3.セレブな入会金
3.セレブな入会金
矢沢と黒木が事務所を出ると、美紀はパソコンの画面からスポーツジムのホームページへアクセスした。入会の手続きをするためだ。画面を眺めながら美紀は入会金の数字を何気なく数えてみた。
「一、十、百、千、万…。ひゃ、百万! ウソでしょう!」
なんと、入会金が百万円だと言う。さすがにセレブ御用達のスポーツジムだ。美紀は電話の受話器を持ち上げ、プッシュボタンを押した。
矢沢と黒木は駅への道を並んで歩いていた。
「先輩はどちらへ行かれるんですか?」
「気にするな」
そう言って矢沢は駅へ向かう黒木とは途中で別れた。そして、先ほどまで居たパチンコ店へ入って行った。席に着いた時に携帯電話が鳴った。
「どうした?」
相手は美紀だった。
『ジムに行けないわ』
「なんで?」
『入会金が百万もするの』
「バカか! 誰が入会しろと言った! 掃除婦でも何でもいいから潜り込め」
『えー! そんなの…』
美紀の愚痴る声が聞こえて来たが、矢沢は即座に通話を切った。
「さて、仕切り直しだ」
黒木は署に戻るとデータベースにアクセスした。森山栄治という名前では何も出てこなかった。ところが、意外な人物の犯罪歴がデータベースに残っていた。
「ん? これって…」
そこに有った名前は永野雅代。添付されている顔写真は森山の妻、雅代にそっくりだった。傷害事件を起こしている。森山と結婚する1年前だ。
「調べてみる価値がありそうだな…」
確率変動に突入したファンファーレが鳴り響く。それを妬ましく横目で睨んで、矢沢は吸いかけのタバコを吸い殻入れに押し付ける。あれから2万をつぎ込んだものの一向に当たりを引いてこない。
「クソッ! なんて日だ!」