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十九.王都に行く前に


 頭が痛い。喉の調子も悪いし胸焼けがして食欲もない。完全に二日酔いだ。


 俺が起きてから、周りの皆は下卑た目で事情聴取みたいなことをするが、何のことだがさっぱりだ。


 冒険者ギルドで酒飲み大会をして、ガイウスに連れて帰ってもらい、便所に寄った所まで憶えているが、どうやって寝たのかは憶えていない。


 女子部屋に? 俺が入った? ミズキを襲った? 何の事だか分からない。


 「そういうことで、俺は何も覚えていない」


 「うちが殴ったから記憶が飛んじゃったのかな?」


 「ショウは、かなり飲んでいたからな。それも関係あるかもしれんな」


 「うっ、気持ち悪い」


 殴っただと? それも記憶に無いからまあ良いか。柴田も飲みすぎて二日酔いの様だ。


 ミズキが頬を染め俺を見て来るので、見つめ返すとこっちもなぜか顔が赤くなる。


 「ん~なんか、思い出せそう。とても幸せだったような……」


 「思い出さなくて良いから!」


 そう言い放つと、ミズキが殴ってきた。Aランクの攻撃はまさかのグーパンチだった。避けられる訳も無く頬に入った。


 俺は当分の間禁酒するよう沙汰が下りた。


 「じゃ、出発しようか」


 この城塞都市で得たものは、頬の大きな痣だけだった。


 宿屋を出て、ギルド前を通ると昨日の優勝者が、コップ片手に路上に倒れ込んでいるのが横目に見えたが放っておこう。


 門近くの荷馬車置き場に行き、自分達の馬車へ荷物を積み込みアイディアール城を後にした。


 そういえばスキルについて、ガイウスに聞こうとしていた事を思い出した。


 「ギルドでスキルについて、聞いたんだけど俺達が模擬試合の時は使って無かったよな?」


 ガイウスが絶望の眼差しでこちらをみてくる。


 「終始使っていたぞ……」


 使っていた? 記憶に無いな。剣戟も動きも普通だったような気がする。


 「何のスキルを使っていたんだ?」


 「くっ、身体強化だ。持久力や動きの早さ。自身の耐久力を強化できる。お前が普通に俺より勝っているから黙っていたんだ」


 ガイウスの表情は非常に悔しそうに歪んでいる。という事は、スキルを使った状態のガイウスと互角という事は、ガイウスはCランク程度の強さって事かと考えた。


 しかし黙っていたって酷くない? 旅をする仲だよね? 仲間が強いのはいい事じゃないの?


 「そうだったのか黙っていた事には目を瞑るから、教えてくれよガイウス先生。その身体強化ってスキル」


 「ギルドでも聞いたと思うが、出来るかは分からんぞ。コツはな……」


 なんでも、相手に萎縮したり、出来ないのではないかと不安になったりせず、強い気迫を持つ事らしい、いわゆる胆力を練れば出来るそうだ。


 胆力なら剣道にも通じるものがあるなと思い、目を閉じて集中してみる。


 「なるほど、こういう感じなのか! 体がすごく軽くなった気がする」


 「簡単そうにやりやがって、だから教えずにいたのに。やっぱり才能があるんだな」


 ミズキやメグミンは出来なくて、柴田は二日酔いでそれどころでは無さそうなので後で教えておくか。


 「ところでガイウス今からは王都へ向うんだろ?」


 「ああ、レイク王都へ向うぞ。その前に物資の補給で町に立ち寄るがな」


 「うち、お姫様とかみてみたい」


 「到着する頃には丁度、建国祭の時期だろうから遠目に見れるかも知れないな」


 「やったー、お祭りか楽しそう」


 メグミンはやたらはしゃいでいるが、柴田は今にも爆発しそうな口を外へ向けている。俺は殴られて酔いが覚めているから柴田ほどではない。


 ミズキは朝から少し機嫌が悪いので、触れないようにしよう。


 「そうだ、お前達に言っておきたい事がある」


 「なんだ? ガイウス」


 「次の町からアイザック領を出る、意味がわかるか?」


 「ああ、奴隷がいるって言いたいんだろ」


 「そうだ、待遇がいい奴隷もいれば見るに耐えない扱いをされる奴隷もいる。だが、感情に任せて行動しないで欲しい」


 「分かっているよ。主の許可無く手を差し伸べてはいけないんだったな。だけど俺達の知り合いがいればその時はわからないな」


 そう、この国では人身売買、奴隷がいる。転移した内の十二名が途中野党に襲われて、国境を渡り行方不明で奴隷になっているかもしれないのだ。


 国境を越えたといってもレイク王国内にいないとは限らない、市場が国境を越えた先に在っても、買い手がレイク王国内の人間であれば近くにいる可能性がある。


 俺は、この旅の中で全員とまでは言わないが、見つけれるだけ見つけて助けてやりたいと思っていた。


 しかし、あれから五年は経つのであまり期待は持てないのかもしれない。奴隷は愛玩か強制労働そして金持ち達のストレス発散に拷問されたりと聞く。


 奴隷……そう改めて聞いて俺は領民も領主も大きな括りで言えば奴隷の一つかもしれないと思い至った。


 領主の為に農作物を献上し続けなければならないのだから、さらにはその領主でさえも国の為に働いているという事は領主も奴隷じゃないのか?


 そう考えると、前の世界もそうじゃないのか? 衣食住(領地)得る為に働き、子孫(領民)が暮らしていけるように働き、自ら(領主)の為に働く。殆どの人が奴隷ではないのか?


 今思えばあの自宅の窓から見えた人達がなんだかかっこ良く思える。ふと、両親の事を思い返し心の中で深く感謝した。


 そもそも、国とは何だろう? 先人達が暮らしやすい環境にしようと努力した上で成り立っているのは分かるが、本当に以前より暮らし易い環境になっているのだろうか? 


 俺はこの先どうありたいのかな? 何て漠然と事を考えているとミズキが声を掛けてきた。


 「ショウどうしたの? ぼーっとしてたよ。まさか出そう?」


 ミズキが心配そうに声を掛けて来るので安心させようと返す。


 「いや、少し思い出してたんだ」


 「何を思い出しているの! 思い出さなくて良いって言ったよね!」


 顔を真っ赤に染めながら、何を勘違いしたのか分からないが、再度Aランクのパンチが飛んできた。


 先ほどの身体強化で避けれるのではと思い試してみた。


 痛い……顔は避けれたが、腹部に直撃した。昨日の酒気が腹から這い上がってくるのを感じ、急いで柴田の隣へ行き吐露する。それを見た柴田もつられて仲良くトロトロトロ……。


 「何やっているんだショウ達は?」


 「さあ、うちには分からないよ。でも、楽しそうに見えるけど」


 今の状況は楽しくはないけど、こういう雰囲気は好きだなと思う。いつまでも続けば良いと本当に思うよ。


 「お、雨が降りそうだ」


 そうガイウスが告げると、一つまた一つと雫が落ちてきて次第に強くなっていった。

 

 

読んで頂きありがとうございます。



宜しければ今後の励みになりますので評価、感想等宜しくお願いします。

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