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憧れの人

今回はサブキャラである塚原雪枝視点のお話です。

 



 髙野宮撫子さんは私、塚原雪枝の憧れの人だった。



 女王様のように微笑む髙野宮さん。その悠然とした様は、見るだけで感嘆の溜め息がもれてしまう。


 髙野宮さんは、聖深学院全校生徒憧れのグロリア・フロス(お姉さま)だ。その人気は計り知れない。同じクラスメイトであるにも関わらず、声をかけることさえ緊張してしまうのだ。


 ウジウジと、髙野宮さんの一挙一動を伺う毎日。髙野宮さんからは、きっと変なクラスメイトだと思われているんだろうなぁ。そう考えると余計に話しかける勇気が萎んでしまう。ああ、私は髙野宮さんとお近づきになりたい、ただそれだけなのにっ。


「雪枝ったら、ほんとも懲りないわね。何も考えずさっさと声をかけたら良いのよ。考えるな感じろってやつ」

「もうっ、八重ちゃん。それができないから困ってるんだよっ!」

「はぁ、これだから雪枝は駄目なのよ。雪枝の意気地無し、ヘタレ、おたんこなす」

「わ、私だって頑張ってるんだから! 前、ちゃんと髙野宮さんをお茶に誘ったもん」

「それ私と万里子が協力したやつでしょ。他にはあるの?」

「……うぐぅ」

「ぜんぜんっ、駄目じゃない!」

「ううっ、八重ちゃんが冷たいよぉ」


 呆れ顔を隠さず、大きな溜め息を吐く八重ちゃんこと、城戸八重。清潔感のあるショートヘアの勝ち気な女の子。その飾り気のない言葉に、思わず情けないうめき声をあげてしまう。


「まぁまぁ、八重さんそう言わずに、雪枝さんを応援しましょう? それにこの意気地無しでヘタレ、おたんこなすな雪枝さんは、今に始まったことではないのですから」


 うふふっ、と穏やかに微笑む万里子ちゃんに抱き付く。ふわふわとした亜麻色の長髪から花のような良い香りがした。


「万里子ちゃん、優しいっ。八重ちゃんとは月とすっぽんだよ!」

「あのね、誰がすっぽんよっ! そもそも万里子が一番毒吐いているじゃない。言っとくけど、こういう娘が一番怖いんだから気を付けなさい。良い? 水野万里子は相手を心配する振りをして、これ見よがしにドドメをさしてくる系女子よ」


 八重ちゃんがムキーッと両手を掲げる。それを見て困ったように微笑む万里子ちゃん。優しい表情なのに、目が笑ってないように見える……まぁ、そういう時もあるよね、うん。


「あらあら、八重さんそれはどういうことかしら?」

「……ちょ、怖わぁ。もうっ、私が悪かったから光がない瞳でこっちを凝視しないで! 夢に出て来そうだから、軽くホラーだから!」

「うふふっ、ちょっとしたお茶目ですよ、テヘペロ」

「テヘペロって、どう見てもオレサマオマエマルカジリ! って感じだったじゃない。万里子……アンタ、本当にそういう腹黒いところ直した方が―――」

「……八重さん?」

「ごめんなさい」


 こうして万里子ちゃんに突っかかって、何度も返り討ちにされているのに八重ちゃんは懲りないなぁ。万里子ちゃんは絶対に怒らせてはいけない人なのだ、と私は八重ちゃんの姿を見るごとに心へ刻むことにしている。


 八重ちゃん、万里子ちゃんとは小等部からの付き合いで、所謂腐れ縁。字にするとあんまり淑女的ではないが、その表現で間違ってはいないと思うし、それが一番しっくりくる。友達というより悪友、みたいな? たぶん、きっと、めいびーそんな感じ。


「雪枝、私にひとつ案があるのだけど」


 八重ちゃんは、はいっ、と律儀に手を上げた。


「何々どんな案なの教えて教えてっ!」

「ちょっ、急に詰めて来ないで、近い、近いわよ!」


 思わず全力で詰め寄る私から、八重ちゃんは蛇を威嚇する猫のように肩を怒らせ距離を取る。むぅ、早い。さすが陸上部のホープだね。言うなれば俊敏力の塊。今度、短距離走の大会があるらしいので、また万里子ちゃんと応援しに行こう。……まぁ、それはそれとして。


「八重ちゃん、何で逃げるの?」

「当たり前でしょ! 髙野宮さんが関わると、どうしてこうもお馬鹿になるのよ! 呆れを通り越して、もはやそんなアンタが愛しいわっ!」

「えへへ、そう? ありがとう」

「お馬鹿、褒めてない。雪枝って聖深学院に入れるくらい頭は良い癖に、色んな意味でアーパーなんだから始末に終えない。……はぁ、本当に調子狂うわ」

「あらあら、駄目ですよ八重さん。そんなことで調子を崩していたら、これからもたないですよ? 落ち着きましょうね。良い子、良い子~」


 頬に手を当てて、嗜める万里子ちゃん。まるで年上のような貫禄を見せ付ける。さすがは、寮母のお姉さんが似合うランキング1位。相変わらず包容力が迸っている。


「もう、子ども扱いしないでよねっ!」


 ぷんす、と鼻を鳴らして威嚇する八重ちゃんを見て、万里子ちゃんは片眉を上げた。


「まあまあ、どうしましょう。反抗期かしら?」

「う~ん、どちらかというとカルシウムが足りていないだけでは?」

「アンタら本当にもういい加減にしなさいよっ!」


 獅子の遠吠えのような叫びに、えー、ごめんなさい? と、万里子ちゃんと一緒に頭を下げた。八重ちゃんはそんな私たちを見て大きく溜め息をひとつ。


「怒るだけ無駄だということだけは理解したわ。それで、さっきの話の続きに戻るけど。髙野宮さん本人を攻略できないのなら、外堀から攻めれば良いのよ。ほら、髙野宮さん確か幼馴染みがいたでしょ? お茶に誘った時にもフォロー入れてくれた背が高くて目付きの悪い人」


 ええっと、確かクラスに良く来ているジェンシャンの男子学生。名前は、……日野さんだったかな。


「うふふっ、その方に髙野宮さんとの仲を取り持ってもらうという訳ですね、八重さん」

「なるほど。大きい鮫で、綺麗なイルカを釣ろう作戦だね、八重ちゃんっ!」

「嘘でしょ。ネーミングセンス無さすぎ。というか、そもそも鮫でイルカはどう頑張っても釣れない。作戦名の縁起悪すぎじゃない? 自分で提案したものの、大丈夫なのこれ? えっ、本当に大丈夫なの?」

「よおし、頑張るぞ」


 えいえいお~! と腕を掲げやる気を出す。全ては憧れの人と仲良くなるために。


「……不安だわ」




塚原雪枝……トリックスター。

城戸八重……ツンデレ。

水野万里子……腹黒。


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― 新着の感想 ―
[一言] 久々の更新ありがとうございます。以前の話に少し出てきた撫子の両親の馴れ初め的な話が見てみたいです。
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