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ミサキふれあい動物園

 思いついてから一ヶ月が経過した。家の庭は動物園らしい形になって来た。


 自然な生態が観察できるスライムの湖畔。

 S級魔獣を観察できるドラゴンの丘。


 まだ角の生えていないホーンラビットは、小さな柵で囲って小動物とのふれあいコーナーを再現した。


 もちろん動物園には無くてはならない餌やり体験もできるようにする予定だ。実際のところ魔獣だから私の魔力さえあれば生きていけるが、ここはまあ、鉄板なので形だけでも。


 そして目玉はケルベロスのレース場。


 もちろんケロちゃんたちの背中にはゼッケンをつける。熱い戦いになるのは間違いないだろう。みごと勝者を当てたお客さんは、抱っこしてモフモフする権利が与えられる。


 そんな感じで、動物園としては狭いながらも工夫はいっぱい凝らした。


 最後に玄関に看板を取り付ける。

 その名も、『ミサキふれあい動物園』だ。


「ねえママ、なんで魔獣しかいないのに動物園なの?」

「うっ……」


 もっともなミラの突っ込みに私は固まる。そういえば、動物園を作るということに意識しすぎて、扱っている生き物が魔獣ということを忘れていた。


「あ、えっとね……みんな魔獣って聞くと怖くて近づきにくいでしょ? ほら、ママの召喚獣ってお利口さんばかりだから」

「そっか! 動物さんだと怖くないもんね!」


 慌てて取り繕ったが、ミラは好意的に受け取ってくれたようだ。


 入場料はパン一つ分である銅貨三枚に設定。

 これなら気軽に来てもらえるだろう。

 近所に開園のチラシを配り、いざ、オープンの日がやって来た。




「…………」

「…………」

「ママ、誰も来ないよ」

「うん。誰も来ないね」


 しかし、お客さんは誰も来なかった。動物を、いや、魔獣を愛でるためにお金を払うという文化がないからだろか。私たちはちびっ子魔獣たちを眺めながらぼうっと時間を過ごす。


 あ、ケロちゃんが給餌用のニンジンを食べた。

 ポリポリポリポリとする音だけがむなしく響き渡る。


「ママ、暇だよ」

「ケロちゃんと遊んで来たら?」

「…………」


 結局そのままオープン初日の売上は、ゼロという結果になってしまった。




 しかし閑古鳥が鳴いていたのはたったの最初の数日間だけだった。


 近所の人を無料招待して体験会などを行った結果、あっという間に『ミサキふれあい動物園』は親子連れでごった返すようになった。




 ホーンラビットとのふれあいコーナーでは、さっそく子供たちの戯れる姿が見られるようになっている。


「わぁ、可愛いうさちゃんがいっぱい! 抱っこしていい?」

「もちろん。ほら、こうやって優しく抱えるようにして抱っこしてね」


 少女は恐るおそるといった様子で子ウサギを、いや、まだ角の生えていないホーンラビットを抱っこする。


「あったかーい!」


 そう。召喚獣とはいえこの子たちはれっきとした生き物だ。

 抱っこすればモフモフと温かいし、その吐息だって感じられるのだ。

 気づけは少女はそのお腹に顔をうずめていた。




 別のコーナーでは、大量のスライムを前に男の子が勇者のまねっこをしていた。


「オレ、冒険者になったらスライム、やっつけるんだ!」


 お、おう。堅実に低ランクから修行するのは大事だ。でも少年よ。夢はもっと大きく持った方がいいぞ。ケルベロスとは言わないでも、せめてオーガくらい単独で倒せないと、くいっぱぐれてしまうぞ。




 やはり人気があるのは、S級魔獣ばかり集めた魔大陸ゾーン。この界隈では見られない魔獣が見られるということで常に黒山の人だかりができている。


「お母さん、このワンちゃん、頭が三つあるよ!」

「これはね、ケルベロスっていって魔大陸にしかいない凶暴な魔獣なのよ。この前絵本で見たでしょ?」

「ふーん。でも、全然怖くないよ」

「この子はまだ赤ちゃんだからよ」

「そっか! かわいいね!」


 ちゃんと教育の場としても機能しているようだ。


 そんな様子を眺めつつ、私はふれあいコーナーへと足を運ばせる。

 相変わらず小さな子たちが、これまた小さなホーンラビットと触れ合っていた。


「はーい、この子たちにご飯をあげたい子はいるかな?」

「はいはいはい!!」


 あちらこちらから手が挙がる。

 あ、大人の手もちらほらと挙がってる。


「では、銅貨一枚でこの子たちのご飯と交換です」

「えーーーー!」


 子供たちから一斉にブーイングが上がる。

 しかし、これは原価がかかるから仕方ない。それでも親から銅貨をゲットした幸運な子たちの手に次々と野菜スティックが渡っていく。


 ポリポリポリポリ。

 ポリポリポリポリ。


 あっという間に、そこかしこで餌をはむ小動物たちの姿が見られるようになった。


「あー、忙し、忙し」


 餌やり体験は、これでいったん終了だ。

 次はメインイベント、ケルベロスのレースだ。


「さあ、今日のメインイベント、ケルベロスのレースが始まりますよー!」


 私は大きな声を上げ、六色のゼッケンを装着した六匹のケルベロスを従え、園内を練り歩く。とうぜん注目を浴びることになり、観客がゾロゾロと集まって来た。


「さあ、ここに赤から青まで六匹のケルベロスがいます。どの子が勝つのか予想しましょう! 銅貨一枚でこの予想札と交換できます。見事的中させた方はなんと、ケルベロスを抱っこする権利が与えられます!」

「おぉ!」


 周りからどよめきの声が上がった。

 ケルベロスなんて触れることは一生に一度もないだろう。それが抱っこしてモフモフできるのだ。


 予想札は飛ぶように売れた。

 ケルベロスがパドックに入り、レースの準備が整った。


「では、レースを始めます!」


 サラマンダーの吹いた小さな炎が鐘を鳴らすことで、ケルベロスが一斉に走り出した。


「さあ、動物園の外周を一周するレースの幕が切って下ろされました。まず先頭に出たのは黄色。黄色です――――」


 予想通り、ケルベロスのレースは熱く盛り上がった。

 ケルベロスたちは、小さな動物園の外周を走るコースを二周走る。


「がんばれー!」

「おらぁ、いけー!!」


 そこかしこで自分が選んだ色を応援する声が上がる。

 最終コーナーを回る頃には、小さな子を始め、親御さんたちも大きく熱狂した。


「大外から赤、赤が出てきたー!」


 ミラの本命、ケロちゃんだ。


「ケロちゃん! 頑張れー!」


 ミラも思わず大きな声を上げた。

 そんな声に背中を押されるかのようにケロちゃんはさらに加速。後続を引き離していった。


 そしてそのまま赤ゼッケンであるケロちゃんが一番でゴールイン。


「優勝は、赤、ケロちゃんでした!」


 園内は大きく湧き上がるのだった。




 一日が終わってみれば、来場者数は百人を超え、売上も銅貨四百枚以上になっていた。

 食費にすれば一ヶ月分以上になる。

 いずれ飽きが来て売上は減っていくだろうけど、これは大きな収入だ。


 しかも自分の能力を生かして初めて稼いだお金だ。

 これほどに嬉しいことはなかった。

 できることならこのまま動物園を続けたい。私はそう思わずにはいられなかった。


 しかし翌日。

 そんな私の考えに水を差す出来事が訪れた。


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