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十三.騎士の巡礼


 良く晴れた空の下で俺達は小麦の収穫が終わった畑にナスや、トマト、キュウリなどの植え付けを行っている最中だ。


 ナス、トマト、キュウリの収穫が終わればまた土を作り直し小麦といったサイクルで一年過ごしている。


 屈んでやる仕事なだけに、さすがに腰が痛くなる。ため息を吐き腰を押さえながら、ぐっと背伸びをする。


 辺りを見回すとそれぞれが、近くの人と話しながら植え付け作業を行っていた。


 今日も穏やかな一日になりそうだと思っていると、隣にいたメグミンが抱き着いてきた。


 あれ? これは前にも経験した事のある状況だぞ。


 メグミンの指先を見てみると、少し光沢のある。うねうねした生き物が顔を出していた。


 今回はミミズだ。しかし、ミミズは畑を良くしてくれていると昔から言うので邪険には出来ない。


 メグミンを振り解くと、優しく土ごと救い上げ、違う所へ持って行った。


 ありがとう、とメグミンが抱き着いて来ようとするので俺はそれを回避。するとメグミンは勢い余って顔面から畑にダイブした。


 頬を膨らませ、不機嫌なメグミンを尻目に俺は作業に戻った。


 許してくれメグミン。違うんだ。俺の行動の意図を分かって欲しい。俺も男だ。可愛い女の子に抱き着かれて嫌とは思わない。むしろ大歓迎だ。


 しかし、先程抱き着かれた時から、背中に悪寒が走っている。そう、遠くの方で作業しているミズキが先ほどからこちらを凝視しているのだ。


 あの前髪の下には、汚いものでも見るような目をしているに違いない。怖いんだ。あの目の奥の闇が。そんな俺の元に助け舟がやって来る。


 「おーい、ショウはどこだ?」


 「ここだ! なんだ、ガイウスまだ指導の時間には早いぞ?」


 「アイザック様が呼んでいる。一緒に来てくれるか?」


 「別に良いけど、俺一人か? カオル君は一緒じゃなくていいの?」


 「ああ、今回はショウに頼みたいそうだ」


 俺に? アイザック卿はいつもカオル君を呼ぶのに珍しい事もあるものだ。一言カオル君に声を掛けてからガイウスの後に続く。


 アイザック邸につくと左側の広場では、兵士達に混ざり軍曹が稽古をしていた。非常に楽しそうな表情だが、相手は微笑を浮かべながら攻撃してくる軍曹に足がすくんでいるようだ。


 玄関の扉が勝手に開く。この光景も懐かしいなと思い出に浸る。


 あの時のガイウスは憎たらしく子供っぽかったが、今は凛々しい好青年に見える。


 開けられた玄関からメイドが出てきて、早速客間へと案内された。


 扉をガイウスの後に続き入ると既にアイザック卿は客間で鎮座していた。


 「すまんな、忙しい所を呼びつけて」


 「アイザック卿の誘いとあれば、如何なる時でも参りましょう」


 「うむ、助かる。ガイウスの話だと、ショウは剣の腕が中々優れたものだと聞いている」


 「いえ、自分ではまだまだ未熟だと思いますが、それが何か関係があるのですか?」


 剣の腕が必要? 中々物騒な話になりそうだったので控えめ答える。


 「そう謙遜しなくても良い。頼みと言うのは、ガイウスが叙勲を受けて騎士になったのは知っているな?」


 「ええ、それは本人からも伺いましたが……」


 「騎士になった者は、各国の首都又は王都にある聖堂を巡り、最後神聖国で祈りを捧げなければならない。その共としてガイウスに付いて行ってはくれないか?」 


 詳しく聞いてみると、元々は神聖国の聖堂騎士達が信仰心を体現する為の習わしだったが、宗教とは厄介なもので各国に信者がおり、巡礼の済んでいない騎士は騎士では無いと言い出した事がきっかけで、誰が叙勲しようが、巡礼しないといけないそうだ。


 これは結構な長旅になるし、危険も伴ってくる。流石に一人では決められないな。


 「内容はわかりました。一度皆と相談させて頂きたく存じます」


 「良い返事を期待している」


 そう言ってアイザック卿は客間から出て行った。足音が遠ざかったのを機に俺はガイウスへと詰め寄った。


 「ガイウス。俺は自衛の為に鍛えているって言ったじゃないか。その巡礼はアイザック卿の兵士じゃダメなのか?」


 「すまんな。アイザック卿の兵士は俺の兵士じゃ無いからな、色々建前があるんだよ。冒険者を雇うのでも良いが、せっかくならショウと一緒に行けたら楽しそうだろ?」


 ここ数年でガイウスとはかなり仲良くなった。まあ、折角異世界転移したんだし、見て回りたい気もするが皆が何て言うだろうか? 


 「とりあえず、戻って皆の意見を聞いてから決める」


 そう言ってアイザック邸を去り、我が家へと重い足取りで帰った。


 戻ると、丁度昼時で皆が一階の食堂にいたので呼びに行く手間が省けた。

 

 アイザック邸での話を掻い摘んで話す。


 「本当かよ! 俺も付いていく! 大冒険じゃないか!」


 柴田が嬉しそうに賛同してきた。俺はそれを望んではいなかったのだがな。


 「えー、ショウだけずるい! 私も連れて行って!」


 そして、メグミンも賛同する。


 「メグミンが行くなら私も付いていく!」


 おっと、ミズキは引き留めてくれると思っていたがそう来たか。


 「柴田、メグミン、ミズキ。本当に分かっているのか? 一週間程度で帰れる距離じゃないんだよ? 道中に魔獣も出るだろうし、盗賊だって襲ってくるかもしれない危険なんだ」


 改めて、道すがらの大変さを列挙してみるも、子供のような目の輝きはくすむ事は無かった。


 「カオル君はそれでいいの? 人手が減ると大変だよ?」


 「僕は構わないよ。むしろ最近時間を持て余すんだよね。仕事量が増えれば増えるほど良いね!」


 何を言っているんだこの人は? と思っていると、咄嗟に思い出した。


 以前、カオル君は一流企業に勤めて睡眠三時間程度しかとっていなかったと言っていたのを。カオル君は病気持ちだった。ワーカホリックという一定の企業に凄く需要のありそうな症状だ。


 「ナッチャン、先に謝っておく。ごめんね」


 「ん~、私がついているし無茶はさせないわ。ショウ達の方こそ無事に帰ってくる事を祈っているわよ」


 というわけで、特に一悶着もなくすんなり行ってらっしゃいと言われた俺は、必要とされていないんじゃないかと思い、精神的ダメージを受ける形となった。


 そんな、俺の傷心をあざ笑うかのように、カナミちゃんの笑い声がこだまする。


 「じゃあ、行く方向でアイザック卿に伝えてくるから」


 そう言い残し、再びアイザック邸に赴いた。


 アイザック卿に面会し、人数が増えても問題ないかの確認と巡礼に同行する旨を伝えた。


 「おお、ありがたい。人数については特に指定は無いので問題なかろう。実際の所作はガイウスがやるのだからな」


 「それでは出発の日取りはガイウスと話をしてきますので、これで……」


 「ああ、一つ言い忘れた事がある。巡礼の前に冒険者ギルドに寄って冒険者登録をしなさい」


 アイザック卿が俺の言葉にかぶせ気味に発言する。


 なんでも、領地内の農民は領地間の移動または、国境を跨ぐ事が出来ないそうだ。冒険者登録すればギルドが身柄を証明してくれるので、どこへでも行けるようになる。


 確かに領内の人が勝手に移動できれば、統治も何もないものなと納得する。


 「私の直筆だ。これを冒険者ギルドに持っていけば、登録出来るようになる。よろしく頼むぞ。ああ、それと冒険者ギルドには長居しない方が――。いや、何でもない」


 途中で言葉を切るアイザック卿を訝しみながらも、俺はその文を拝借し一礼してから部屋を出た。


 ガイウスと話して日取りを決めて、帰って準備して、また忙しくなりそうだ。


 まあ、旅行だと思えば少し気が楽になる。まだ見ぬ世界に想像を膨らませ軽快な足取りで我が家に帰った。

読んで頂きありがとうございます。



宜しければ今後の励みになりますので評価、感想等宜しくお願いします。


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