三十九.ベネット村の日々
閑話的な内容です。
懐かしい人達の話です。
爽快に晴れた丘では、子供達が無邪気に走り回る様子が目に飛び込んでくる。
それを横目に見ながら、今日も畑仕事に精を出す。
「この茄子もそろそろ収穫時だな、明日皆でやろうか」
独り言のように呟きながら、腰に手を当て、ゆっくりと背中を伸ばす。
その様子を見て、かまって欲しそうに足元に近づいて来る少女が見上げながらお願いしてくる。
「抱っこしてー」
「カナミか、良いよ。おいで」
土で汚れた手をタオルで軽く拭き取り、カナミが万歳している脇を両手で、掴まえて右手で椅子を作るようにして抱え込んだ。
カナミは手を首もとの服をくしゃっと握りバランスを取り、高い高いとはしゃいでいる。
その様子を、微笑ましく家の方から眺めている姿があった。
「あー、お母さんだー。あっち行くのー」
はいはい、といった具合に、カナミに手綱を引かれナッチャンの方へと歩んでいく。
「お疲れさま~、はい」
そういって、水を一杯差し出してくれたので、近くの椅子に座りそれを一気に流し込んだ。
いつの間にか、腕からカナミは降りて、ナッチャンの膝の上へよじ登っていた。
いつものカナミの特等席だ。
「暑いね、水をありがとう」
「いえいえ、ショウ達と約束したからね~。カオルが倒れない様にしてくれって」
「ははっ、大げさだよ。ショウ達は元気にしてるかな?」
「アイザック卿から、何か聞いてないの~?」
「無事に王都には着いたそうだよ。これから、国境を越えるんだって手紙を見せて貰ったよ」
「元気そうなら良い~、ミズキの事が心配だけど」
「ショウが居るなら大丈夫だよ、何とかやっていけてるんじゃないかな? 色々とね」
二人は目配せして、クスリと笑い合った。
「あらあら、お二人さん仲睦まじい様で、邪魔したっすか?」
チェキラがそんな素振りも無く、堂々と近づいて来る。
「チェキラだー、抱っこしてー」
「おっ、いいっすよ!」
カナミを両手で抱きかかえ、高い高いしている。
「少し見ない内にちょっと重たくなったっすね!」
「レディに重たいは、失礼なんだよー」
そういって、カナミは頬を膨らませている。チェキラの困ったその様子を、僕はナッチャンと一緒に笑った。
「そうそう、途中でショウ達に会ったっすよ」
「かわりは無さそうだった?」
「そうっすね、会った時は普通だったっす」
「なんか含みのある言い方だね~」
チェキラが珍しく神妙な顔つきになるので、カナミを他の子供達の所へ遊びに行って貰い、話を聞く事にした。
スクラの街についての話であった。アイザック卿からあらすじは聞き及んでいたので非常に残念な結果になった事は知っていた。
「王都から手紙が届いていたし、葛藤はあっただろうけど乗り越えれたんだと思うよ」
「そうっすか! それを聞いて安心したっす」
丁度そこへ、馬に乗った騎士というか指揮官的な人物が近づいてきた。
「軍曹じゃないっすか! どうしたんっすか?」
「周辺の見回りが済んだら、いつも此処へ顔を出すのであります」
軍曹は、幅広い戦術の知識から、土地を読む力もあり、アイザック卿の兵士の一部隊を任されている。主に、ベネット村の守備隊長的な存在だ。
「いつもありがとうね~、はい」
いつもの事の様に、ナッチャンが水の入ったカップを軍曹に差し出す。
「ありがたく頂きます」
水を飲もうとすると、いつの間にか近くに来ていたカナミがずっと軍曹の事を見つめている。
「な、なんでありますか?」
「あ、あの、お馬さんに乗りたい」
「む、馬でありますか。もう少し大きくなったら乗せてあげるであります」
小さなカナミには、危なくて乗せられない事は分かっているが、それではうちの子は満足しない事を僕は知っている。
案の定、駄々をこね出し泣きじゃくってしまった。
「む、む、む、カオル殿申し訳ない。泣かせてしまったであります」
「いやいや、いつもの事だから気にしなくていいよ」
ナッチャンがカナミを抱っこし、馬の近くに寄ると、馬も鳴き声が気になってか二人に近づいていく。
それに気づいたカナミは、泣くのをやめ馬の顔に手を伸ばすと、それに合わせるように馬が頬を摺り寄せてきた。
馬と触れ合えた事で、満足したカナミは、先程とは打って変わって満面の笑みを振りまいた。
「子供って、不思議っすよね」
「私は、子供があまり得意ではありません」
「軍曹にも分かる時が来るよ」
その光景を見ながら僕は、感慨に浸った。
「また、ショウ達も交えて、食卓を囲みたいものだね」
日の沈みかけた空を見ながら、僕達は話て、笑って、また朝日を見る為に眠りについた。
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