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第一話 犬と王子様 8

 あるのは仕事をしているか、仕事を待って待機しているかのどちらかだけだ。


「おい、散歩なら昨日行ったじゃないか」

 長門は、首輪と手綱を銜えてベッドの横で座り込んでいるクラディスにそう言って、布団の中に潜り込もうとした。


 恨みがましく唸りながら、クラディスは前足をベッドにかけると、カバーを引っ張ろうとしている。

 

 長門は仕方なく上体を起こした。

「あの男は、躾がなってないな。女は甘やかすだけのものじゃないぞ」


 長門がそうボヤいている間にも、クラディスはそのほうきのようなしっぽで床を掃きながら、早く行くぞとせかしている。


 犬と言うのは、毎日散歩に行くものらしい。


 眠り、食事をして散歩をし、人間の邪魔をする。

 愛玩犬とは、何と面倒なものだろう。



 長門は皴になったシャツを替えるでもなく、洗面とトイレだけ済ましてクラディスから手綱をとった。


 クラディスは昨日と同じ公園に向かって、確信的にグイグイと歩いていく。

 昨日の散歩でコツを掴んだ為に、クラディスに引きずられることもなかった。


 クラディスの目当ては、昨日の少女だろう。しかし時間帯は同じでも、あの公園にきているとは限らない。


 しかし、少女はいた。


 昨日と同じように、ランドセルを横において、ベンチに腰掛けていた。

 長門は普段断っている気配を、今度は消さずに近付いた。仕事柄、長門は足音も立てずに歩く。


 しかし少女が、気配で分かると言っていたのは本当らしい。

 見えない分、補う能力が発達しているのだろう。数メートル手前で長門達に気付いて、顔をこちらに向けた。


「クラディス。そこにいるのはナガトさん?」

「ああ」


 長門はクラディスの手綱を離すと、後は犬の好きにさせてやった。

 クラディスは、少女の差し出した腕に身体を預ける。


 長門は、昨日と同じようにベンチの端に腰掛けた。


 今日の空も、よく晴れていた。

 小春日和(Indian summer)と言うのは確か、秋の上天気を差す言葉だ。


 長門は何かを持て余すのを厭うように、またしても潜ませてきたアルコールのミニボトルの封を破った。


 長門は何も考えずに、ただ時が過ぎるのを待っている。


 大型犬と戯れる少女と、昼間から酒を喰らう風体及び人相の悪い男という取り合わせは、さぞかし妙なものだろう。


 夕暮れ前の公園には、他に人の姿もない。


「ナガトさんは、小さい頃ってどんなだった?」

 突然、少女がそう尋ねてきた。


 長門は自分のことを聞かれたにも関わらず、まるでクラディスの小さい頃のことでも聞かれたように、返答に窮した。


 どんな子供?

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