二十七.開花
宿屋に荷物を置き、俺達は夕食をとる為にギルドへと向う。
どのギルドも酒場と併設されているとガイウスが言っていたので、スキルの相談も兼ねていた。
途中、街中を通った訳だが、祭りの準備に忙しいらしく出店やら、飾りつけ等で街人の忙しない声があちらこちらから、飛び交っていた。
ギルドへ到着すると、俺はまず先に相談をしに受付へと向う。残りの皆は先に夕食をとって貰う事にした。
受付に近づくと見覚えのある顔があった。
「あれ? アイディアール城下町のギルドにいたよね?」
アイディアール城下町にいたキャリアウーマン風の事務が似合う女性が、そこにはいた。
「ああ、彼女は私の妹です。良く誤解されて、聞かれるんですよ」
どうやら、瓜二つの双子らしい良く見ると彼女には涙黒子があり、それが目印なのだとか。
「そうだったんだ、驚いたよ。それで質問があるんだけど……」
一通り俺の新しいスキルについて説明が終わると、もう一度ランク付け用の装置で計測してみましょうと提案される。
そこで再び手をかざす。すると今度はAランクと表示された。
「え? なんでランク上がっているの? 修行っぽい事も何もしてないのに」
俺が不思議そうな顔で受付嬢に問いかけると、淡々と説明してくれた。
「ショウ様のスキルを見る限り、ギルドが把握しているどのスキルとも一致しませんので、固有スキルだと思われます。固有スキル持ちは、歴代騎士団長の他ごく一部の方のみとなります。恐らく以前ランク付けの査定を行った際は、開花しておらず、B判定が出たのだと思われます」
「えっ、それじゃあ俺しか使えないわけ? アイザック卿も固有スキル持ち?」
「はい、ですのでスキル名は、ご自分で決めて下さい。こちらで登録しておきますので、ちなみにアイザック卿は、『獅子奮迅』という固有スキルをお持ちです。それはもう、獅子の如くご活躍なさったとか聞き及んでおります」
獅子のアイザックの由来は、固有スキルから来たのかと納得するも、どれ程の激しい戦いぶりか想像せざるを得ない。しかし、命名するとなると何が良いだろうか? ハインドとの一件で、鋭い切れ味だった事を思い出し『快刀』と名付ける事にした。
「固有スキルは、総数が少なく強力な場合が多い為、必然的にAランクになります。固有スキルの事を説明してなかった、妹には後で説教の手紙を送っておきます。申し訳ありませんでした」
そう告げて、笑顔で言ってきた受付嬢に対し、お姉さんの得意スキルは? と伺うと、笑顔です! とはっきりと宣言した。さすが、双子だと感心し別れを告げた。
腹の虫が鳴るのを感じて、皆が座っている席へと向う。
「あっ、ショウお帰り! どうだった?」
「ああ、俺のは固有スキルなんだって」
メグミンに聞かれ、皆に事情を説明した。ガイウスが、騎士団に入らないか? ショウなら団長も目指せるとしつこく誘ってきてうるさかったので、エールを一口飲ませ眠ってもらった。
柴田は自分もまだ開花していないのだと息巻いており、無双の夢を熱く語りだしたのでラジオ代わりに放っておく。
俺はその光景を暖かく見守りながら食事をしていると、近くの冒険者達がひそひそと気になる噂話をしていたので、聞き耳を立てる。
「おい、今朝伝鳥が来て知ったんだけどよ。スクラの街でちょっとした騒動が合ったみたいだぞ! 何でも、シュバイン卿御用達の盗賊団が何か頼まれ事を失敗したらしく、シュバイン卿が首領を処罰しようとしたんだと」
「ああ、あの街の領主か、俺はあんまり好きじゃねぇわ。それで、どうなったんだ?」
「こっからが良い所だ、そんでよ、そのまま処罰される訳には行かないその盗賊団は、シュバイン卿と対立し、シュバイン卿の奴隷達を皆掻っ攫って、一泡吹かせたらしいぜ」
「おっ、その集団もやるねぇ。シュバイン卿の噂で、良いものが少ないがそれは良い話だな」
この集団とは、ハインド達、猫の手の事だと俺は悟った。実際俺達が退けた相手なのだから間違いは無いだろう。シュバインと対立するだろうとは考えられたが、囲っていた奴隷全員を連れ去ったとは、一体何の目的が合ったのか分からない。まあ、奴隷達もシュバインの元にいないだけましかもしれない。ハインド達が子供達も連れて行ってくれたら良いのだけどな。
ハインドの事を改めて振り返ると、ミズキを庇った様にもみえた。あいつは根っからの悪者では無いのではないかと俺は感じていた。
それに、その話を聞いて胸のつかえが取れたような気がした。
「それと、ここだけの話だけどよ、この国に王女様がいるだろ? 何でも命狙われているって話だ。まぁこんな話何処にでもあるからきりがねぇけどな。王の座を狙う奴なんて腐るほどいるからな」
そうだな、と言ってその冒険者達はギルドから出て行った。
「ショウ? ショウ!」
呼びかける声に反応し、意識を戻すとミズキが俺を睨んでいた。
どうした? と思い、ミズキの視線の先を追ってみたら、俺の手にはエールの入ったコップがあった。
しまった、俺の禁酒はまだ解かれていなかったのに、無意識の内に呑んでいた。
アイディアールでの失態があり、ある約束をミズキとしていた。破ったら何でも言う事を聞く約束だ。
「あー、酔っ払って無いけど駄目?」
「駄目、約束は約束だよ」
あのキス事件から、よそよそしかったミズキが、声を掛けてくれているのだ。仲直りのきっかけにもなるかも知れないので認める。
「わかったよ。何なりとお申し付け下さい、ミズキ様」
椅子から離れ、ミズキの前で片膝をついて礼を尽くす格好をしながら冗談っぽく言った。
「うむ、苦しゅうない。じゃあ、お……お祭り一緒に回ってくれないかな?」
「ん、そんな事で良いの? お安い御用でさぁ」
俺が執事っぽく振舞ったのにも関わらず、ミズキは殿様のように振る舞うので合わせる。周りの人からは変に思われただろう。ただ、こんなばかばかしいやりとりは嫌いではない。
「じゃあ、明日街の様子を確認しに行かないか? 当日に迷子になったら大変だからな」
「えー、二人だけずるい! うちも街中みたい!」
こうなるのではと察しはついていたが、問題はない明日はミズキとメグミンの三人で行動する事に決まった。
いつの間にか、柴田も酔いつぶれている。ガイウスも起きないから、仕方なく二人を宿屋へと連れ帰った。この苦労をガイウスは文句も言わずにやってくれていたのか。ん? 文句は言ってたかも知れない。まあ、どっちでも良いか。
街中は、夜になっても祭りの準備のせいで、明かりが消える事は無かった。




