救助
悲鳴の上がった場所では、その悲鳴を上げたであろう少女と、その子を取り囲む様に佇む複数の影、
五匹のウルフがいた。
「いやああぁぁぁぁぁーーー!!!」
少女は抵抗しているのか、ナイフをしきりに振り回している。その様子を、ウルフ達が見ている。心なしか楽しんでいる様にも感じられる。
そして、
「うっわ~~~、結構ヤバそうな状況だね」
私達は木の影から状況把握をしていた。
すぐ突っ込むと思った?残念不正解。
「ヤバそうっていうか、もうヤバイ感じでしょ」
ワタリドリちゃんの呟きに、私そう答える。最早絶体絶命、昇天まで秒読みだろう。
「あっはは~~~、そうだねぇ。で、どうする?」
ワタリドリちゃんが聞いてくる、少女を助けるかどうかを。
「そりゃもちろん、助けるよ」
ここで少女を見捨てるのは、この世界の情報を捨てるのと同義だろう。あの子は服装から見ても、日本人とは思えないし、この世界の住民だろうことは想像に難くない。
少女を助けるため、戦闘の準備をする。ウルフは、見た感じ中々大きい。私の背くらいありそうだ。ナイフでも倒せると思うけど、少女を守りながら戦うことを考えてもリーチは長い方がやり易いだろう。そう考えて、アタッシュケースの中から刀と例のレイピアに近い形状の剣を取り出す。
と、それを見てワタリドリちゃんが
「あ、『紅の月光』と『フラッド』だ。良かった、持って来られてたんだね」
と言った。
私はまあね、と言いながら、先述のカートリッジを取り出す。
『紅の月光』、『フラッド』とは、それぞれ刀とレイピア似の剣の名前だ。
刀『紅の月光』は、アタッシュケースに入れやすい直刀でありながら、最先端加工技術を取り入れることで素晴らしい切れ味を持っている。柄や鞘は黒く、長方形の形をしていて、納刀すると棒の様に見える。紅の月光、なんて長いので、普段はただ刀と呼んでいる。
特殊剣『フラッド』は、基本レイピアと同じ使い方の剣で、突きに特化した武器だけれどかなり固く作られており、折れにくい。また、単純ではあるけれど『特殊な機能』がついている。
………フラッドの持ち手にカートリッジを差し込み、準備万端。
「じゃ、行ってくる」
「がんばー」
木の影から出てウルフに気付いてもらう。
戦闘モード開始。
「ガルル………」
ウルフはこちらを認識し、少女から意識をそらす。こちらに近い順にウルフ1~5とする。
ウルフ1の3m前に来たところで、一気に踏み込む。
そして、右手に持った刀でもって、ウルフ1の首を切断する。
「グァ?」
悩ましい声と共に、ウルフ1は沈黙する。
「グアァァァッッ!?!?」
仲間が殺され、ウルフ達の警戒心が最大に達する。と、ウルフ2がこちらに突っ込んで来た。
ので、
反す右手でそいつの首もはねる。
残り三匹は、一匹ずつでは勝てないと悟ったのか三方向に散らばり、同時に飛びかかってくる。なので私は体制を落としながら前転、私の前から跳んで来たウルフ4の腹の下に潜り込み、胸から下腹部にかけての肉を、刀とフラッドで削ぎ落とす。
「ガグアッッッ!!!」
ウルフ4は血を撒き散らしながら重力に従い落ちていき、ウルフ3,5は避けられたことでバランスを崩す。その隙にウルフ3の間合いに入り、フラッドをそいつの首に突き刺し、
持ち手のボタンを押す。
と、
バチンッッッ!!!
ウルフ3の身体に電流が流れる。
「グアアアアアアァアァァァァァァッッッッッッッ!?!?!!!!」
ウルフ3の口から断末魔がもれる。そしてそれが止んだ直後、ウルフ3は崩れ落ちた。
ウルフ5に向き直ると、最早戦意は消え失せ、完全に硬直していた。
私はその首に、一太刀浴びせる。
終わった。
「はあぁぁー、疲れた」
「いやー見事見事」
ワタリドリちゃんが木の影から出てくる。
「さて………」
固まってしまっている少女に向き直る。
「…………はっ!」
少女が正気に戻って、私達を驚いた様に見上げてくる。
とりあえず話し掛ける。
「さてさて。きみ、大丈ぶ…………」
と言った所で。
少女の股下に、黄色い水溜まりが出来ていることに気付く。
少女もそれに気付き、赤面する。
「……………とりあえず、川でも探して洗おっか」