29.人相の悪い客室係
29.人相の悪い客室係
矢沢は雅代と小山がチェックインしている部屋の前に居た。
新米のフロント係は矢沢が手帳を見せる素振りをしただけで勝手に警察だと思い込んだ。矢沢が二人の名前でチェックインしているかと尋ねたところ、さすがに本名ではチェックインしていなかった。そこで二人の写真を見せると新米のフロント係も覚えていた。
部屋のドアがノックされた。小山が確認に行った。ドアチェーンをしたまま少しだけドアを開けてノックの主を確かめた。人相は悪いが服装からしてホテルの客室係のようだった。
「何の用ですか?」
「木下様からのお届け物をお預かりしております」
小山がドアチェーンを外すと、客室係は強引に部屋の中へ押し入ってきた。
「な、なんなんだ? いったい…」
客室係は小山には目もくれず、雅代の傍まで歩み寄っていった。
「木下はもう戻ってこないぞ」
「そうだと思ったわ」
雅代は驚くこともなく冷静に客室係に向かって微笑んだ。
木下は佐久インターチェンジから上信越自動車道へ入ろうとしていた。高木の車で木下を追っていた巡査は携帯電話を取り出して県警本部へ連絡を入れた。そして、木下を追って上信越自動車道に入った。入ってすぐに車が失速し、停車した。メーターに目をやると、燃料がなくなっていた。
「なんてこった…」
高木と美紀は森山のRV車でホテルへ向かっていた。運転しているのは秘書の真理恵だ。
ホームセンターで森山と接触した二人は森山が木下と何らかの取引を行ったと推測していた。しかし、森山はこう答えた。
「失踪中の妻から連絡があってね。気晴らしの一人旅をしていると。いいところだから来ないかと誘われたのでね。これから妻と合流して週末を一緒に過ごそうと思っている。妻と合流したら探偵さんには連絡をするつもりだったんだ」
そして、森山のカバンの中身は着替えの衣類や旅行用品しか入っていなかった。




