三十一.建国祭 前夜
俺とミズキは、王城を出てメグミンが待っているであろう宿屋に向った。
ガイウスと柴田は、聖堂で巡礼の儀を準備しているため、宿にはメグミン一人しかいないのだ。
城内での出来事があり、お互いに変な距離感で、道中を進む。
建国祭の最終日に誘われたと言う事は、これは完全にデートになるに違いない。出来れば良い思い出になる様に勤めたい。明日は建国祭初日だから、街のリサーチとこのゴロツキの様に見える服を何とかしなければいけないだろう。ミズキは、シンシア王女から貰ったドレスで来るだろうからな。
「メグミン心配しているだろうな、もう夕食取ったかな?」
「どうだろうね、こう言う時スマホがあれば便利だよね」
この世界に大分慣れたとはいえ、やはり連絡手段には困る。伝鳥を飛ばしても数日は掛かるのだから、急ぎの用件は中々上手いこと伝わらない。
ふと、携帯電話の無い時代の事を思い出した。昔は、友達と特に集合場所を決めていなくても不思議と息が合ったように集まれたものだ。
現代社会においては、直ぐに連絡が取合えるが中々会えないという不思議な現象が多々あるように思える。まあ、これは当日の気分にもよるし、予定が重なったら楽しそうな方に行くのは仕方がない。先に約束した方を優先するのが人道的には良いと思うが、人の行動まで強制することは難しいだろう。
俺自身は、誘われた事は余り無いので関係ない話だ。そういう話を、クラス内、又は学部内で聞いただけだ。この話すらも、俺に向けられた声では無く、ただ聞こえただけだった。泣けてくる、もう思い出すのはやめよう。
今は、前者の状況なので相手の事を深く考えるようになっていると思う。取合えずメグミンに早く会って安心させないと行けない。
ようやく宿屋の前に着き、扉を開けようとすると勢い良く開け放たれた。
その瞬間、中から飛び出してきた人物と俺はぶつかり、お互いに尻餅をついた。
同時に苦痛にゆがむ表情をしながら、相手に目をやると、そこにはメグミンがいた。
「二人とも大丈夫?」
ミズキが倒れた二人を交互に見ながら問いかけてくる。
「あー! やっと帰って来た! 中々帰ってこないから探しに行く所だったんだよ!」
「ごめん、ちょっと、色々あって遅くなった。メグミンは凄く慌てていたみたいだけどなんで?」
尻餅をついた当りを軽く払いながら、立ち上がりまだ座り込んでいるメグミンに手を差し伸べながら聞いてみた。
「だって、宿屋に戻ったら、今日路地裏で女の子が襲われて怪しい男女が連れ去ったって噂話を聞いちゃって、ミズキ達の事かもしれないって……」
ミズキと軽く目を合わし、一斉に笑いが込みあがってきた。
どういう事? と、疑問符を浮かべた表情のメグミンに笑いを堪えながら話し掛ける。
「メグミンは、夕食食べた?」
「まだだよ! うちは二人が何かやらかしたと思って、それ所じゃ無かったし、それなのに、二人して笑って酷いよ!」
「心配掛けてごめん、それじゃ、夕食でも食べながら説明するよ」
むくれるメグミンを連れてギルドに向かい、三人でテーブルを囲って一段落した所で、今日一日あった事を説明した。
噂話とは、当てにならないもので、危うく俺とミズキが誘拐犯にされてしまう所だ。実際は、襲われていたシンシア王女を助けて、一緒に王都を散策したという流れだけど、やっぱり俺の服装がゴロツキに見えるのかと内心傷ついてしまった。
「本物の王女様にあったの!? 良いな~二人だけ、私も見たかったな」
「メグミンも会えるぞ、二日目のお披露目の時に、是非来て欲しいそうだ。それで、メグミンには『隠伏』のスキルで、王女の傍に控えておいて欲しいんだ。王女には俺から伝鳥で伝えておくから」
「え~、何か物騒な話なんだけど!」
「一応ね、一応、王女を近くで拝めるし、あの王女様ならご褒美があるかも知れないぞ」
「ご褒美! 分かった。王女様の傍にいたら良いんでしょ」
何て現金な奴だ、ご褒美と聞いた瞬間に目の色を変えたぞ、でも、メグミンを誘えたのは心強い。ミズキは戦闘には向いていないし、俺一人では対処できない事があるかもしれないからな。
シンシア王女に去り際に頼まれたのだ、友人としては無下には出来ない。まあ、この考え方も王女様の掌だと考えると末恐ろしいが、そうではない事を祈ろう。
「そうだ! ショウは、今日から一人で寝るんでしょ? 寂しかったら、うちらの部屋で寝ない?」
メグミンは、とんでもない事を言い出した。確かに、今ガイウスと柴田がいないので俺は、三人部屋に一人だが、その提案はどうかと思う。だって、女子部屋に、男一人とか魅力的……じゃなかった、色々とまずい気がする。
「いやいや、広い部屋を一人で使えるなんて、めったにないから堪能させて貰うよ」
やんわりと、魅力的な提案を断ったが、シンシアの言っていた(寝室は二人で一つ」の言葉を思い出し少し顔が赤くなるのを感じた。ミズキも同じ事を思ったのだろう、俯いて耳まで赤く染めていた。
「ん~? 冗談なのに二人とも反応が変じゃない?」
「そんなことない!」「そんなことないよ!」
妙に重なり合った反応を返し、さらに訝しげな表情で見て来るメグミンだったが、聞いても答えてくれそうにないとみるや、まあいいかと、諦めたようだった。
メグミンが怪しむのも無理はない、王城でミズキとの出来事までは話していないのだ。家族間にでも、何かしらの理由が合って言えない事の、一つや二つはあるだろう? それと一緒だ。
「じゃあ、もう夜も更けて来た事だし休もうか。この建国祭を明日から楽しもう」
そういって、締めくくり俺達は、宿屋へ帰り床についた。
明日は、忙しくなりそうだ、朝一番に伝鳥でシンシアに連絡とって、最終日に向けての服を購入して、デートの為にお店のチェックだ。道すがら面白そうな催し物があれば、やってみたいし楽しくなりそうだ。
遠足前の少年のように色々考えながらも、俺はいつの間にか深い眠りへと落ちていた。
いつも読んで頂きありがとうございます!
これからの励みになりますので、宜しければ感想等宜しくお願いします!




