11.爆発
11.爆発
「言っておくが金がないからじゃないぞ。俺は焼酎が好きなんだ」
ホステスに飲み物を聞かれて矢沢はハウスボトルの焼酎を頼んだ。この店では一番安いやつだ。
矢沢が黒木に電話を掛けたのは木下の所在が気になっていたからだ。そこに黒木が木下が勤めていたクラブに雅代も居たかもしれないと言う情報を聞かされ、湯島までやって来た。
黒木の推測通り、雅代は木下と同じ店で働いていた。話を聞いたホステスがスマホに保存されていた写真を見せてくれたのだ。“綾”と名乗っていたその女こそ雅代だった。そのホステスから話を聞き出すために、矢沢は黒木を伴って店に入っていた。
開店して間もないこともあり、矢沢と黒木の周りには4人のホステスがついていた。
「じゃあ、フルーツでも召し上がりますか?」
「焼酎にフルーツは合わんだろう。アタリメでも炙ってくれ」
必要な情報が得られたので黒木は早々に店を出たかった。ところが、矢沢は「1時間だけだ」と言い、そこに居座ってから既に3時間が経っていた。
「先輩、そろそろ行きましょうよ」
黒木に催促されると、矢沢はようやく重い腰を上げた。
「わかったよ。その前にちょっとションベン」
黒木は仕方なく矢沢が戻って来るのを待った。けれど、矢沢はいつまでたっても戻ってこなかった。そこへ矢沢から電話が掛って来た。
『わるい!急用を思い出したから先に出た。勘定頼む』
「そ、そんな…」
黒木の声が矢沢の耳に届く前に電話は切れた。
モーテルで朝を迎えた小山と連れの女は部屋のテレビに映し出されたニュース映像に目を止めた。全日食の工場で爆弾騒ぎがあったということをキャスターが伝えていた。
「雅代さん、これってご主人の…」
女はそんなニュースには見向きもせず、小山の身体にまとわりついた。
黒木はそのニュースを見て矢沢に電話を掛けた。
『ちょうど今見ているところだ。お前、詳細を調べてみてくれ』
黒木は電話を切ると現場へ向けて車を走らせた。




