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十二.平穏な日々


 ガイウスが俺達の教師役になり、あっという間に五年の月日が流れた。


 世界史、各国の情勢、魔獣、護身術、乗馬、各ギルド、魔法、多くの事について教えてくれた。


 まず、レイク王国はこの大陸の東に位置しており湖の上に王都があるそうだ。大陸の東から西を横断する様に北側に山岳地帯が広がっており、その一帯をウィンティア王国という。


 ウィンティア王国では鉱山や鍛冶が盛んであり、また一部峡谷では時たま強風が吹きドラゴンの泣き声に聞こえる事から《竜の喉笛》と呼ばれているそうだ。


 大陸の中央には、神聖国という宗教団体が集まった国があり、日夜修道士達が巡礼に訪れるそうで、教皇が統治している。


 神聖国の南に位置し、レイク王国の西にあるのがウォータリア王国という名の国がある。海の傍で、大きな河を渡す様にして王都が広がっている。主に商業が盛んで、各国の品が一同に集まることから、ここに来れば金で買えない物は無いと言うほどだ。


 この世界にはギルドという概念があり、まあ職業案内所のようなものだ。基本的には冒険者ギルドしかないそうで、先の盗賊ギルドというのは冒険者ギルドから派生したならず者達のグループを総じてそう呼ぶ。


 冒険者ギルドに登録するには自分の住んでいる土地の統治者の許可がいるそうだ。


 魔法に関しては、使える人は一握りの人物で、基本的に火、水、地、風の四つの属性がある。


 一人一つの属性しか使えないそうだが、稀に複数の属性を使用出来る者がいたらしい。もはや、御伽噺の存在だとガイウスは言っていた。


 魔法を使える者は称えられ、神聖国内では神子等と呼び崇められている。その他の地域では、賢者と言われるそうだ。


 残念ながらベネット村内では魔法を使える人はいないので良く分からない。


 知識の他にも、この五年間で、色々進展があった。


 ガイウスは無事にアイザック卿から叙勲され騎士の称号を得て、その入れ違いに軍曹がアイザック卿の従士になった。まあ好きそうだと思っていたが、すごい行動力だと感心した。


 チェキラは、持ち前の軽々しい話し方で村に来る行商人達と仲良くなり、一緒に行商をしている。たまに、戻ってくる度、楽しそうに旅の話をするのを聞くのが俺の楽しみになっている。


 それぞれが、自分のしたい事を始めているのはいい事だと思う。


 救出した十人の人達は、最初はすごく嫌がっていたものの作物が育って実を成すのに達成感を覚え、カオル君の指示の下農作業に勤しみ、あとは悠々自適に日々を暮らしている。


 盗賊に襲われたであろう、残りの人達についてはこの数年で国境を越えたと言う情報を得られたが、それ以上の捜索は他国への侵攻にみなされる可能性があるので断念するしかなかった。


 替わりと言ってはなんなのだが、一人新しい仲間が出来た。


 可愛らしい女の子でカナミちゃんという。なんとカオル君とナッチャンの子供だ。俺達のまったく気づかない所でいつの間にか、やることやっていたようだ。


 少しカオル君に聞いた所、全員の救助に失敗したカオル君は自分を責め、凄く落ち込んでいた時期があった。それをナッチャンが励ましてくれた事により、好意を抱いて現在に至るという事だ。


 苦楽を共にした仲間に家族が出来るのは、感慨深くて羨ましく思える。


 そんな感じで暮らしは安定している。日々を楽しく暮らしている訳だが、当の俺は現在戦闘中だ。


 といっても、模擬試合の様な物でガイウスが審判となり、俺と柴田で試合している。


 柴田が、木剣で俺に切りかかってくるのを、軽くいなし相手が体勢を崩した所で、俺は軽く小突く。


 「ショウの勝ちだ」


 ガイウスが高々と宣言すると、柴田が悔しそうに発言する。


 「もう一回だ!」


 「もう止めようよ。これで三十回くらいやってるじゃないか」


 「それでも、勝つまでは止めない!」


 「柴田終わりだ。疲れて動きが鈍く単調になっているから、さっきみたいに簡単にやられているのはわかるだろう?」


 「くっ、明日こそ勝つ」


 ガイウスがそう締めると、捨て台詞を吐いて立ち去っていく柴田だった。


 最初は、危険な奴かと思って注意していたが、今はこの環境に満足しているようにみえる。俺に模擬試合で勝てないのが、相当悔しいらしく毎回挑んでくる。


 俺はため息を吐きながらその場に座り込んだ。


 「ショウは強くなったな、戦いの才能が有るのかも知れない。冒険者になっても食べていけそうだ」


 「やめてくれ、わざわざ危険が伴うような事はしないよ。それに少し戦いの心構えを知っていただけだ」


 前の世界で剣道をしていた事を伏せながら、そうガイウスに返した。


 「ショウ終わったんなら、次はうちとやってよ」


 「メグミンか、分かったやろう」


 そういって、メグミンと模擬試合を行う。


 メグミンは腕力が無いため、匕首を模した木剣を両手に持ち機敏な動きで翻弄するのが得意だ。


 さながら忍びといった感じだろうか。さっと間合いを詰めて来たかと思えば、急に後方へ飛び俺の振り下ろした木剣を避ける、その隙に後方へと回り込み切りかかってくるメグミンに対して、それを阻止する為、身体を回転させながら水平切りを放った。


 もらった! そう思ってたが、その攻撃は見事に空を切り裂き、水平切りをしゃがんで避けたメグミンは、俺の首元にそっと木剣を当てたところでガイウスが試合を止める。


 女の子だからと少し手加減していたとは言え、あの水平切りの中を潜ってくるのは本職かと錯覚してしまった。

 

 「やったー。ショウに勝ったから、うちがこの中で一番強いね」


 「今日はだろ? 昨日は負けたじゃないか」


 「今日強いほうが、一番なんですー」


 子供っぽい言い方だが、言い分には一理あると思った。


 「お疲れ様、タオル持って来たよ」


 「お、ありがとう」


 皆の分のタオルを持って着てくれたのはミズキだった。この数年間で大分、男性嫌いは治ったみたいだが、初対面の男性にはまだ萎縮してしまうところがある。それも時間が解決してくれる事だろう。


 この戦闘訓練も毎日の様に続けているが、あくまで自衛の為だ。カオル君やナッチャンは若い人に任せるよと、歳よりじみた事を言ってやらない。


 「ミズキもやったらいいのに」


 「当ったら痛いし、みんな顔が怖くなるから嫌だ!」


 そういってやらないミズキだが、一度試しにと誘ってやってみたが俺の攻撃がまったく当らないのだ。最初は手を抜いていたが、徐々にスピードを上げて全力でいっても全くの空振りだった。

 

 実は俺たちの中で一番強いのではと噂もあるくらい身体能力が高い。


 まあそれを正直に言うと、機嫌が悪くなって直るまで数日掛かるので、もちろん何も言わない。


 それと、ミズキは眼鏡をかけているが実際に目が悪い訳ではなかった。いわゆる、伊達メガネで遮蔽物がある方が人と話しやすいそうだ。


 この五年間はとても心地がいい。皆で農作業して、村のお願い事を聞いて助け合う。アイザック卿のおかげでこの辺りは魔獣や盗賊の心配が無いし住みやすい領地だ。


 以前まで聞こえていた笛のような音については、俺達はもう聞こえない。夜に聞こえるのはカナミちゃんの泣き声だけだ。


 俺にもいつか嫁が出来て、子共を拵えて、農作業しながら年老いていくのも良いかも知れないな。


 前の世界よりも、未来が見えてきたような気がする。

 

読んで頂きありがとうございます。


宜しければ今後の励みになりますので評価、感想等宜しくお願いします。



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