表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/104

三十五.建国祭 二日目 対決

おかげさまで十万字突破しました! 




 メグミンと共に、シンシアに背を向けて魔人と呼ばれる者と対峙する。シンシアが後ろから俺に声を掛けてきた。


 「ショウさん、魔人をご存知ありませんか?」


 「ない! 人じゃないのか?」


 「いえ、元は人間です。魔鉱はご存知ですね? 魔獣の核の様なものです。それを人の体の一部に埋め込むと、基本的には想像を絶するような痛みで我を失い廃人となるか、死亡してしまうのですが、稀に意識を保ったまま行動出来る者がいるのです。その様な者の事を総じて魔人と呼びます」


 「なるほど……それで、どうして皆慌てているんだ?」


 相手は今にも飛び掛ってきそうな雰囲気を出しているので、俺は矢継ぎ早に、質問した。


 「それは、魔鉱の力が人間に流れ込む為、人よりも数倍強くなるのです。例えば、Cランクの者が、Aランク以上になるとか聞いております! 私の事はもう良いです! ミズキさん達を連れて逃げてください!」


 Aランク以上だって? 俺のランクと同等以上じゃないか! つまりは、通常の人の動きでは無いと言う事か。しかし、シンシアの言葉に耳を傾ける訳にはいかない!


 「王女はこの場で殺す! 俺にはもう後が無いんだ!」


 只ならぬ雰囲気を、漂わせ目にも止まらぬ速さで迫って来る魔人に対し、俺は瞬時の判断で『身体強化』を発動し、シンシアに向けられた短刀を受け止めた。


 重い! 『身体強化』をしていなければ今頃麩菓子の様に脆く崩れ落ちていただろう。


 余りにも、強烈な一撃だった為俺よりも先に、舞台の方が大きな音を立てながら崩壊した。シンシアの事も気になるが今は余所見をしている場合ではない!


 「お前は、あの時邪魔した冒険者か! また、俺の邪魔をするか、殺してやる!」


 魔人は、魔獣のような呻き声を高々と上げると、人の姿から魔獣寄りの姿へと変貌していった。


 衣服は破れ去り、上半身には鱗の様な物が現れ、背中には羽のような物が生えていった。


 「あの特徴は、ワイバーン! あの魔鉱はワイバーン種の物なのか!」


 崩壊した舞台の瓦礫をどかしながら、賢者が近づいてきた。


 「あんた賢者なんだろ? 魔法で何とか出来ないのか?」


 「私は、火の賢者だ。火属性のワイバーン種には効果的な攻撃は出来ない。防壁(ファイアーウォール)で防ぐことは出来るだろうが、時間稼ぎにしかならん。敵は私の事を良く知っている人物か……?」


 「何をごちゃごちゃ言っている! さあ、祭りの始まりだ!」


 騎士団や冒険者達は、魔獣を相手にするのと民衆の避難で手一杯の様子だ。舞台付近には、王族、副騎士団長、賢者、俺達しか居ない。


 賢者は魔法で魔人の攻撃に備え、副騎士団長は王族を背に守りの体制、攻撃できる者は俺達だが、ミズキは無理で、メグミンも及ばないだろうと考えた。


 実質俺しか、魔人と相対出来る者がいないと瞬時に悟った。


 魔人は異様な波動を口元に集め一気に放出すると、炎の大砲が放たれた。


 後方では、賢者が防壁ファイアーウォールを展開し、舞台付近に居る者を包み込む。俺は、『快刀』のスキルを発動し、迫り狂う炎弾を弾く様に衝撃波を叩き込んだ。すると、炎弾は空高く弾け飛び霧散していった。


 成功して良かった! 半ばもう駄目だと諦めながら放ったが、どうやら通用するようだ。これならばと、自信に満ちた面持ちで、魔人に対して攻撃を仕掛ける。


 一足で魔人の懐に入り、胴を真横に一閃する。


 キイィィィィィン! 高らかに金属同士が叩き合ったような音が鳴り響く。


 「ふん! お前の速さには驚いたが、魔人と化した俺の皮膚はワイバーンの外皮と同等だ。そんな鉄の塊では傷一つつかない。お前はてこずりそうだから最後だ! まずは、王女を狙う」


 そういって、俺を突き飛ばした後、背中の羽を羽ばたかせ、空高く飛んでシンシア達のいる所へ向かっていった。上空から炎弾を次々に放っている。


 ワイバーンという魔獣はこれ程までに、硬いのか。それにこの飛翔能力はまずい! 賢者の力がどれ程のものか分からないが、そう長くは保てそうに無いのだろう、苦しい表情をしている。


 あの場所には、シンシアが、メグミンが、そして何よりミズキがいる。やっと、想いを伝えられる所なのに、このまま終わらせてなるものか!


 『快刀』のスキルを使い、大きく目にも止まらぬ速さで一閃すると、周りの大気を巻き込みながら真っ直ぐに魔人へと向っていった。


 上空にいる魔人は己の力を過信してか、地上で素振りをしている俺には目もくれず、煌々とした目で防壁(ファイアーウォール)を崩すのに勤しんでいる。


 左の胴から入った斬撃は、魔人の右肩の方へ、するりと抜け途端に下半身が地に落ちた。


 「なん……で?」

 

 そう言いながら、残りの半身も力を無くし追いかける様に落ちていった。


 もしかしたら弾かれるかも知れないと思い、最大限の力で振り切ったのが良かったのだろうか上手く撃退する事が出来た。


 魔獣達を討伐していた、騎士団や冒険者達も終わったようで、最後の瞬間、固唾を呑んで見守っていた。魔人が地に落ちた瞬間、大きな歓声が沸き上がった。


 その様子を見て、賢者が防壁を解除する。すぐさまミズキが、俺の傍まで走ってきて抱きしめてくれるのを、俺はそのまま身を委ねた。


 「ショウがやられたらどうしようかと思った。無事で良かった」


 「ミズキがやられたらどうしようかと思った。助けられて良かった」


 お互い顔を見合わせ笑いあった。


 「そう言うのは、二人の時にしたら如何ですか?」


 シンシアが、微笑ましいものを見る様に皮肉を言ってきた事でお互いに恥かしくなり距離をおいた。


 「しかし、あの魔人に勝利するとは、貴方は一体……?」


 賢者が言いかけたその時、魔人が転がっている辺りから、炎の弾が飛んでくるのが目に見えた。真っ直ぐにシンシアに向っていく。咄嗟にシンシアを突き飛ばし、代わりにそれをこの身に受けた。途端に視界が霞み最後に見えた光景は、ミズキの泣き叫ぶ表情だった。


 ――ん? 何だか温かいな、この感じ前もどこかで? 顔の方に、雫が垂れるのを感じ、薄っすらと意識を取り戻した俺の目の前には、大粒の涙を流しながら覗き込むミズキの顔があった。


 ああ、以前してくれた膝枕をしてくれているのかと思い返した。以前と違うのは、ミズキの周囲が青く幻想的な光を纏っている所だろう。その光は、球体となって俺の身体へと浸透していくように見えた。


 死後の世界かと、錯覚させるほどの光景だった。魔人の攻撃が命中したであろう部分を触れてみるも傷口が塞がっている様だ。


 「これは、癒しの魔法? この娘は、魔法が使えるのか!」


 火の賢者は驚きを隠せない様子であった。


 「あの魔人は!?」


 俺は先程の事を思い出し身体を起こしながら、問いただした。


 「あれが、最後の攻撃だったのだろう、跡形も無く消滅していった」


 俺は安堵し、再びミズキの膝元へと倒れこんだ。


 「もう、無茶ばっかりしないでよ……」


 泣きじゃくるミズキの頬に手を当て、もう大丈夫と言わんばかりに微笑み返した。


 「三度助けて頂いて、有難う御座います。ショウさん達は、明日、使いの者を送りますので王城へいらして下さい。そこで、今回の礼を尽くしたいと思います。今日は、ゆっくり休まれるのが良いでしょう」

 

 シンシア達は、そう告げると、広場の整備に必要な数の騎士団員を残し、王城へと帰っていった。

 

 「二人とも無事で何よりだ」


 「うちらは、無事だったけどショウはその血だらけの服どうにかした方が良いよ」


 改めてみると、俺の服は血痕で汚れていた。死んでも可笑しくない位の傷だったのは容易に想像がつく。


 「ミズキが治してくれたのか?」


 「分からない、ショウが死んじゃうと思ったら、突然辺りが光りだしてショウの傷口が、塞がっていったの」


 「そうなのか? でも、助かった礼を言っておくよ。ありがとう」


 ミズキの膝枕に別れを告げ俺達は、広場を後にする。周りの騎士団や冒険者達のお陰で、多少の怪我人は出たものの、民衆に死人は出なかった。


読んで頂きありがとうございます。


宜しければ今後の励みになりますので評価、感想等宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ