16.因縁
16.因縁
木下と小山が体操競技をやっていたのは、体操競技では県内屈指の名門校だった。高校3年の夏、インターハイ出場を決めた直後の練習中に事故は起こった。
木下はチームのエースだった。とりわけ、鉄棒競技では全国でも十指に入る実力だといわれていた。小山も団体戦のメンバーに選ばれていて、ともにインターハイでの入賞を目指して励んでいた。
「小山、ちょっとやってみろ」
鉄棒の新技を覚えたいと小山が木下に相談した。木下は自分が手本を見せてから小山にやってみろと言った。木下が補助をして小山を抱え上げた。その時、小山が鉄棒を掴み損ねて落下した。真下に居た木下を押しつぶすように。
「悪い、悪い。大丈夫か?」
声を掛けた小山は木下の様子を見て蒼ざめた。木下は右手の手首を押えて苦悶の表情を浮かべている。すぐに顧問が飛んできて救急車を呼んだ。病院で診断した結果、木下の手首は骨折していた。体操競技はもう続けられないとのことだった。
「気にするな。油断していた俺が悪い」
木下はそう言って、責任を感じて俯いている小山を慰めた。
「ほら、顔を上げろよ。それじゃあ、どっちが怪我をしたのか分かんないじゃないか」
エースを欠いたチームは予選で敗退した。応援席で見ていた木下は左手を握りしめ涙をこらえた。それ以来、木下は学校には来なくなった。
矢沢は別荘の前に車を停めると、そこに止められていたもう1台の車を見てナンバーを確認した。黒木から伝えられていたナンバーと同じナンバーだった。
「ビンゴ!」
別荘の周りを一回りして様子を窺った矢沢は他にもう1台分の轍があるのに気が付いた。
「遅かったか…」
急いで玄関に回り込んでドアを開けようとしたが、鍵が掛っていた。すると、そこに持ち主である小山の伯父がやって来た。
木下は雅代に指一本触れようともしなかった。小山が運転している新車の後部座席に木下と雅代が乗っていた。
「あの人を殺すつもりなの?」
雅代の問いに木下は答えず、窓の外を眺めた。




