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20.野心

20.野心


 供述書にあった「たまたま通りかかった…」というのは嘘だった。森山は雅代と待ち合わせをしていた。そこで木下と雅代がもめているのを見た。雅代と待ち合わせをしていたことを知られたくなかった森山は雅代にも口裏を合わせる様に強要した。雅代は木下には気の毒だとは思ったけれど、それで森山の妻になることが出来るならと承諾した。この時のことが縁で二人は結婚をしたということになっているが、実際には雅代が森山の妻に収まるために仕組んだことだった。



 幼いころに両親を事故で亡くした雅代は親戚をたらいまわしにされた挙句、施設に入れられた。何度か里親が付いたこともあったが、雅代はそれを拒んで成人するまでその施設で暮らした。中学を卒業すると、アルバイトをしながら施設の手伝いをした。手伝いをしながら貯金し、二十歳を迎えると施設を出て一人暮らしを始めた。暮らしは楽ではなかったが、雅代には目的があった。そのために、稼いだ金は全て自分につぎ込んだ。学歴も教養もない雅代がのし上がるには“女”を武器にするしかない。そのために女を磨くことに稼いだ金をを全てつぎ込んだ。



 木下は出所してからずっと綾の様子を見守っていた。幸せそうにしている綾を見て安心もしていた。けれど、同時に監視していた森山は相変わらずだった。ただ、森山と結婚したことで綾は店に居る時から求めていたものを手に入れたのには違いない。それは決して自分には与えられないものでもあった。


 窓の外を見ていた木下が雅代を見た。目が合う。そして、更に雅代は話を続けた。

「あなたには申し訳ないことをしたと思っているわ。私のせいであんなことになってしまって…」

「その事で綾さんを恨んだことはない。ただ、あいつだけは許せない」

「あの人の女癖のことね。それを承知で私はあの人と一緒になったのよ」

「それも解かっている。綾さんがあいつを愛していないことも。そういう人生を綾さんが敢えて選んだことも理解している…」

「だったらどうして?」

「突き詰めれば、それは嫉妬だろうな」

「それなら、私のことなんか忘れていい人を見つけて」

「いや、俺が嫉妬しているのは森山に対してだ」

「えっ?」



 別荘で出前のラーメンを食べていた矢沢の携帯電話が鳴った。黒木からだった。

「なんだよ。飯食ってる最中に」

『森山が動きました。練馬から関越道に入って北上しています』

「それで、お前は今どこだ?」

『関越道です。森山の車を尾行しています…。所長、今度こそお寿司奢ってもらいますからね』

 電話口から美紀の声が飛び込んできた。

「なんでお前が居るんだ?」

 それはさておき、矢沢は黒木に森山を見失わない様に指示すると、再びラーメンにむさぼりついた。




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