表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幸せなトロッコ

作者: 白内 十色

トンネルの中を、一台のトロッコが走っていました。

暗い暗いトンネルの中、トロッコは誰かに敷かれたレールの上を、ただがむしゃらに走り続けていました。


ある日、トロッコは気付きました。自分が走っているレールの先で、4人もの人が作業をしているのです。このまま走っては、彼らを殺してしまうことになる、とトロッコは思いました。


しかし、何ということでしょう。長い間走り続けているうちに、トロッコは立ち止まり方を忘れてしまっていたのです。今まで、トロッコは進むことしか知りませんでした。トロッコの前にはいつだってレールがあり、それに従えばいいのだと信じていました。


トロッコは、自分が走っているレールのことを、疑ったことなどありませんでした。ましてや、それが人を傷つけてしまう道だったなんて。トロッコの胸は悲しみで張り裂けてしまいそうでした。いっそ自分が張り裂けてしまえば、4人は助かるだろうなんてことも、考えていました。


走り続けるトロッコの前に、分岐点が姿を現しました。進むレールを切り替えるための分岐点です。分岐点を曲がれば、4人を助けることができるかもしれません。ああ、しかし、今やレールの上を暴走しているトロッコには、分岐点を動かすことはできないのです。トロッコは悲しみました。


その時、分岐点の動く音がしました。誰かがそれを操作したのです。トロッコは背中を押されるようにして道を曲がり、4人の姿は視界の端へ消えていきました。


トロッコは安心しました。しかし、その安心も長くは続きませんでした。またもやレールの先に、1人、あどけない少年の姿が見えました。人を傷つけることは避けられないのだと、トロッコはまた悲しむのでした。


しかし、少年が言うのです。


「少し早さを緩めておくれ。僕を連れて行ってはくれないか」


トロッコは驚きました。


それまでトロッコは一人でした。レールの上を走っていましたが、「誰かと」走るなんてことは考えたこともありませんでした。


トロッコの中で、ブレーキが目覚めました。誰かとともに生きるためのブレーキです。トロッコの速度は、だんだんとゆっくりになりました。


少年は走ってきたトロッコに飛び乗ると言いました。


「君と一緒にいると楽しそうだ。一緒にどこかへ行かないか」


トロッコは喜びました。


トンネルの中を走りながら、トロッコと少年は話をしました。これまでのこと、これからのこと。

聞くと、分岐点を切り替えたのも少年だったのです。やがて暗いトンネルにも、出口が見えてきました。


トンネルを抜けると、そこは何もない広大な草原でした。誰かに作られたレールも、もうありません。トロッコと少年は、これからは自分でレールを作り、どこまでも旅を続けるのでした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ