22.愛と富
22.愛と富
「長野じゃないのね」
美紀が言った。
「藤岡ジャンクションから上信越道へ分岐しているんだ。たぶんそのルートじゃないかな。木下たちはメルヘン街道を佐久方面へ向かっているみたいだから」
「あら、メルヘン街道?」
「僕も詳しくは知らないけれど、ルート299のことをそう呼ぶみたいだよ」
黒木が予測した通り、森山が乗ったRV車は藤岡ジャンクションから上信越道へ入って行った。
木下の言葉が雅代には意外だった。森山に嫉妬しているという言葉が。
「あいつは人としては最低だけど、綾さんが望むものを何でも与えられる。どんなに愛していても俺には与えられないものをあいつは持っている」
「だけど、可哀想な人よ。お金はあっても愛されることはないのよ」
「愛されないのだとしても好きな女をつなぎとめておけるのなら、それはそれで幸せなことだと俺は思う。俺は綾さんをつなぎとめておくことが出来なかったから」
「あの人は私のことなんかもう愛してなんかいないわよ」
「そんなことはないさ。だから、綾さんを取り戻しにやって来るんだ」
「世間体を気にしているだけだわ」
「そうかもな…」
木下は再び窓の外に目をやった。外はすっかり暗くなっていた。
雅代は生まれてこの方、男に愛されたと思ったことなどなかった。だから森山と一緒になった時も森山の愛情など期待してはいなかった。そんな時、通い始めたスポーツジムで小山と出会った。そのことで今まで抑え込んでいた異性への感情が変わり始めた。そして、小山を唆して駆け落ちをした。小山は木下に言われて雅代に近付いたのだけれど、いつしか、雅代のことを愛するようになっていた…。
木下たちが佐久方面へ向かっているという情報を得た矢沢は佐久へ向かって車を走らせていた。




