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三十七.建国祭 最終日 あの場所で


 使用人が先導して王城の廊下を歩いていると、呼び止める声があった。


 「貴方達! 少し待ちなさい」


 振り返ると火の賢者だった。賢者は人払いをしながら近づいてきた。


 「何でしょうか?」


 「名乗るのは初めてだったな、私は火の賢者クライス。これからも旅をするのだろう? 先日貴方が使ったのは魔法だった。あって不要な力ではない、どうだ? 私が基本を教えよう」


 ミズキが魔法を使え、賢者だと知れ渡れば王国の子飼いになるかもしれないと思い俺は庇うように言い放った。


 「ミズキにはそんな力は無い!」


 「そう邪険にする事はない、陛下は無理強いするような方では無いのは分かるだろう? むしろ、その様な考えを持つ者から身を守る為にも学んでおいて損は無いと陛下から命を受けて今、内密に話をしている」


 レイク王の人柄は先程の謁見で大体わかる。その王が、火の賢者に命じたとあっては無碍にする事も無いだろう。しかし、結局はミズキの意思に委ねるしか無さそうだ。

 

 「私も戦えますか? ショウ達と共に戦う事が……」


 「勿論だ、貴方が望むのならば」


 「ちょっと待って、ミズキ! わざわざ危険に飛び込むことはない」


 ミズキには、戦闘行為をして欲しくない。魔獣相手ならまだしも、人を傷付ける事で、自身の心を傷付けて欲しく無い。


 「もう見てるだけなのは嫌! 自分に力があるなら皆を守る為に使いたいの!」


 いつもの、おどおどした雰囲気は無く、ミズキは真剣な眼差しで訴えてきた。


 そうか、ミズキも以前の俺と同じような事を考えていたのか……。


 「わかった、ミズキがそうしたいのなら止めはしない」


 「ありがとう」


 「魔法は強力だ、使い方によっては一国に多大な被害を与える事が出来る。今のやりとりで貴方達は心優しい方々のように感じた。その気持ちを忘れない様にして欲しい」


 火の賢者クライスは、建国祭が終わってから稽古を始めると言いながら俺達を城門まで送ってくれた。


 「王城は凄かったけど、堅苦しくて、うちは疲れた~」


 「そうだな、宿屋に戻ってゆっくり休もう」


 「あれ? ショウ達は出掛けるんでしょ? うちは宿屋でごろごろしてる」


 メグミンの一言で、俺は今日一番大事なことを思い出した。


 王都での日々が一瞬にして過ぎ去ったみたいに感じられ、今日が建国祭最終日だった事をすっかりと忘れていた。横にいるミズキが疑う視線を浴びせてくる。


 「ああ、勿論出かけるよ、緊張して汗かいちゃったからね。風呂に入らなきゃいけないし、それに着替えないと」


 慌てて誤魔化すが、自分でも苦しいと言わざるを得ない。でも、着替えないといけないのは本当の事だから許して欲しい。


 「覚えてるなら良いけど、じゃあ、準備が出来たら宿屋の前に集合ね」


 怪しみながらも、どこか嬉しそうなミズキがそう答え、俺達は一度宿屋へ戻った。


 部屋に戻り、身体を拭き、新調した服に袖を通して、部屋にある姿鏡で確認して待ち合わせ場所に行くが、ミズキの姿はまだ無かった。


 待っている間は、とても長く感じられた。


 のどが渇き、胸の奥が締め付けられるような感覚があり、瞬きの回数が減ったようだ。


 ミズキに会ったらまず、容姿を褒めて、出店を回りながら、夕食を取り、そして、あの広場へ向って……。


 「お待たせ!」


 思考を遮るようにミズキが準備を終え姿を見せた。


 シンシアに貰ったドレスで着飾り、俺のプレゼントしたイヤリングを着けていた。一度見た光景だが、何度見ても魅入ってしまう。


 「やっぱり似合ってるよ、それじゃあ祭りを楽しもう」


 二人とも出店を巡り、出し物で楽しんだ。小腹が空き、アクセサリー屋の店員がお勧めしてくれた。店で食事をしながら思い返す。


 ここまでの道のりで、俺達は色々な事を経験した。以前の生活では、考えも及ばない様な事だ。


 全てはあの手紙が届いた日から、始まった。


 突然裸同然に放り出された世界……前の世界でも何の取り柄も無かったので俺は元から丸裸っだったが、そんな俺達は、互いに協力し何とかしようと足掻いた。


 たまたま、人柄の良い人達が近くに居てくれたから、今があると思うと俺達は赤ん坊と同じように思える。


 引きこもりやニートだった、俺達は、いや、俺は前の世界では何を目指していたんだろうな……。


 食事が終わり、俺達は歩調を合わせゆっくりと目的地の広場へと進む。


 ミズキの横顔を時折見ながら、ゆっくりとこれまでの事を確認する様に一歩また一歩と足を繰り出した。


 この世界に来て慌しくも、楽しい日々が送れた事に俺は感謝する。


 日の光は沈みかけ境目が分からなく頃、広場に到着した。


 噂の木の下には誰もいない、俺達は真っ直ぐにその場所を目指し向き合い、見つめ合った。


 辺りは途端に静寂へと包まれ、この世界には俺達しか存在しない。


 もう、言葉は必要ない。この想いを、表現するだけで良いのだと自然と身体が教えてくれた。


 徐々に近づいていく二人の距離、ミズキは少し背伸びをし、俺はそれをやさしく迎えに行く。


 月明りに照らされて、二つの影は一つに重なり合った。


 建国祭最終日の今日は、盛大な花火が打ち上がる。


 建国祭終了の合図と共に、来年もこの日が来るように願いが込められて……。


いつも読んで頂きありがとうございます!



これからの励みになりますので、宜しければ感想等宜しくお願いします!

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