四十.休息1
「よし! それじゃ出発するか!」
次の目的地に向かう為、俺達は旅に必要なものを買い揃え、馬車に積み込んだ所だ。
「ミズキ達の旅が無事に終わってまた会える時を楽しみにしてるわ」
侍女のクレアと共に、王都の入口まで見送りに来てくれたシンシアがそう告げてきた。
「伝鳥で連絡するね!」
ミズキがそう言うと、首を大きく縦に振って頷くシンシアは歳相応の女の子の様に可愛らしかった。
名残惜しそうに手を振ってくるシンシアの姿が見えなくなった所で俺はガイウスに、次の目的地について聞いてみた。
「次は、ウィンティア王国に入国する為に、レイク王国の国境の街ボダニを目指している」
「あー、それで今朝シンシアが、わざわざ許可書? を届けてきてくれたのか」
衛兵なりに頼んで届ける事も出来るのだろうが、シンシアはやたら街に行きたがっていたので、口実を見つけたのだろうという事は言うまでも無さそうだ。
国境を越える為には、通行許可書が必要でギルドから発行される物と国が発行する物と二通りある。
ギルドが発行する物は、審査に時間が掛かり長時間足止めをされる事が多々あるそうだが、国が発行する物については、書状を見せたら顔パスだ。
現金かETCかの違いの様だ。この世界では時間に追われる事が少ないので、効率的かと言われれば難しい所だ。
何にせよ、無駄にもたつく心配が無いのは有難い。
「それにしても、あっちーな」
柴田が馬車から上半身を出し、うな垂れていた。
確かに季節的には、七月下旬から八月初旬といった感じだろう。夏真っ盛りだ。
ミズキ達も装備を外し、肌を露出させている。それを、ボーっと眺めていると、ミズキの視線が厳しくなったので俺は、慌てて目線を逸らした。
ガイウスはフルプレートの装備を纏い平然としているのは、小さい頃からの特訓の成果だろうと想像させるも、見た目暑苦しい。あの鉄板は、目玉焼きでも出来るのでは無いだろうかと思わせる。
「暑いだろう? この先に良い所があるそうなんだ」
ガイウスが、聖堂で国境に向かう途中に避暑地がある事を聞いていた。
「王都程の大きさではないが、木々に囲まれた湖があってそこで泳いだりして涼む事が出来るんだ。今日はそこで野営する予定だから」
暑い日差しに、湖! これって海水浴みたいじゃないか! そう思い、俺は一気にテンションが上がった。
「えー、ガイウスもっと早く言ってよ! 王都で水着買ったのに」
メグミンが、不貞腐れたようにガイウスに向かって呟く。
「水着? 湖は、裸で入るものだろう?」
こちらの世界では水着の概念は無いようだ、水浴びと言った方が正しいのかもしれない。
「俺は裸でも良いけど」
「「絶対にヤダ!」」
ミズキとメグミンが声を揃えて俺を糾弾してくる。俺は冗談だったのに酷い言われようだった。
「まあそう言うと思って、水着? は分からないが、女性は布を巻いて入る事もある。王都でそれらしい物を何枚か見繕っているから、それを纏えば良いだろう」
ガイウスが、そういうと途端に表情を替え、その布を手に取り、どれにしようか二人して悩んでいた。
「ねぇ、ショウはこれとこれどっちが好き?」
ミズキが差し出してきたのは、白地に藍色の刺繍が施された布と鮮やかな青を下地にして白い刺繍が施されたものだった。
白地の方は俺好みだが、この回答を素直に言うと間違いの可能性があるのだ。
この選択肢には、女性独特の謎かけが組み込まれている場合がある。
もちろん、素直に感想を聞きたい時もあるだろう、が、それは今ではない、今までの経験から腹の底が重たくなるこの感じ、先程の言葉は、「ねぇ、ショウは私の事分かってるよね?」だ。
折角のバカンス気分を、この一言で台無しにするわけにはいかない!
周囲からは生唾を飲む音と、汗が滴り落ちる音しか聞えなくなっていた。
意を決し、俺は最善の方法であろう回答をその場に叩きつけた。
「ん~、ミズキならどちらも似合うと思うけど、俺はこっちの白地の方が好きかな」
肯定をしつつも自分の着て欲しい方へとちゃんと意見を述べる、これが今俺に出来る精一杯だった。
「こっちの青も捨て難かったんだけど、ショウがそういうなら白にする!」
馬車の中で、緊張の糸がするりと解け、穏やかな空気が入ってくるのが感じられた。
百点ではないかもしれないが、及第点は頂けた様だ。
「おい! ただでさえあっちーんだから、いちゃつくんじゃねー!」
「まぁまぁ、もう直ぐ着くから、柴田もイライラするな、」
暑さと熱さが混じりイライラしている柴田をガイウスが軽く諭した。
「柴田は、寂しがり屋だね~、うちが慰めてあげようか?」
「うるさい! ち、ち、近づくんじゃねぇよ!」
メグミンが雌豹の様に近づくと、柴田はいつもにも増して不貞腐れた態度を取るが、言葉に動揺の色が隠せないで居るのがよく分かる。
心の中で、同志認定をしておこう、一線を越えた事のない者として。
「お~い、着いたぞ」
ガイウスの言葉で俺達は一斉に馬車から飛び降りた。
当りは緑豊かな木々が生茂り、湖の底まではっきりと澄んだ青が一面を支配した。
俺は、上半身の装備と服を走りながら脱ぎ捨て一気に飛び込んだ。
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