4.潜入開始
4.潜入開始
派遣従業員用のロッカールームで清掃員の作業服に着替えた美紀は年配の女性上司と一緒にゴミ置き場へやって来た。
業者が回収を済ませた後の清掃を行うためだ。
「ゴミ置き場だからって手を抜かないように。こういうところこそ清潔にしておかなければならないのよ」
上司は部下が出来て張り切っているようだ。美紀はうんざりした表情を浮かべてデッキブラシを手にした。
正規の会員として入会できない以上、手段は従業員として入り込むしかなかった。しかし、あいにく社員はもとよりアルバイトの募集さえされていなかった。美紀は仕方なく矢沢の言う通り清掃業務を請け負うメンテナンス会社から清掃員としてスポーツクラブへ派遣されることになった。
ジムが営業を始めるころには一通りの作業を終えた美紀と上司は休憩室で一休みしていた。
「古市さん、ちょっと館内を見学してきてもいいですか?」
「お客さんの邪魔にならないようにするんだよ」
上司の古市はタバコの煙を吐き出しながら言った。
午前中の早い時間だ。利用者はまばらだった。そんな中、すれ違った二人組の女性の話し声が耳についた。
「そう言えば、森山さん、失踪したんですって?」
「噂じゃ、小山さんと駆け落ちしたらしいわよ」
「えー! おとなしそうに見えてやることはやるのね」
「旦那さんがいい年だから遺産目当てだって噂もあるのよ」
二人はそんな話をしながら遠ざかって行った。美紀は二人の顔を頭の中に焼き付けた。
「見かけない顔だけど、新しい清掃員さんかしら…」
不意に声を掛けられ美紀はハッとした。
「あの二人の話なんかまともに聞かない方がいいですよ」
そう言ったのはジャージ姿の若い女性だった。ネームプレートにはインストラクター“金井実奈美”と表示されていた。
「あの…。森山さんのことをご存じなんですか?」
「私が担当していたから。それが何か?」
実奈美は怪訝な表情で美紀を見つめた。