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19.駆け引き

19.駆け引き


「あんた、何もんだ?」

 小山の伯父は矢沢の姿を見て不信感を募らせていた。それもそうだ。元刑事だとは言ってもその風貌はどちらかと言えばヤクザに近い。いや、ヤクザそのものだ。

「探偵だ。あんたは小山の親戚か?」

「そうだが、甥が何かしでかしたのか?」

「誘拐だ」

「バカな! あいつがそんな大それたことをするはずがない」

「すまん。言い方が悪かったな。人妻と駆け落ちした」

「…」


 矢沢は何とか小山の伯父を説得して別荘の鍵を開けてもらった。部屋の中を一通り見て回ると、居間のソファにどっかと腰を下ろした。

「まいったな…」

 そんな矢沢に小山の伯父は声を掛けた。

「ここで待っていればそのうち戻って来るだろう」

「いや、ここにはもう、戻って来ないな」

「どうして? 駆け落ちかどうかは別として、あいつは好きな人とここで暮らすと言っていたんだぞ」

「最初はそうだったかもしれんが、えてして予定は狂うものだ」

「じゃあ、あんたはこれからどうするんだね?」

「取り敢えず、腹が減った。何か出前でも頼めるかな?」



 全日食本社の社長室では森山が誰かからの電話を切ったところだった。

「車の用意を」

 森山は秘書の真理恵に告げた。

「どちらへ?」

「長野まで行く。急いでくれ。それと、車はベンツではなくて、RV車にしてくれ。そして、裏口に回してくれ」

「かしこまりました」

 森山が部屋を出ると警護の刑事が居た。

「どちらへ?」

「トイレだよ!」

 森山はそう言ってトイレに行くと、トイレの窓から外に出て建物の裏手に回った。そして、真理恵が運転してきたRV車に乗り込んだ。






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