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三十二.建国祭 初日 想いは伝わる?


 薄暗い部屋の一室に、横柄な態度で椅子に座る者とその傍らに控える者、片膝をついて頭を垂れる者と、三名の姿がある。それぞれが、フード付きの外套を身に纏い、表情を伺うことは出来ない。


 「この度は、王女襲撃に失敗してしまい申し訳ありません。何卒もう一度だけチャンスを……」


 片膝をついている者は、椅子に座る者に懇願する。


 「これだから、そこら辺の盗賊ギルドの奴は信用ならん。猫の手(キャットハンズ)の連中が使えればまだましだった物を、あの男が、私欲の為に使いその依頼が失敗、あまつさえ反旗を翻されるとは。お陰で、猫の手(キャットハンズ)との連絡もつかん」


 「何分妙なスキル持ちが居合わせまして、途中までは上手く行っていたのですが……」


 「言い訳は良い、それで次はどうする? もう、後は無いぞ!」


 「はい、残されたチャンスは二日目のお披露目の時しかありません……」


 「分かっていると思うが、私はお前など知らないし、この事にも関与しておらんぞ?」


 「は……はい、重々承知の上です」


 片膝をついている者は、額から冷や汗を流しながらそう言うと、部屋から出て行った。


 「ふん、まあどちらに転んでも私の腹は痛まぬ、あの王女が居なくなれば……」


 「しかし、王女を亡き者にしても、まだ王が存在しますが?」


 「後は、派閥の勢力が上回ればどうとでもなる。世継ぎさえ居なくなればこちらの物だ。その時は、貴方も力を貸してくれるのだろう?」


 「勿論。我々の理想の為に……」


 不気味に響き渡る笑い声に呼応してか、窓から見える月に重苦しい雲が覆いかぶさるのが見えた。


 ----


 ちゅん、ちゅん。


 鳥の鳴き声と共に、窓から薄焼けた光が差し込んでくる。


 眩しさの余り、俺が寝返りを打とうとすると、何かに邪魔されて動けなかった。


 ふと、薄目を開けると掛け布に不自然な膨らみがあるのが見て取れる。掛け布の中を少し覗くと中には寝息をたてているメグミンがいた。


 んー? どういう状況だ? 確か昨日はエールも飲んでないし、三人で宿屋に帰って、別々の部屋に入ったのは確実だ。そして、今に至る訳だが、全くいつの間にこんな状況になっていたのか分からない。


 メグミンの身体は、俺の右半身を抱き枕替りにして、絡み付いている。それにあろう事か、メグミンの手が、俺の息子(ピクシー)に添えられている様に思える。


 これは、まずい状況になった。ただでさえ、朝一番の男の子は大変だというのに、女の子に密着され、ましてや、手が当たっているとなると、元気一杯にならざるを得ない。というか、もう既に羽を生やして飛んでいきそうな勢いだ。


 今何時位だろうか? 朝はいつも皆揃ってから朝食を取に行くので、もしかしたらミズキが尋ねてくるかもしれない。いつもの感じだと、この状況を見られる、殴られる。そして、謝る。


 待てよ、今回は俺が悪いわけじゃないので謝らなくても良いのではないか? だけど、何だろう……ミズキに見られるのが非常に心苦しいというか、後ろめたい気持ちになる。


 もう少し、温かさを感じていたい所だが、メグミンを起こそうとした時、扉がノックされて、声が掛かる。


 「ショウ、起きてる? メグミンが起こしに来た筈だけど? 開けるよ?」


 「あっ、ちょっと……」


 返事をする間もなく、ゆっくりと開放されていく扉を横目に、慌てて起き様と、もがいた結果メグミンの手が俺のズボンに引っ掛かり、元気一杯な息子(ピクシー)が、露になった。それを隠そうと必死でズボンを上げ様と試みるも、無残に扉が開放された。


 ミズキ目線では、メグミンに促されるままに俺がズボンを脱いでいるように写った事だろう、少しの沈黙がその空間を支配した。


 「これは、ちが……」


 「邪魔してごめんね」


 俺の発言を遮る様に、ミズキは勢い良く扉を閉め走り去っていく音が聞こえた。扉を閉める瞬間、ミズキの目には涙が滲んでいる様に思えた。


 「んー、うるさいな。おはよう、ショウ」


 「何がおはよう、だ。メグミンは起こしに来たんじゃないのか? どうして隣で寝ている」


 「気持ち良さそうだったから? それよりも、凄いことになっているよ」


 メグミンの面前には、息子ピクシーが陣取っていた。顔色一つ変えず俺の物をじっと見つめる辺り、経験者かと思うも、ニートと引篭もり集団だと言う事を思い出し、ネットで観たのだろうと思い至った。


 それよりも、今はミズキの誤解を解かなければ大変な事になるような気がする。


 「この状況を見て、ミズキが変な誤解して飛び出していったんだ。メグミンも探して来てくれないか?」


 「ショウってば、いつもミズキが、ミズキがって言っているよね?」


 「そんな事ない……と思うけど? とりあえず早く追わなくちゃ」


 そういって、二手に別れて探してみるもまだ見つかっていない。  


 俺は、二日目のお披露目の際、メグミンが王女の傍に付くことを伝鳥に託してから、ミズキの捜索を始めた。


 昨晩は、前夜祭と称して王都の明かりは消えることは無かったようだ。朝だというのに、道端で寝ている人が所々目に入る。夜通し騒いで、飲んで、を繰り返して力尽きたのだろう。


 「さてと、何処を探すかな」


 そう、呟きながらメイン通りを進んでいくと、出店が所狭し並んでおり、前の世界で言う縁日の様に人の道が出来ていた。


 ちょっと、ここを通るのは精神的に大変そうだ、それにこの中から探し出すのは至難の業だろうと思え、闇雲に探しても、埒があかないだろう。


 そこで少し頭を使うことにした。ミズキの行きそうな所か……王都に着いてまだ詳しくない俺達はせいぜい今日までに行った場所以外行く所は無いだろうと考え、昨日一緒に行った場所を巡ってみようと思い、まずは、アクセサリー屋へ足を運んだ。


 「いらっしゃいませー! あら? お客さんは昨日の?」


 出迎えてくれたのは、昨日イヤリングを買った際にいた店員だった。詳しく言っても、セクハラだの変態だのと言われたくないので、連れの一人を探しているとだけ伝えた。


 「ああ、あの女の人なら来られていましたよ。昨日来た時とは印象が変わっていたので覚えています。貴方が来られる少し前に出て行かれました」


 印象が変わったというのは、ミズキの髪の事を言っているのだろう。俺も最初見た時は目を奪われたものだ。それにしても、俺の考えはやっぱり正しかった様だ。


 「あっ! イヤリングどうでした? 上手く渡せましたか?」


 「それは、問題なく渡せたて建国祭の最終日に一緒に回る様に約束なんだけど……」


 「最終日に!? ふふっ、お客さんこれはプレゼント効果ありですね」


 「え? なにが?」


 理由を尋ねると、何でも以前建国祭の最終日にとある男女が壮大な恋愛劇を繰り広げた挙句、ある場所で愛を誓い合ったそうだ。そこで、告白やプロポーズをするとその男女のように永遠に結ばれるとかなんとか。


 何処にでも転がっていそうな迷信話だが、その男女について俺はどっかで聞いた事があったが今はどうでもいい。


 「それで、その場所というのは?」


 「東南の方角にある、広場に大きな樹木が一本あるのですが、その下で沈む夕日を見ながらだそうですよ」


 「ありがとう心に留めておくよ」


 頑張ってください! と、鼻息が荒い店員さんを尻目に、俺は店を後にした。


 取合えず、その広場に行ってみるか、昨日の順路を辿っても良いが、何かその広場にいそうな気がする。


 教えてくれた通りに道を進み、開けた広場にたどり着いた。そこは、少し高い位置にあり王都が見渡せるいい場所の様に思えた。


 そこには、ベンチに座る一人の姿があった。


 「探したよ、ミズキ」


 振り返ったミズキの目は少し腫れている様だった。俺が居る事に驚いたのだろう、呆気にとられている様子だ。


 「どうして、ここがわかったの?」


 「勘かな……それよりも、今朝の事は誤解だ! 俺の話を聞いて欲しい」


 アクセサリー屋に聞いたことは黙っておこう、その方が格好良さそうだ。そう、ここでは少し見栄を張りたいと思う。


 続けて、今朝の事をミズキに一から説明した。


 「そう……だったんだ、二人は仲が良いからてっきりそういう関係なのかと思っちゃった」


 えっ、それで何でミズキが泣くの? いや、もう気付かない振りはやめよう。今朝メグミンに言われた一言を思い出す。


 俺は柴田にミズキが襲われた日からずっと、ミズキの姿を目で追っていた。最初は、護ってやらないといけないと思い見守っていた。しかし、それも自分に対する言い訳にしかならない。


 最初に川辺で見たミズキの表情をずっと忘れられないでいた。旅に出る前の村での日々ではずっとこうして、カオル君達の様に夫婦になり子共が出来て生活するのも悪くないと思っていた。ハインドに連れて行かれそうになった時は、胸が張り裂けそうになった。


 ただヘタレな俺は、ミズキの俺に対する想いも薄々ながら気付いていたにも関わらず、自分を誤魔化していた。この関係が壊れてしまうのじゃないかと、この距離感が二度と手で掬う事が出来ないのではないかと知らない振りをしていた。


 ミズキは、先日勇気を振り絞ってくれた、今度は俺が自分の心に正直になろう。


 「その、まだ間に合うのなら……良かったら最終日に俺と二人でここに来ないか?」


 「はい! よろしくお願いします!」


 腫れた目を少し擦りながら、満面の笑みで答えてくれる。 


 俺は取合えず緊張と不安から開放され安堵した。お互いの想いはこれで繋がっただろう。しかし、これは本番では無い本番は最終日だ。今回以上の緊張が俺を襲ってくるだろう。


 その前に服装とお店を、何とかしないといけない。お店はアクセサリー屋のお姉さんに聞けば目を輝かせて教えてくれるに違いないから、問題は服か……午後からでも探しに行って見るか。


 明日の王女護衛の事も忘れてはいない、何事も無く最終日が来ることを祈りながら、ミズキと共に一旦宿屋へと引き返した。


 メグミンには、昼食を奢って貰う事でミズキと意見が重なった。昼食時のギルドでは、メグミンの悲痛な叫びが響き渡った。 

   

いつも読んで頂きありがとうございます!



これからの励みになりますので、宜しければ感想等宜しくお願いします!


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