三十八.建国祭後
建国祭の盛り上がりは、数日過ぎた辺りで普通の都市の様合いへと落ち着いていった。
窓からメイン通りを血が廻るように行き交う人々の様子が伺える。
「それで?どうしたんだ?」
ニヤつきながら尋ねてくるのはガイウスだ。
「まぁ、一応付き合う形になった」
俺は照れ臭そうに返した。
ガイウス達が離れていた時の事を一応報告している最中だ。聖堂の方では魔人が現れて討伐した冒険者がいると噂が流れる程度だったそうだ。
そんな事よりも、ガイウスは自分が仕組んだミズキとメグミンの事の方が重要らしいので、今説明したところだ。
「そうか! 良かったじゃないか! 側から見ていると鬱陶しかったから助言した甲斐があった!」
「なー、それよりも俺は魔人の話が聞きてぇよ」
鬱陶しいってどう言う意味だとガイウスにつっこみたくなる。柴田も中二っぽいワードで反応してくるのはやめて欲しい。
「ところで肝心のミズキは?姿が見えなかったんだが?」
「ああ、ミズキなら修行中だ」
「修行?」
そう、ミズキは火の賢者と一緒に建国祭が終わった次の日から王城に泊まりきりで魔法の特訓をしている。
折角なら泊まりなさいよ! とシンシアが言うので、わざわざ街の宿屋に戻る意味もないのでそうしている。
シンシア自身がミズキと居たいのは言うまでもないだろう。
「……と言うわけで、今居ないんだ」
俺は二人に事情を説明した。
「魔法!? どうやったら使えるんだ?」
当然の事の様に柴田が食い付いて来る。その部分は、俺も気になって居たので、火の賢者クライスに聞いてみた。
どうやら、皆一様に魔力を備えているそうだが、それをイメージ通りに変化出来る者を賢者と言うそうだ。突然、使えるようになる為、こればかりは、時期を待つしかないのだという。
その事を、柴田に伝えると酷く落胆していた。その様子を呆れた様子で眺めながら、他にもクライスが言っていた事を思い出す。
遠い昔、戦乱の時代では、魔鉱の力によって強制的に魔法を使用できる装備があったそうだ。
災害レベルの破壊力を持つ者が量産出来て、国の体を保てなくなり掛けたので、各国で条例を結び違法として現在は定められている。
ただし、冒険者ギルドが研究、開発して国の認可が降りた物ならば使用する事が可能だ。
例えば、火、水、地、風の四つの属性を武器や防具に付与し敵の弱点を突いたり、敵の攻撃を軽減してくれたり出来る。
まあ、冒険者の命を少しでも守ろうとする程度の装備品だ。魔法が使える装備品があった事は柴田には伝えないでおこう。違法なのだから、あっても手が出せないしな。
「なあ、やっぱり告白はあの広場でやったんだろ?」
「ああ、でも何であの場所はあんなに人気なんだ?」
ガイウスが尋ねてくるのでそれに答えながら、俺は気になっていた事を聞き返した。
「あれだけ、聞かされたのに覚えてなかったのか?」
「聞かされた? 誰に?」
「エリナーゼ様にだ。あの場所はアイザック様がエリナーゼ様にプロポーズした場所だ」
俺は、はっと思い出した。散々聞かされたエリナーゼ様の恋物語を、最後の方は聞き流していた為にはっきりとは覚えていなかった。
通りで、王都で人気の場所なわけだ。子爵であり、元王国騎士団長アイザックと平凡な貴族令嬢との恋物語は、民衆の話題として十分語りつくされたであろう。
「カップルには、なったけどプロポーズじゃない!」
「そうなのか? てっきり、夫婦になるのかと思っていたが?」
「それは……ミズキがその気なら、あれだけど……」
ニヤつきながら、からかうガイウスにたじろいでしまう。
突然、俺達の部屋をノックする音が聞える。返事をして、招き入れた人物はメグミンだ。
「ミズキが居ないから一人部屋寂しくて、楽しそうな話し声が、聞えて来ちゃった!」
折角だ、腹も減ったし、昼食でも一緒に取ろうと俺達はギルドに併設された酒場へと向かう。
席に付き、エールを人数分と適当に摘める物を注文し、乾杯する。
「そう言えば、儀式の方はどうだったんだ?」
「特に、何も無く終わったぞ。アレイス副団長が最後に来て昔話をしたくらいだな」
祈りを捧げて、司祭からお言葉を頂いたら終わるそうだ。単純な作法だが、どうしても祈りに時間が掛かるのでそれだけが億劫だと言っていた。
「あれ? ショウは、もうお酒飲んでも良かったっけ?」
メグミンが、首を傾げながら尋ねてくる。
「えっ? どうなんだろう? つい流れで頼んだけど、一応ミズキには内緒でお願いね」
「えーなに? もう、尻にしかれてるの?」
小馬鹿にするように、メグミンが言ってくるので、酒も入って男のプライドが俺に頑張れと主張してくる。
「俺がミズキに? そんな事あるわけ無いだろ? 逆に俺が、ミズキの手綱を握ってるよ」
言ってやったと、満足げに構えていると、皆俺から視線を外し下に俯いている。
「その話、私も混ぜてもらって良いかな?」
俺の後ろから、とても冷ややかに発せられた言葉とは違い、ミズキの表情は、とてもにこやかの様に見えた。
「あれ? ショウは何を飲んでいるのかな?」
「エ、エールです」
「エールね、よく言えました」
にこやかな笑顔を、崩さずにそっと俺の頬に手を添えてくるミズキの行為に俺は内心ほっとしたのもつかの間、思いっきり頬を引張られた。
痛みに涙しながら、俺は最後の言葉を口にした。
「ごめんなさい」
そして、俺の禁酒生活は続くのは、言うまでもない。
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