三十六.建国祭 最終日 栄誉
苛烈な戦いの末、何とか全員欠ける事無く、切り抜けられた俺は宿屋へ帰るなり、まだ日が高いにもかかわらず、爆睡してしまった。
翌朝、シンシアが言っていた使いの者が宿屋を訪れ、俺達は馬車に乗込み王城へと導かれた。
「うち、王城始めてだよ! テンション上がる!」
嬉しそうなメグミンは、子供のようにはしゃいでいる。
「お礼って何が貰えるのかな? うちは、お金が欲しい」
「それを貰って何するんだ?」
「美味しいもの食べたり、洋服買ったり、色々!」
使い方の幅が狭く、とても庶民的な発想で拍子抜けな回答に、馬車の中は笑いに包まれた。
「ミズキは何が欲しいんだ?」
「私は……このまま皆が居てくれたらそれで良い」
ミズキの目線は俺に向けられており、少し照れくさくなった。
「ショウは何が欲しいの?」
「何だろうな? ミズキと同じかな」
「あのー、うちも居るんですけど、いきなり二人の世界作られると困るんですけどー!」
呆れたようにメグミンが白い目を向けてくる。俺達は、二人して顔が焼ける思いをした。
そうしている内に、王城へ着き、副騎士団長と王女付きの侍女クレアが出迎えてくれた。
「昨日の一件では助けられた。私は王国騎士団の副団長アレイスと申す。諸君らの働きによって被害が軽微で済んだ事を騎士団を代表してお礼申し上げる」
副団長のアレイスは、礼儀正しくお辞儀をしてくれた。
「この様な堅苦しい人は放っておいて謁見の間へ行きましょう」
「堅苦しいとは何だ! 礼節を重んじるのは騎士の務め、そもそもクレアは、変な所で大雑把なのだ」
俺達を目の前に、言い合いしている二人を宥める様に奥からシンシアが近づいてきた。
「はいはい、二人は幼馴染で仲が宜しいです。魅せ付けなくても良いですよ」
「「そんな事はありません!」」
十二分に息がぴったりなので、そんな二人をみて笑いが込み上がって来た。
「それよりも、陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」
軽く咳払いをして、案内を促すアレイスに続き、俺達は謁見の間へと通された。
「良く来た恩人達よ! 私はレイク王国を統べる。エドガー・アーガイストだ」
こんな場所に来るのは初めての事で、取合えず片膝を付き礼に努めた。
「諸君達は恩人だ。本来こちらが出向かねばならぬ所を、わざわざ来て貰ったのだ。そんな堅苦しい作法など止めて欲しい」
レイク王に、促されるままに俺達は姿勢を正し立ち上がった。
レイク王の傍には火の賢者が控え、隣の椅子にはシンシア王女が座していた。舞台上にいた、退屈そうにしていた人物の姿が無い、てっきりあの人も王族かと思ったが勘違いだろうか。
俺の視線が何かを探すように泳いでいるのを感じてかレイク王が口を開いた。
「昨日の男は、この場所にはおらんぞ。明朝、片田舎の統治に向わせた所だ。あの者は、私の弟でグリドと言う。前々から不審な企みをしていると思っていたが、証拠が無くてな……。それが、数日前に捕まえた盗賊ギルドの二人が口を割って、やっと確信に辿り着いた。ただ、昨日の襲撃についてはその二人も知らない様で、先の罰として王都からの追放という形に留まざるを得なかった……。私の娘を街中で助けてくれたのは、諸君達だろう?」
「はい、そうですが、薄々ながらに感じていたのならば昨日の事は防げたのでは?」
素朴に思った質問を投げかけてみた。
「いや、私もそうしようと思案したのだが、「私のお披露目は派手が良い! それに強い友人がいるから安全よ!」とか言うものでついな」
その言葉を聴いた瞬間、俺の目線はシンシアに向けられた。シンシアは恥かしそうに、そして申し訳無さそうに弁解した。
「だって、どうせするなら目立ちたかったし、それに魔人が出てくるとは思わなかったんですもの! 黙っていたのはごめんなさい。あっ、それとこの話はここだけの秘密ですよ」
やれやれと、呆れた様子で俺は首を振った。このお転婆娘は、自分の印象を強烈に民衆に残す為にこの襲撃を利用したのかと思った。しかし、それを見過ごすこの父王も、所詮は人の子で娘には溺愛らしい。
「とにかく、民衆に被害は無く、騎士団員や冒険者には軽微な怪我が合った事には申し訳なく思い、戦闘に参加した者には、恩賞を与える手筈です。予期せぬ自体にも関わらず、それを退けたショウさん達は、今や王都で語り継がれる、英雄と言っても過言ではありません」
軽く咳払いしシンシアは、口早に建前を並べだした、世の中は金か、と悪態をつけずにこれは素直にシンシアが反省している証だろうと思うことにした。
「そんなに大げさに言わなくても、俺達はシンシア王女様の友人として招かれただけです」
護衛してくれと、圧力を掛けられたのは間違い無いが、もう済んだ話だ。黙っておこう。
「謙遜する事は無い。我々だけではどうなっていた事やら……。その魔人を討伐し、我らの命と娘の命、そして、民衆の命を救ったのだ。諸君達には十分な恩賞と、ショウと言ったな、その方には特別に貴族の地位を授けようと思う」
貴族の地位だって!? それがあれば、領地を与えられる。手に余る褒賞に感じられた。しかし、それを請けるとなると領地を統治しないといけなくなる為、巡礼の旅を止めざるを得ない事になるだろうと思い至った。
「有難い話ですが、俺達は現在、騎士ガイウスの巡礼の付き添いをしております。旅を放棄する訳には行かない為、辞退させて頂きたい」
そういって断ると副騎士団長のアレイスが大きな声で驚いた。
「今ガイウスと言ったか? アイザック卿の従士だった。あのガイウスか?」
「はい、そうですが? 俺達もアイザック卿の統治するベネット村から王都まで来ました」
「おお、懐かしい名を聞いた。という事は、今は聖堂で祈りを捧げている頃だな、後で顔を出しておこう」
そういって、遠くを見つめて嬉しそうな表情を浮かべた。
「諸君達は、アイザックの領民だったか……。ふむ、これは是が非でも恩賞を与えねば私の気が収まらぬ。アイザックには世話になったからな。通りで只ならぬ者だった訳だ」
アイザック卿の名前が出た瞬間に、俺達の評価が鰻登りになって行くのを感じる。あの人は国王さえも気を使うほどの影響力があるのかと感慨に浸るも、百人斬りのアイザックの異名を思いだし気のせいだと振り払った。
「国王の名において命ずる! 巡礼の儀の役目を終えた時再び王都に寄り爵位を受けるように申し渡す。アイザックにもその旨伝えておくから逃げられんぞ」
そう言われてしまっては、もう断るわけにはいかない。承諾するのと共に心に残っていた事を、吐露した。
「わかりました。有難く拝命いたします。お時間が宜しければこの旅で感じたある事を相談したいのですが……」
俺はその時、スクラの街で感じた事を必死に順序立ててレイク王に伝えた。
先程までの陽気な場から一気に皆の顔付きが真剣なものへと変わるのを意に介さず話し進めた。
「その様な下衆な存在が少数いるのはわかっていた。私も、出来る事ならやめさせたいが好んで奴隷の身に堕ちる者達もいるのだ。数十年この椅子に座っているが、未だにその答えがわからぬ。諸君達の仲間と思しき者がいた場合は、保護すると約束しよう」
レイク王も悩んでいるのだろう事は真摯に伝わってきた。俺はそれに深く感謝し俺達だけに分かるであろう言葉を伝えた。
「その【にっぽん】という言葉に、反応を示す奴隷がいれば、アイザック卿と連絡を取り保護しよう」
「有難う御座います。陛下」
「私からは以上だ。また、王都へやって来る事を楽しみに待っているぞ。恩人……いや、英雄達よ」
最後にその様な言葉を残し、レイク王は奥の部屋へと退室していた。
シンシア達にも軽く挨拶を交わし俺達も帰ろうと踵を返した。
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