第一話 犬と王子様 18
今、誰はこんな仕事をしていて誰がどんな事件に関わっているかと、まるで長門が聞きたがっているかのようにして話してみせる。
自分の知ったことじゃないし、お節介にもほどがあった。
「あなた達みたいな嫌な奴らでも、こうやって会うと嬉しいものね」
あなた達と、一緒くたにされてしまった。
クラディスはクラディスで愛美を嫌っているようだが、愛美の方でもこの犬のことを嫌っているらしい。
勿論、長門のことも嫌っていることは確かだ。
ただ愛美は、クラディスの鼻面を引き寄せると、キスをした。
大して嫌っている訳ではないのか?
クラディスの方は、傍目にも分かるほどの仏頂面で愛美の腕を振り払うと、ソファで飲んでいた長門の足元に潜んだ。
長門が下を見ると、クラディスがズボンの足に鼻をこすりつけるところだった。
まるで汚れ扱いだな。人の服で拭いてどうすると言いたい。
愛美は、クラディスの行動には気付いていなかった。
いなくて結構。
「やっぱり家が一番よね。落ち着くもの」
愛美は、足元にスポーツバッグを放り出す。
そう言うとソファに倒れ込んで、爪先部分を引っ張るようにして紺色の靴下を脱ぎにかかった。
長門は、ようやく落ち着きを取り戻して、
「仕事は? 寮じゃないのか?」
と、単発的な質問をした。
当分帰ってこない、当分と言うのは、一体どれだけのことを指すのだ。
綾瀬と会ってから、今日で四日にしかならない。
つまり、クラディスを預かってからと言うことになる。
綾瀬と愛美の言葉を思い出そうと、長門は必死に努めた。
「土日は、家に帰れるのよ」
そうだ。
埼玉かどこかの全寮制の高校が、今度の赴任先らしい。
猟奇事件の起こる曰くつきの学校に、単身潜り込むことになったとか。
男女共学だがかなり審査が厳しく、仕事で転入するにも関わらず、東大寺は落とされた。
臨教として紫苑を使うことも、断念せざるを得なかったほどだ。
難しい仕事になると愛美は零していたが、不安そうな様子は微塵も見せなかった。
今もそうだ。
多分音を上げるにしても、長門の前なんかではないだろう。
「たかが一週間で、もう音をあげたのかって言いたいんでしょ。寮暮らしより、気ままなこの家の方がずっとましだわ。料理は、私が作るよりはおいしいけど」
愛美は足元に靴下を丸めて置くと、長々と足を伸ばしてそっくり返った。
セーラー服が上がって、中のタンクトップが丸見えだ。
いまいち自分の立場を理解していないらしい。それとも、女を捨てているのか。
そんなにそっくり返っていると、スカートから下着が見えるぞ。