十一.帰還
コメットさんの手伝いや、新居の修復、整備を行っていると、カオル君達が返って来る予定の日になった。
現在、俺はメグミンと一緒に新居の修復を行っている。他の皆は、コメットさんの所へ出稼ぎに行ってもらった。
そろそろ、カオル君達が戻ってきても良い頃だとメグミンと話していた所だ。
すると、ミズキが戻ってきてカオル君達が戻ってきた事を知らせてくれた。
コメットさん家に集まっているらしく、俺達も作業を一旦やめて待ってましたと言わんばかりに駆けて行った。
到着して中に入ると、カオル君、チェキラ、軍曹の他に見知らぬ顔が十人しかいなかった。
あれ? 少し少なくないか。本来であればもう十人程いるはずなのだが、見当たらない。
少し空気の重い中、俺はカオル君に労いの言葉を掛けた。
「お疲れ様。無事に帰ってきて嬉しいよ。他の人達は二階の宿場かな?」
「いや、これで全員だよ。残念ながらね」
カオル君は落胆の表情でそう答える。
「なにがあったの?」
「僕達が着いた時にはもう、この人数しかいなかったんだ」
どうやら、待機組は俺達がこの村に向った後、盗賊に襲われ散り散りに逃げ出したそうだ。
その難を逃れた人達が今この場所にいる。
カオル君達は、その後辺りを捜索したそうだが、他の人達は見つからなかったようだ。
ガイウスと兵がまだ残って捜索しているそうで、辺りに血痕とかないので連れ去られたのではとの見解らしい。
この世界には、人攫いがいて簡単に言うと人身売買があり奴隷にされるそうだ。
ただし、このレイク王国内のアイザック領では重罪という扱いだ。さすが元騎士団長だ。
それで、ガイウスは必死になって探しているというわけだ。なんて忠義に厚い少年なのだろう。
よその領地だと、当たり前のように奴隷がいるそうなので、俺達は本当に運が良かった。本来であれば奴隷になっていてもおかしくは無かったのだ。
「とにかく、怖い思いはおしまいだ。この村には俺達の住む家もある。帰って来たばかりで今日はもう疲れたでしょ? 食事でもして家で寛いだら良いよ。今後の事は明日、話し合おう」
俺は居た堪れなくなりそう言うと、カオル君はそうだねと言い残し、食事が終わった後、皆を連れて新居の方へ向っていった。
「残りの人達は大丈夫かな?」
メグミンは俺に話かける。
「どうだろう。今の俺達に出来る事は無いように思える。夕方近くにガイウスが戻って来るそうだから、話を聞いてみるよ」
「それ、俺も付いて行く」
「分かった。一緒に話を聞いてくれると助かるよ」
柴田が付いて来るそうだが、まあいいだろう。そう話し終えると、俺達は各自の仕事へと戻った。
俺達はまだこの世界の事を少ししか知らない。しかし、もうそうは言ってられない状況かもしれないな。明日は我が身か、親しい人達が俺達の知らない所で被害にあっているのかと思うと怖くなる。
何処ともわからない世界なのに順調で、それなりに暮らせていけた事で、俺達は舞い上がっていたのかも知れない。
ガイウスが戻ってきたら、この世界の事を詳しく教えてもらおう。
そう考え事をしていると、あっという間に日は傾き空は茜色に染まった。
コメットさん家でカオル君達を除く面子で食事をしていると、ガイウスが帰還したようだ。
俺と柴田はさっと食事を済ませ、ガイウスの元に駆け寄った。
「ああ、お前か。カオルに状況は聞いたのか?」
「その事で、その後どうなったか聞きたいんだ」
「そうだな。俺もアイザック様に報告しなくてはならない。一緒に来てくれるか?」
「わかった。二度手間になるからそうしよう」
そういってガイウスの後に続き、アイザック邸へ向った。
ガイウスと兵達の様子からして、他の人達は見つから無かったのかと推測できた。
アイザック邸に着くとすぐにメイドが駆け寄ってきて、客間のほうへと案内される。
程なくしてアイザック卿が姿を見せて俺達の前に座った。
改めて、見るとやはり存在感があるというか圧倒されてしまう。
「それで、ガイウスどんな状況だった?」
「はっ! 我々は目的地である場所で、十人の生存者を確認出来ました。しかし、残りの十数人は残念ながら盗賊に連れ去られたものだと思われます。近辺をくまなく捜索したのですが……」
「なんだと! 俺の領地内で悪さする奴等がまだいたとはな。盗賊ギルドの連中は許してはおけん! 直ちに兵に伝えろ巡回の強化をして痕跡を見つけ出せとな!」
「はっ!」
そういって一礼し出て行ったガイウスだった。残された俺達は呆然としている事しか出来なかった。
相当頭に来たのか、アイザック卿はその体躯から湯気のようなものが立ち昇っていた。
「アイザック卿、我々の替わりに感情を露にして頂きありがとうございます」
「そんなに畏まらなくても良い。お前達は既に私の領民。となれば、家族同然なのだからな。それに、私の領地と知っての行動だとすれば腸が煮えくり返る。領地を通るだけだったのを大目にみていた私の不足でもある」
どうやら、元騎士団長様はレイク王国では結構名の通った人のようだ。それもそうか騎士団長を務める程だ。それなのに温情で見逃していた盗賊団に、あだで返されては怒るのも無理は無い。
しかし、アイザック卿の温かみのある言葉は胸に刺さる物がある。ガイウスが忠誠を尽くすのも頷けた。
「家族同然と仰って下さった言葉に甘えさせて頂きたく思うのですが……」
「ん、何だ? 言ってみなさい」
「俺達は遠方から来て、まだレイク王国とその周辺の国々について良くわかっておりません。連れ去られた仲間の為にも俺達は知らなければならないのです」
「ふむ。それで私に何かして欲しいという事か?」
「アイザック卿はご多忙でしょうから、ガイウスの時間がある時で良いので、教師役として付けて欲しいのですがどうでしょう?」
「うーん、ガイウスか。わかった、ガイウスにも良い勉強になるだろう。何かを教える立場になるのも良い頃合だ。互いに良い刺激になるかもしれんな」
考え事をしていた様子だが、快く承諾してくれたアイザック卿に、俺達は感謝の意として一礼を捧げた。
俺達が屋敷を出るとすっかり夜も更け、梟の鳴き声が響き渡っていた。
「話には聞いていたが、あの人が元騎士団長か。威厳があって格好良かったな! それに盗賊ギルドって言ってたな! じゃあ冒険者ギルドとかもあるのかな?」
嬉しそうに話し出す柴田だが、俺に聞かれても分からない。
「どうだろうな? 取合えずガイウスが今後教えてくれるさ」
ますますファンタジー要素が含まれていって嬉しそうな柴田に引き換え、俺はどこか素直に喜べないでいた。
また明日も早い。まだまだ、やることは山積みなのだから。考えを巡らせながら村を見渡すと一つ、また一つと明かりが消えていくのが見えた。
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