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18.傷害事件の真相

18.傷害事件の真相


 木下がそれを見かけたのは偶然だった。

 その頃、木下は雅代の口利きで雅代が勤めていた店で働くようになっていた。出勤する途中でその光景を目にしたのだ。店は大通りに面した雑居ビルにあるのだが、わき道に入るとそこはホテル街だった。木下はそこを通った方が店への近道だったため、毎日そこを通って店に通っていた。そこであるホテルから出てきたカップルを見かけた。

「こんな真昼間からいい御身分だな。ん? あれは…」

 カップルのうち男の方には見覚えがあった。最近、店によく来る客だった。

「森山社長? 相手は…」

 相手は若い女性だった。

「奥さんかな? でも、奥さんとこんなところに来るか?」

 時間があったので二人の後を追った。大通りに出ると森山は女性をタクシーに載せて見送った。そして、そのまま近くの喫茶店に入った。驚いたことにそこでまた違う女性とあっていた。やはり若い女性だった。


 木下が店で店内の掃除をしていると、間もなく雅代たちが出勤してきた。

「綾さん、森山さんには気を付けた方がいいですよ」

「あら、どうして?」

「女癖が悪そうですから」

「男なんてみんなそうでしょう…。あ、君は違うわね」

 そう言って雅代は控室へ消えて行った。

 そして、その日も森山は店にやって来た。例のごとく綾を指名した。店が終わると綾は森山と食事に行くと言った。そんなことが最近多くなった。店の中では雅代が森山と結婚するなどという噂も立ち始めた。木下は雅代が森山にもてあそばれるのが我慢できなかった。そして、ある日、木下は意を決した。


 その日も雅代は閉店後に森山と会うと言った。翌日休みなので、そのまま森山の別荘へ行くのだと。そうなったら雅代が森山に辱めを受けてしまう。木下は力ずくでも止めようと店を出た雅代の後を追った。

「綾さん、森山はダメです。止めた方がいい」

 背後からいきなり声を掛けられた雅代は驚いて振り返った。そこにはいつもの穏やかな表情ではなく、鬼のような怒りに満ちた形相の木の下が居た。

「どうしたの?」

 木下は雅代を羽交い絞めにし、引きずるように連れ去ろうとした。

「ちょっと、止めてよ。もうすぐ森山社長が迎えに来るんだから」

「行かせない。あいつは女たらしの最低なヤツだ。綾さんをあんな奴の好きなようにはさせない」

「止めてってば。止めないなら、こうよ」

 雅代はバッグから護身用のナイフを取り出した。脅すだけのつもりだったのだけれど、木下はナイフを持った雅代の手を握りしめて自分の足にナイフを刺した。

「何してんのよ!」

「どうしても行くのなら俺を殺してから行ってくれ」

 血まみれのナイフを持ったまま雅代が呆然としていると、待ち合わせをしていた森山が車で到着した。



 窓の外の景色を見ながら雅代が呟いた。

「全部知っていたわ。一緒になる前からあの人が女癖悪いのは知っていたわ」





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