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十八.酒の力で勇者になる


 俺達は、アイディアール城を抜け出してた。メグミンとミズキはエリナーゼ夫人の恋物語に盛り上がり宿屋で語るそうで、残された俺達は酒場で鬱憤を晴らすために別行動となった。


 出発は明日の朝なので、その前に疲れた心身に酒を注入し英気を養うのだ。


 せっかく冒険者になったのだからと冒険者ギルドに併設されている酒場へと足を運んだ。


 酒場では多くの冒険者達が自慢話や噂話に花を咲かせ、大いに賑わっていた。


 突き出しの豆と、エールを人数分頼む。この数日間の苦労を乗り切った事を互いに称え合い乾杯した。


 ぷはー、疲れた時にはこれに限るな。


 隣の席では見知らぬ冒険者達が噂話をしていた。


 「この間ウインティア王国に行商の護衛で行ったとき、ドラゴンの泣き声を聞いちまった」


 「馬鹿だな、お前あれは風の音だって言う話じゃないか」


 「そんれより神聖国では、数年前教皇が替わってから魔鉱の研究を密かに始めたらしいわよ」


 「あの神聖国が? 魔鉱は邪悪だ。何て言っている国がそんなことするわけねぇだろ」


 そんな噂話が、あちらこちらから飛んでくる。さすが冒険者だ、各国を行き来するだけに情報を沢山持っていそうだ。どれも本当か嘘かはっきりしないので何とも言えないが。


 「おい、ショウ! ランク付けでは負けたが、これで負けるつもりはない!」


 「これって? エールの飲み比べ勝負する気か?」


 柴田がエールの注がれたコップを持って、宣誓してきたが既に少し顔が赤く陽気になっているみたいだ。


 ガイウスに助けを求めようと視線を送るが、既に酔いつぶれて寝ていた。グラスに目をやると泡が無くなる程度しか減っていない。


 おいおい、こいつがこんなにも下戸だったとは知らなかった。本人は気持ち良さそうに寝ているのでそっとしておこう。


 「おお、兄ちゃん達飲み比べするのか!」


 「やれ! 誰が一番飲むか勝負だ!」


 騒ぎを聞きつけた他の冒険者達がわらわらと俺達のテーブルを囲みだした。もはやこの勝負受けない訳にはいかない雰囲気だ。


 いつの間にか、酒場は飲み比べ大会の様相になっている。それぞれのテーブル毎に、勝負が始まり、勝者が勝ち上がって行くトーナメント式だ。


 相手によってかなりの不平等だが、とにかく騒げれば良いと言わんばかりに馬鹿騒ぎしている。


 「もう逃げられんぞ! 勝負だ!」


 「わかったよ。こうなったら明日が出発だなんて野暮なことは言わない。本気でいくぞ」


 その場の空気に流され、俺達は浴びるようにエールを飲み干す。十五杯目くらいになり柴田が突然ギルドの外へ飛び出して行った。


 その瞬間俺の勝利は確定し、周囲から賞賛の声が上がる。


 何だ? これ……めちゃくちゃ楽しい! これぞ冒険者の醍醐味って雰囲気だ!


 気分は最高潮になり、かかってこいや! と強気の口調へと変化し、次々と酒豪達をなぎ倒す。


 優勝者決定戦まで勝ちあがり、その頃には、腹はもう水分で腹がたっぷりと出ていた。


 先程までうるさかった周囲の冒険者達は、静まり返り王者が誕生する瞬間を待ち構えていた。


 俺の前に座ったのは、筋骨隆々の脳筋野郎だ。しかし、相手の腹も相当膨らんでいる。


 「兄ちゃんやるじゃないか、ここまで勝ち上がって来るなんてよ」


 「おっちゃんこそ、見事な飲みっぷりだったぜ」


 互いに褒め称え握手を交わした状態で片手にコップを持ち煽った。


 結果は後一歩優勝には届かなかった。意識があったのは倒れ込む瞬間に、両者を称える賛辞が飛ぶのを微かに耳に残っているだけだった。


 ……ん? 懐かしい揺れにより目が覚めた俺は、ガイウスにおんぶされていた。


 「ガイウィース、起きたのかー?」


 「何を言っているんだ。勝負の途中から既に起きていたぞ」


 「柴田がいないぞー、ガイウィース」


 「ガイウィースって誰だ! 連れて帰ってやらんぞ! 柴田なら先に宿まで送った。路上で倒れ込んでいたからな」


 相当酔っ払ってしまったようだ。でもまあ、楽しかった。あんなにも楽しんだのはいつ振りだろうか? 


 前の世界ではこんなに楽しい事は無かったな……えっ? 何か逆じゃない? と思ったが今の楽しさの余韻に浸りたいのでそっと心に蓋をした。


 「ほら、宿屋に着いたぞ」


 「ありがと、ガイウィース。ちょっと便所行ってから部屋に行く」


 「もう知らん、部屋は二階の二つ目だからな、明日は早いから寝坊したら叩き起こすぞ!」


 そういってガイウスは、階段を上がっていった。


 ありがとうガイウス。お前は何だかんだ言って面倒見てくれる良い奴だよ。俺は一階にある便所へ颯爽と向かい、お腹に溜まっている物を吐露した。


 しかし、お酒は飲んでいる間はあんなにも気持ちいいのに、一線を越えると後は絶望しか残らないのは何故だろうか。誰かが幸福と不幸は半分ずつだと言っていたが本当ではないかと信じてしまう。


 若干は気持ちも落ち着いたが、流石に疲れたな。足取りの覚束ないまま二階の部屋に入り、床に伏した。


 途中寝苦しくなり、寝返りを打つと顔が何かにぶつかった。ぶつかったと言えば堅そうに聞こえるがそうではない、俺は何かしらの柔らかい物に当たったのだ。


 違和感を憶えて眠たい目を擦りながら開けると、そこには甘美な丘が二つ目の前に並んでいた。


 これは、何かの夢に違いないと寝ようと試みると声を掛けられた。


 「ショウ? 起きた?」


 小声で話し掛けてくるこの声は……ミズキだ。ということは、ここはミズキ達の部屋って事か! そう俺は、半分寝ながら歩いていた。部屋を間違えてしまっていたのだ。


 しかも、掛け布だと思って潜り込んだ所はミズキの服の中であった。ミズキは寝る時はゆとりのあるワンピースの様なものを着ている。


 ふと、我に返りすぐさま釈明しようと行動に移す。


 「ご、ごめん、そんなつもりじゃ無かったんだ」


 「ちょ、急に動くと……んっ! う、動かないで!」


 俺が急に動いたせいで、色々な部位に当りミズキが悩ましい声を上げる。俺は言われるがまま止まったが状況は変わらない。これは、お酒の絶望を乗り切った俺へのご褒美なのではないかと現実逃避してみた。


 「急に入ってきて寝ちゃうからどうしようかと思った。それに何かお酒臭い!」


 「ごめん、飲み過ぎちゃって部屋間違えたみたいだ」


 「あやしい。まぁメグミンの所じゃないだけ良いか」


 「えっ何か言った?」


 「いいから、目瞑ってゆっくり出てよ。恥ずかしいんだから……」


 ミズキ様の言う通りに、目を瞑ると余計に想像を膨らませてしまう。ほのかな石鹸の香りと少し汗ばんだ肌の感触が俺の心を乱す。何とか心を制御し、やっと抜け出す。


 俺は先ほどの光景を思い浮かべてしまいミズキを直視することが出来ず、ミズキもそうである様に見えた。お互いに顔が赤いのは用意に想像できる。ちなみに俺の顔が赤いのはきっとお酒のせいだ。


 俺はすかさず、頭を地面に擦り精一杯の土下座を行い謝罪した。こんな所を誰かに見られたら、柴田に申し訳なく思うし、皆に顔向けできない。


 幸いメグミンは、この部屋にいない、いない? そんな筈はない。二部屋しか取ってないのだからと思い至った時にはもう遅い。


 「隠伏解除、この暴漢!」


 「あ、メグミン待っ……」


 その瞬間、後頭部に鈍器のような物で殴られた感触が残った。


 幸福の後には不幸が待っている。そんな言葉が頭の中で繰り返し流れて、俺は意識を失った。


読んで頂きありがとうございます。



宜しければ今後の励みになりますので評価、感想等宜しくお願いします。


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