10.もう一つの接点
10.もう一つの接点
雅代は指名が入ったテーブル席に赴き、挨拶をした。
「小峰社長、いつもありがとうございます」
「おう、綾ちゃん。今日は友人を連れて来たよ」
小峰は学生時代からの付き合いなのだと言って、連れて来た男を紹介した。
「どうも。森山です」
聞けば、森山は大手食品メーカーの社長なのだと言う。
「初めまして。宜しくお願いします」
雅代は森山に名刺を渡して、小峰の指示で二人の間に座った。
その日は二人とも二時間ほどで帰って行ったが、それがきっかけで森山は一人でもこの店に来るようになった。もちろん、来店した際には“綾”を指名した。
木下はホステスたちの世話をよくした。気分良くは働いてもらうために。中でも“綾”への献身ぶりには目を見張るものがあった。
「木下君って、綾さんのことが好きなのね」
その献身ぶりは同僚のホステスたちにもからかわれるほどだった。
「あの人、最近よく来ますね」
遠目に“綾”が接客しているところを眺めながら木下はマネージャーに尋ねた。
「なんでも全日食の社長なんでってよ。綾さんもいいお客をつかんだもんだ」
「そうなんですか…」
金持ちに気に入られて結婚したり、愛人になる話はよく聞く。木下は“綾”もいつか誰かに取られるのではないかといつも不安だった。
黒木はそのホステスからもっと話が聞きたかったが、店を開けるからとマネージャーに止められた。
「じゃあ、閉店後にまた来ます」
「だったら、飲んで行かない?もちろん、お代は頂くけど」
出来ることなら黒木もそうしたいが、あいにく刑事の給料でそんな余裕はない。まして、自分の仕事とは関係のない捜査では経費の申請も出来ない。矢沢が経費を認めてくれるとも思えない。
「いや、でも、仕事中なので…」
そこに黒木の携帯に着信があった。矢沢からだった。