第三訓 田中くんは弱虫だ
生意気で女らしくない言動をつらつらと並べていたその女の人。いまは外来人に銃を向けられており、両手を上げていた。
「誰の命がここまでだって?田中くん」
「いや、だから誰が田中君だ」
「え?お前田中くんじゃないの?」
「ちげぇよ!!」
例の田中くんとやらはどうやら外来人のことを言ってたようだった。
・・・見てるこっちはハラハラしすぎて心臓止まりそうなんですけど。
「遺言くらいなら聞いてやるぜ姉ちゃん」
「あ?誰がいつ田中になったんだよばーか」
その時だった。
女の人が瞬時に懐から短剣版木刀を取り出して外来人が反応する前に銃を手から離させたのだ。
正確には短剣版木刀で外来人の手を殴って銃を吹き飛ばしたのだ。
その瞬間 僅か三秒。
「・・・は」
「たく、お銀ちゃん一世紀最大の原動力使っちったよ。お銀ちゃん原動力修繕費払ってくれる?あ、ちなみに小判ジャラジャラね」
生意気な口を叩きながらも、今の太刀筋から確実な猛者だ。
僕は驚きのあまり息をするのを忘れていた。
「こ、ここです!!なにやら、暴力沙汰があったらしくて・・・」
「あ?甘味処?」
暖簾が突然上がったと思ったら、完全に警察の人だった。
・・・やばい。
「あ、あの!逃げないと捕まりますよ?」
「え?ちょ、まじ?」
「そりゃあ、幕府の人に手を出したなんてしれたら捕まるでしょうが!!」
「あ、んじゃあとはよろしくね坊主」
は?
「あ、ちょ君。どこにいってんの?」
「え?い、いやさっき出ていったあの白髪の女の人が犯人ですって!」
「いやいや・・・君、廃刀令のご時世に木刀ぶら下げちゃって犯人ですって言ってるようなもんでしょ?」
僕はそう指摘されて腰の方を触れば、身に覚えのない感触を感じられた。
木刀が何故僕の腰にかかっている?
「・・・待てやゴルァァァ!!」
「いやいや、こっち来んなって!!犯人なら大人しく生きろよ!」
「俺は知らねえわ!!」
そのとき、目の前を走っている女の人の頭に何かが直撃して横に吹き飛ばされていたのを見てしまった。
「何やっとるんや・・・お銀」
「うげ」
そこにいたのはタバコを口にくわえた化粧の濃いお婆さんだった。