二十九.おてんば娘?
俺達は、悲鳴のする方へ駆けて行き、視認出来る距離まで来た。
そこには、外套で身を覆った三人の人物と、深く帽子を被った小柄な女の子がいた。どう考えても、その子が助けを求めたのだと判断した。
俺は、『身体強化』を発動し、女の子が対峙している奴らとの間に瞬時に滑り込むようにして割って入った。
「大勢で女の子を囲んで、何をしてるんだ!」
相手を威圧するように言葉を浴びせると、三人の内の二人が同時に短剣で襲い掛かってきた。
くそ、やっぱりこうなるか。しかし、抵抗しないわけにはいかない、俺は剣を抜き、そのまま横に一閃する。
その剣は、見事に空を切った。俺が剣を抜く姿を見て相手は一瞬立ち止まり、間合いから外れたのだ。
見事に空振りした様を見て、威勢良く飛び出して来た癖に、こいつは素人で弱い奴だと思われ、半ば呆れられた様に鼻で笑うのが見て取れたが次の瞬間、相手の二人は重い壁にでもぶつかった様に弾け飛んだ。
そう、俺は一閃する時に『快刀』のスキルを使って、衝撃波を相手に放っていたのだ。
相手から見ると、空振りする姿はとても滑稽に見えたに違いない。内心上手く行って良かったと思っている。真っ二つになったら、後ろの女の子にトラウマを刻んでしまうかもしれないからね。
残りの一人は、呆然とその様子を見ていて、俺が得体の知れない奴だと分かると、一目散に逃げていった。
騒ぎを聞きつけ、衛兵が集まって来ると、女の子は近くにいたミズキの後ろへと隠れたので、俺が替わりに事情を説明し、地面で唸っている二人を引き渡した。
「もう、大丈夫だよ」
衛兵もいなくなり、やさしく女の子に声を掛ける。その言葉と共に、その子は帽子を取った。
帽子の中で纏められていた長髪は、金色の輝きを放ちながら、ふわりと舞い降り、その顔は正に絵に描いたような美少女であった。
「助けてくれて、ありがとう! 私の名前はシ……シア……アーシア! よろしくね」
「アーシアはどうしてこんな所に一人で?」
「連れが居たんだけど、はぐれちゃって……街に来るの初めてだったから」
「迷子か……実は俺達も迷子なんだ、じゃあ、一緒に行こうか」
うん! と頷くアーシアを引き連れて、衛兵達が行った方へと歩を進めると何とか大通りに出ることが出来た。
大通りに出るとアーシアは、また深く帽子を被った。この世界にも美白を重んじる考えでもあるのだろうと深くは考えなかった。
「じゃあ、連れの人を探さないといけないな」
「ううん、ここまで来れたらいつでも帰れるから、私、お姉ちゃん達と散策したい!」
まあ、そう言うならと、俺達もまだ散策の途中だったので別に構わなかった。
アーシアが、お腹を鳴らせた事で、俺達も昼食を取ってない事を思い出し、近場の店へ入った。
俺達にとっては、いつもの朝食だったが、アーシアはこれは何? こっちのも美味しそう! とはしゃいでいた。
ミズキが、良かったら少しずつ分け合いっこしながら食べようと提案し、大いにアーシアは喜んでいた。
お腹も膨れた俺達は、それからも街の散策を続けて、色々な店を回った。
ミズキはアーシアの面倒をよく見ていて、側から見ると昔のミズキとナッチャンを思い出す。
「そういえば、私助けてくれた時これ拾ったんだけど?」
そう言って、アーシアは、ポケットから小包みを取り出した。
俺は、あっと思い自分のポケットを弄るも、何も無い。アーシアが今取り出した物は、俺がミズキに渡そうとしていたイヤリングだった。
「それ、俺のなんだ。拾ってくれてありがと」
「ショウ、そんなのいつ買ったの?」
アーシアから小包みを受け取ると、ミズキが疑問に満ちた顔で、聞いてくる。
それはそうだ、ミズキがいる時に買った物では無いのだ。
そう尋ねられると、ミズキの為にわざわざ買いに行った事が無性に照れくさくなる。
だが、2人っきりで渡すよりこの流れで、渡した方が少しでも緊張しなくて良いと思い流れに身を任せた。
「これ、ミズキに似合うと思って買ってたんだ」
「え? えー!? あっ……ありがと」
突然のプレゼントに驚きを隠せないミズキは、自分の表情を悟らせない為に、前髪で必死に顔を隠そうとしていた。
しかしながら、耳まで真っ赤になっているのと、口元が緩んでいるのが見て取れるので相当嬉し恥ずかしいのだろう。
そう言う態度を取られると、こちらも小っ恥ずかしくなり俯いてしまった。
側からその光景を見ているアーシアには、二人でもじもじしている様が、目に映っただろうと思う。
「ふーん、二人はそう言う仲なんだ!」
「ちがうよ!」 「どう……なのかな?」
えっ? ミズキは何で濁すの? まさか、俺の事好きなの? いやいや、勘違いしては駄目だ。三十歳童貞の俺は、直ぐに自分の良い様に解釈をしてしまう。
ミズキの今までを思い返してみろ、急に不機嫌になったりはしてもデレた事は無いじゃないか、どちらかといえば嫌われているのではと、思っている。
俺が否定したから途端に、ミズキの表情が膨れ上がっていくのを感じる。ほら、何が気に入らないのか俺にはこれからも分かりそうにない。
それを見ていたアーシアは、俺からミズキを引き剥がし二人だけで内緒話をしている。
「やっと、見つけましたよ!」
突然、大声をあげてくる女性がいた。彼女は一目散にアーシア目掛けて走ってきた。アーシアも彼女に気付き逃げようと試みるも間に合わず、その女性にこれでもかと言わんばかりに、手を掴まれていた。
「もう! 少し目を放した隙に路地裏へ走って逃げて行くなんて! 御身体に何かあったら私の首は今頃地に転がっている所ですよ」
「だって、クレアは私の行きたい所へ入らせてくれないじゃない! せっかく、こっそりと街中に出てこれたのに、これじゃいつもと変わらない!」
クレアと呼ばれる女性は、アーシアの連れ人のようだ。会話の内容から察するにアーシアはどこかの貴族令嬢なのだろうと思われる。
「私は、御身の為を思って仰っているのですよ? 現にゴロツキのような見知らぬ方と一緒ではありませんか」
ゴロツキだって? 旅を続けてきたのでお世辞にも綺麗な格好とは言えないかもしてないが、結構傷つきますよ。それに、そこまで虫を見る様な目で睨まれると、「有難う御座います」と、口走ってしまいそうになるからやめて欲しい。
「ショウ達はね、私を暴漢から助けてくれたのよ! 誤りなさい!」
「暴漢から!? それは、大変失礼致しました。しかし、噂はやはり本当のようですね。シンシア様ここは直ぐに帰り報告しなければ……」
シンシア? アーシアの事を言っているのだろうか? 俺達は、アーシアの方を疑問の表情を浮かべながら眺めた。すると、アーシアは、軽く咳払いをしながら語りだした。
「この度は、助けて頂き有難う御座います。偽名を名乗った事を深くお詫び致します。私は、シンシア・アーガイストと申しまして、父はこの国の王を務めています」
先程の子供っぽさが無くなり、凛とした佇まいで語りかけてくる女の子は、この国の王女だと告げてきた。
俺とミズキは、互いに目を合わせこの話に戸惑いを隠せないでいた。取合えず、その場で方膝を付き謙る。
「王女様とは露知らず、数々のご無礼をお許し下さい」
「やめて下さい、ショウさん、ミズキさん。この様な場所では、目立ちますし何より、二人は恩人です。それに、この街を一緒に散策出来て、私は楽しかったですよ」
シンシアは、身分が分かる前の態度に直して欲しいとせがむ様に言うので、仕方なく今までと同じ態度をとる事にした。
「確か、アーシア……シンシアは、建国祭で、お披露目があるとか聞いたんだけど?」
「そうなの、私はあまり気が乗らないのだけど社交会的な感じで仕方なく。皆に顔がばれたら、街に出る事が出来なくなるじゃない? だから、今の内に堪能したかったのよ」
どうやら、この王女様は城から見える景色に憧れて、庶民の暮らしに触れたいと思い抜け出してきたようだ。
「二人には、友人として是非城に来てもらいたいと思います。特に、ミズキさんには必ず来てもらいますから」
そういって、シンシアはクレアに合図して一台の馬車を手配させた。
クレアは、少し呆れた様子で従っている様子だった。破天荒な感じの王女様の相手は、さぞ、心労が絶えないのだろうなと思いながら、促されるままに俺達は馬車に乗込んだ。
更新が遅くなり申し訳ありません。
年度末は色々とお忙しいかと思いますが、体調には気をつけてください。
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