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第一話 犬と王子様 10

 だからこそ目に付いた中で、最も金目のものを持っていそうな男を狙ったのだった。


 それが、以後長門に父と呼ばせるようになった男だ。


 長門は、言われたことだけをやる子供だった。

 自分の考えと言うものが、どこにあるのかすら分からない。

 考えなんてものは、殺し屋には必要ないことだとも男には教えられた。


 言われたことを忠実に守る長門は、彼の組織にとって、とても都合のいい人間だったことだろう。


「Good boy」

 長門の凉れたような呟きに、少女は不思議そうな顔をした。


 長門は、今度ははっきりとした日本語で答えた。

「いい子だと言われていた」

 少女が羨ましそうな顔で、ふうんと頷いた。


 男はいつも、ぴったりとした黒のスーツを身につけていた。

――You are good boy.(お前はいい子だ)

 

 幼い長門にすれば、大人の年齢など計りようもなかったが、暗黒街に顔の利く人間にしては、とても若いと言えた。

――You will be a good professional killer.

(いい殺し屋になる)


 長門は、男がどんな顔をしていたのかさえ、もう覚えていない。

――You are good boy. You have nice skills.

(お前はいい子だ。いい腕をしている)


 ただ声だけは、別れて三年近くたった今も、忘れてはいなかった。


――good boy.Great! (いい子だ。よくやった)

 大きな声で、笑う男だった。笑ってはいても、顔は笑っていなかった。そんな男だった。


――Lisening to me After this. Are you OK.(これからも私の言うことを聞くんだ。いいね)


 長門は誉められる度に、何を感じていたのだろう。


 何も感じず、何も考えなくていい。


 長門は言われた通りに、何一つ感じようとはしなかった。全て、言われたことを黙々と熟すだけだった。


――Yes.Big father.(はい。お父さん)



「あたしは駄目」

 少女は、クラディスの首に顔を埋めた。

 クラディスはまるで母親のような眼差しで、抱かれるままになっている。


「嘘を吐いたり、友達に意地悪したり、悪い子なの」


 長門はどう返事をしていいものか分からずに、舌先をアルコールで湿らせた。

 アルコールとて長門を饒舌にし、違った姿には変えてくれない。


 今まで一度として酔ったことはなかった。酔い潰れ、正体を失くしてみたいとも思わない。

 自分で自分がコントロールできなくなることは、長門には求められていない。

 

 機械のように正確に、ただ言われたことだけを遂行する――長門は、殺人機械なのだから。

 自分に求められているのは、その一点においてのみだ。

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