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そうだ。動物園、はじめよう。

 翌日。失敗続きがたたり闘技場が借りられなくなった私は、無駄に広い自宅の庭で召喚の練習を続けることにした。召喚術師が同時に使役できるのはせいぜい一匹から二匹と言われている。それならば自分ができる最高位の魔獣を召喚するに越したことはない。だからずっとSランク狙いだった。


 ちなみに私が既に何匹も使役できているのは、それらがすべて子供だからだろう。


「天界の魂よ。地獄の怨霊よ――」


 私は呪文を唱え始め、召喚するターゲットの魔獣をイメージする。


 可能ならば昨日のケルベロスを再び試してみたい。しかし、庭で行うならばご近所さんへの配慮も欠かせない。昨日のような広範囲に派手なエフェクトが起こるSランク魔獣の召喚はできない。だからAランク魔獣にターゲットを切り替える。


「――――出でよ、ジャイアントボア!」


 Sランクよりもかなり小さめの魔法陣から姿を現したのは、これまた小さな猪だった。


「ウリボッ♪」

「うっ……可愛いけど…………」


 やっぱり結果は同じだった。ジャイアントボアは、Aランクとはいえ軍の一個大隊を単騎でせん滅する戦力があるとも言われている。召喚に成功すれば充分な収入を得ることができるはずだった。しかし、それが子供ともなれば話は違う。


 私の実力とターゲットの乖離が激しいから、子供ばかり出てくるのだろうか。その後、意地になった私はランクを落として何度召喚した。しかし結果は変わらなかい。召喚獣は可愛い子供ばかりだった。


 一匹。二匹。三匹…………五十二匹、五十三匹…………。


 ジャイアントボアを召喚すれば、可愛らしいウリ坊が現れ、ご近所のことを考えずケルベロスを召喚すれば子犬が。マンティコアを召喚すれば子猫が現れた。Bランク、Cランクと落としていったが結果は変わらない。そして最低ランクのスライムですら、手のりサイズのつぶらな瞳を持った小さな子が出てきた。


「もう、どうしろって言うのよ……」


 さすがに疲れた私はその場にへたり込む。

 東の空に大きく傾いた夕日が、私たちを赤く照らす。


 私がこの世界でなく、別な世界で生まれた移転者だから使いこなせないのだろうか。動物の王国のおじさんのように数十匹の愛らしい動物に囲まれながら、私は頭を抱える。


 せっかく召喚術が使えるようになったというのに。

 これで娘と二人でこの世界で生きていけると思ったのに。


 もちろんウェイトレスなどをして日銭を稼ぐことはできる。

 でも、そうなると毎日小さなミラを一人で留守番させることになってしまう。できればミラとはずっと一緒にいてあげたい。


 しかしそんなに甘い話はなかったということか……。

 神様から与えられたチート能力。一体、なんのために与えられたのだろうか。

 私は大量の子魔獣たちを引き連れて部屋に戻ると、壁に立てかけられた大ぶりの剣を見ながら小さなため息を零す。


 この剣の所有者である夫のライアンは、五年前に突然私が日本からこの異世界に移転してしまった直後。右も左も分からなかった私に生活する術を教えてくれた。


 かなり端折るが、そのことがきっかけで、私たちはゴールイン。娘にも恵まれ、日本では得られなかった幸せな生活ができると思っていた。


 しかしライアンは、ほんの二ヶ月前にクエストの最中に魔獣にやられてしまった。装備品もろとも食べられてしまったらしいので、メンテナンス中だったこの愛剣が形見だ。


 夫が遺してくれた貯えもいつまでもあるわけではない。そんな私の悩みをよそに娘は大量の子魔獣たちとキャッキャと戯れている。


「まるで動物園だよ……」


 ――どうぶつえん?

 その時、私の脳内にビビッと衝撃が走った。


「そうだ!」


 動物園、はじめよう。


 この世界には娯楽が少ない。せいぜい闘技場での出し物くらいだ。そんな血なまぐさいショーを子供に見せたくはない。だから子供向けの娯楽など、一切ないと言ってもよい。


 動物園といえば、様々な生き物を飼育し、展示しているテーマパークのようなものだ。

 もちろん私だって小さな頃は何度も遊びに連れて行ってもらったことがある。


 動物園ならば、子供たちのハートを鷲掴みにするに違いない。それに、私でも可愛いと思えるんだから、子供だけじゃなくて大人の需要もあるはず。子供とはいえ魔獣としての希少価値も高いはずだから、専門家への需要もあるはずだ。


 幸い、建物はしょぼいが目の前には大きな庭はある。近所迷惑にならないくらいには隣は離れている。既に大量の動物のような生き物がここにいるのだ。ここを使えばお金はほとんどかけずにできる。


 私はケルベロスを両脇に抱えながらイメージを膨らませる。


 そうと決まれば早速動くのみだ。私は商業ギルドに登録すると、開業の用意を着々と進める。


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