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魔術師の襲撃

「さて、この子たちにご飯をあげたいひとー!」

「はい、はい、はい!」


 今日も変わらず動物園は親子連れでにぎわっている。

 一日に三回しかない餌やりの時間がやって来た。

 だから私は銅貨と野菜スティックを交換していく。

 ミラも一緒にお手伝いをしてくれている。


 そして、そこかしこでポリポリとホーンラビットが餌を食べる音が聞こえてくるようになったその時――


「ミサキとやらはいるか!」


 突然、大声とともに、武装した兵士たちが押し寄せてきた。

 その数、四、五、六……七名もいた。

 皆の視線が入口へと注がれる。


「ほら、客は帰った、帰った!」


 兵士たちは金も払わずずかずかと園内へ乱入してくると、大事なお客さんたちを外へと追い出してしまった。


「ここに魔獣を闇取引しているという者がいると聞いた。お前のことだな?」


 兵士の中に一人だけいた、若い魔術師っぽい男がそう問いかけてきた。


「お前に魔獣の不法所持の疑いがかかっている。この魔獣はどこで入手したんだ?」


 声も態度も威圧的だった。


 生きた魔獣を所有できるのは、召喚士かテイマーに限られている。だからそれ以外の能力のない人が生きた魔獣を飼うなどすると、法律違反となる。


 私はこれでも一応召喚士だ。だから不法所持などしていない。


「えっ、全部召喚獣ですけど?」


 だから毅然とした態度でそう答えた。


「冗談を言うな! ひとりでこれだけ同時に召喚できるわけないだろう。しかも餌をあげていると聞いた。召喚獣なら餌は必要ないのでは?」


 餌が要らないことは知っているが、これは動物園を運営するうえで必須の体験コーナーだ。それにしても「ひとりでこれだけ同時に召喚できるわけない」というのはどういう意味だろう。


「沈黙は肯定と捉えるぞ。おい、コイツを連行しろ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 今からちゃんと証明しますから」


 そこで私はこの子たちが召喚獣であることを証明するため、ケルベロスのケロちゃんを亜空間へ転送する。ケロちゃんはその場で音もなく消え去った。


「ふん。ギルドでケルベロスを召喚したというのは本当の話だったようだな。ならコイツはどうだ?」


 娘のミラに「ジャンボ」と名づけられたジャイアントボアを亜空間へ転送する。


「ふ、ふんっ。なら、コイツは――」


 男が全てを言い切る前に、指さした魔獣を転送する。

 いちいち順番を指定されながら転送するのは面倒くさい。私は残りの魔獣を次々と転送していく。そしてあっという間に『ミサキふれあい動物園』から動物が消え去った。


「…………」


 魔術師の顔からツーッと脂汗が流れ落ちた。


「えっと……召喚獣を維持し続けるにはずっと術者の魔力が必要なことは知っているか?」

「はい」


 そんなの常識だ。


「子供であっても維持するための魔力量は、成体と変わらないことも知っているか?」

「はい」


 それは全然知らなかった。

 だけど知らないというのも癪に障るので、肯定しておいた。


「なら、どうやってそれだけの数の召喚を……」


 この人はまだ疑っているのだろうか。


「なんなら今から喚んでみましょうか」


 私はニコリと笑顔を作る。

 ついでにSランク魔獣を召喚するときと同じだけの魔力量で、召喚魔術の発動を始める。

 あたりは一気に暗黒に包まれ、冷たい風が巻き起こる。

 すると、男の顔がみるみると青いものになっていった。


「ひ、ヒェッ! お許しを!」


 じり、じり、と後ずさったかと思ったら、回れ右をする。

 そしてなんだかよく分からないまま、魔術師は逃げるように去ってしまった。

 そして残った兵士たちも金魚の糞のように、出て行ってしまった。

 私はそのまま召喚魔術を完成させる。


「わふん!」「キュイーン」「あうっ」


 可愛いケルベロスの赤ちゃんが、新しい動物園のおともだちに加わった。


「ママ、行っちゃったね」

「うん……」


 誰もいなくなった動物園で、私たちはぽつんと立ちつくす。

 クゥン、とケルベロスが鳴くので、抱っこして生まれたての毛皮をモフモフと堪能する。


 それにしても……。


 結局彼らはなにを言いに来たのだろうか。

 意図せずに追い返すような形になってしまったが、今度はもっと大勢で攻めてきたりしないだろうか。考えれば考えるほど不安が押し寄せてくる。


 これからの動物園の運営は、どうしたらいいのだろう。

 今日は営業再開できる雰囲気でもないし、明日も休まなければならないのだろうか。


 せっかくうまく回り始めたというのに……。


「ママ……」


 ミラが心配そうな目で私のことを見ていた。

 私が不安そうな顔をしていてはダメだ。


 どうなろうと、この子をしっかりと守らなければならない。

 お母さん、頑張るから。


「大丈夫だよ、ミラ」


 私の手をつかむミラの手を、ぎゅっと握り返した。


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