第二訓 君の瞳に映るのは死んだ目をした女だった
「おばちゃぁん、特盛ぱふぇちょーだい」
「仕方ないねぇ。ツケは無しよ?」
「安心しろって。収入入ったんだよなぁ」
甘味処と書かれた暖簾を潜り、入ってきた手入れ感ゼロの白髪に死んだ目をした緑目の女は台所にたつおばさんとそのような会話を繰り広げていた。
ツケは無しと言われるあたり、相当なツケが溜まっているのだろう。
「うわぁ、相変わらず殺しにかかる美味さだわ。こりゃあ医者の忠告なんて聞いてられねーよ。」
頂きますと呟いた直後に女は口いっぱいに、一目見るだけでも胃もたれを起こしそうなそのぱふぇを放り込んだ。
大量の白い物体と化した生クリームは口に入れれば溶け始め、ふわふわとした食感の後にほんのりとした甘さが舌に襲いかかる。
それに追い打ちをかけるようにまばらにかけられていたチョコレートはパリパリとした感触とともに甘ったるい香りを口内に放った。
つまりあれだ、物凄く甘ったるいが美味しいのだ。え?これだけじゃ伝わらないって?
簡略にいえば、一般人が間違えて食せば砂糖を口に放り込んでいるような気持ち悪さに襲われるのだ。
「お銀さん、いい加減控えないとお医者様にぶち殺されますよ?」
「おばちゃん、これ食べて死ぬくらいなら本望だわ」
「おいおいにぃちゃんよぉ。こりゃあどーしてくれんだい?俺らは幕府のものだぞ?」
平和な雰囲気は一変。店の入口の方から喧嘩の声が聞こえたのだ。
女ーーお銀はそちらをチラ見してため息をついた。
*
ここ、日の丸では廃刀令により幕府の者達以外は持つのを禁止された。
それは思想にも襲いかかり、道場を建ててた者達も取り壊すか、相当な年貢を収めなければならなかった。
道場持ちの僕 永蔵慎八は金が足りないために姉と共に(働き口は別だが)歌舞伎町で働いていた。
そんなことを毎日くりひろげていたある日・・・
「おいおいお兄ちゃんよぉ。なにジュースこぼしちゃってくれてんの?これ、この前洗ったばっかなのによぉ」
「うわぁ、これ醤油を零した時並に取れねーぞ。」
外来人に目をつけられた。
外来人はこの日の丸を(無理やり)開国させ、幕府の最深部まであっという間に根を張った奴らだ。
「申し訳ございません!!今すぐ片しま、」
「おっと、足滑っちった」
どうやら僕は足を引っ掛けられたようだった。
僕は勢いよく引っかかり、顔から地面に着地した。
恥ずかしいこの上なし。
「おいおい、舐めて綺麗にしますってか?これだから日の丸の奴らは恥ずかしいっつーの。」
恥ずかしいが、手を出せば僕も姉上も道場もおしまいだ。
僕は涙を堪えながら零した甘味を片付けようとした時だった。
「おいおいガキのいじめですかコノヤロー。せっかくの特大ぱふぇが不味くなっちまうじゃねーかよ。」
中性的な声が僕の耳に入った。
外来人にも聞こえた様子で、そちらに目を向けている。
「ガキの喧嘩なら○玉握り潰すくらいで済ませろよっての。下品かお前ら」
「お前が一番下品だよ」
「おいおい、女が何言ってくれてんだ。俺達は幕府のもんだぜ?」
その女の人は特別臆す様子も無く、その口を閉じることはしなかった。
「幕府のもの?歌舞伎町に来た時点で、そんな身分童○のチ○カスも同然だぜ?なぁ坊主」
「女なのに何いってんですか。てか、僕に話振らないでください」
「あ?守ってやったっつーのに・・・これだから最近の若もんは」
女の人がそのウザイ口を続けようとした時、彼女の額にカチャッと銃の音がした。
その人の生意気な口で微妙に和んでいた自分の心は一気に引き締まる。
「危なっ!!」
「いい加減に黙れ女。俺たちの前でよくも"魂"を侮辱してくれたな」
「死罰に値しても仕方はねぇ。」
「え、何?え、もしかして自分たちが童○だってこと女に当てられて照れ隠ししてんの?
えー、全く田中くん恥ずかしがり屋なんだからァ」
「いや、田中くんって誰だよ!? 」
そのとき、彼女に向けられていた銃の引き金を引く音がした。
「お前の命はここまでだ。」