガイウスは、大声で言う事によりミズキ達に今から見に行くぞと暗に伝えていたのだ。
「ふ、完敗だよ。さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろ!」
覚悟を決め潔くその場に正座した。
「それは、遊んだ後で決めるからとりあえずは泳ごー!」
メグミンの声と共に、二人を覆っていた布が空を舞い、二人の肉体が露になった。
ミズキは俺の選んだ白地の布を起用にワンピースっぽく纏っており、メグミンはオレンジの活発な色合いの布を胸はチューブトップの様に隠し、下は腰の所で結んでいて通称紐パンの様にしている。
やっぱ夏といえばこれだよ! 前の世界では一度も経験した事のないきゃっきゃ、うふふのリア充感! もう、後悔はない。
「似合うかな?」
ミズキが、そういうと俺は意識を取り戻し、素直に意見を述べる。
「とても似合ってるよ」
「ふふ、ありがと」
ご満悦のミズキ達に手を引かれ俺達は、暑い日差しの中時間を忘れて遊んだ。
一通り遊んだ所で、俺は今釣竿を携え、皆と少し離れた上流で水面を眺めている。
そう、覗きに行った罰として夕食のおかずを入手する事を任命されたのだ。
なんでも、ガイウスが聖堂で聞いた話では、この時期スウィートという日本で言うアユに似た魚が釣れるそうだ。
アユは焚き火で、塩を適当に塗し、皮をパリパリに焼き齧りつくのがとても美味しい。
身はほんのりと甘く、油の乗った物はくどくなくて何匹でも食べられる。
「はぁ、考えるとお腹減ってきたな」
独り言を呟いていると、泳ぎ疲れたのかミズキが俺の傍にやってきた。
「どう? 釣れそう?」
「どうだろう? 釣りなんて小学生以来だからな」
以前親に連れられて釣りに言った事は憶えているが、それ以来行ってないので素人と言っていい。
記憶を辿りながらそれらしい仕掛けを作ってはみたものの何とも不安だ。釣竿も陳腐なもので、少ししなる木の棒に、糸を取付けたものと、針に鳥の毛をあしらった疑似餌のみだ。
釣り上げる時は一本釣りのように木の棒のしなりを利用して勢い良く手元まで持ってこなくてはいけないだろう。
「ミズキやってみる?」
「うん! やらせて」
軽く投げ方を教えて竿を渡し少し後方に離れる。
素人が投げる針は危険だと言う事は、経験者でなくても分かるだろう。自分が釣られる事の無い位置へ移動した。
ミズキが勢い良く、えいっと竿を前に放った瞬間、俺は目玉が飛び出る勢いで一部に注目せざるを得なかった。
ミズキのワンピースのスカートが捲れ、とても形の整った柔らかそうな肌色の桃が露になったのだ。
遠くの方から、メグミンの声が微かに聞える。
「この腰布ミズキのじゃないー?」
だよね! いくら水着になったと言っても履いてない訳ないよね、きっと何かの拍子に脱げたのだと俺は察する事が出来た。
しかし、もう既に事は起こってしまった。
目の前のミズキはメグミンの言葉から自分の状況を把握する事が出来たのであろう、そのままの状態で固まっている。
肩をわなわなと震わせ、何やらブツブツと呟いている、同時に桃も揺らいでいる。見てはいけないと思いつつも俺の動体視力はその揺れから離れてくれない。
次第にミズキの身体の周りが青く光りだしたのが見て取れる。俺は察した、俺の旅はここが終着点なのだと、こんな事なら、後悔はないなんて思うんじゃなかった。
次の瞬間、川の水が水球となって俺に襲い掛かってくる。突然の現象に見とれて(決して桃にではない)逃げる期を逸してしまった。
顔面目掛けて飛んでくる水球が見事に命中し俺はその場で倒れこんだ、同時に口の中に魚の様な物が半分侵入してきた。
メグミンが腰布を持って現れた時にはもうすべて終わった後だった。
横たわる俺の周りには、スウィートが跳ね回り、同じ様に俺も横たわりピクリピクリとしていた。
「……どうしたのこれ?」
「なっ、なんでもない!」
こうして何とか、夕飯のおかずも手に入り皆で美味しく頂きました。
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