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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
躍動編
99/172

異世界探求伝 第九十八話 サウリーネ女史の脅威

かづきの思惑とは裏腹に、周囲ではある動きが加速しようとしていた。

かづきの側近とも言える彼女らにも、何かしらの異変が…

 キャッスルフォートの工房を視察中のかづきであったが、その頃チーム龍の女性陣たちは遅めの朝食を摂っていた。 モモとミクの両名は、それでも他の三人よりも早起きしたつもりであったが、途中でヴァレンチノ家メイド長で新たにこの屋敷のメイド長となった、サウリーネ・オズモンドに見つけられてしまっていた。


「あのっ、サウリーネ様、クラーク様のお屋敷は?」

「このキャッスルフォートに、クラーク様のお屋敷ができるまでは、領主クロサワ様のお屋敷に務めさせて戴きます」

「あはぁ、そうなのですかぁ、それはご、ご苦労様ですサウリーネ様。 モモお邪魔にならないように行きますわよ」


「う、うん」

「お待ちなさい、今ご朝食を用意させておりますので、他の皆さまがいらっしゃるまで食堂でお待ちくださいませ。 いいですね! モモ様、ミク様」

「ひっ! は、はい」

「あい」


「それから、サウリーネと呼び捨てになさって下さいな。 以前とは違うのですよお嬢様方」

「はぃ、さ、サウリーネ」

「あい、サウリーネ」



「さぁさ、行った行った! パンパンパン」

「ひー」

「はひ」


「ふぅ、驚いたわねモモ」

「うん、おのろいたー」

「でも以前とは違うと仰っていたので、大丈夫でしょ」

「だよねー、たぶん」


「ふぁーおはよ、早いわねモモ、ミク」

「おはようございます、ジュリナおねぇ様」

「カヅキはいないの?」


「お兄ちゃんは、お仕事ー、工房の視察だって」

「そうね、今日からかづきも忙しくなるわね、さてさて、じゃぁもうひと眠りでもしようかしら」

「おねぇちゃん、食堂に行かないとサウリーネ様からお叱りを受けるよ?」


「ん? サウリーネ? 何でここに居るのよ」

「さぁ」

「はてさて」


三人が食堂へと向かうと、ミシェータとディアンヌ達は既に席に着いていた。 新たに雇入れたのであろう見知らぬメイドが数人おり、こちらの様子を伺っている。 サウリーネが席に着くと、食事の用意がテキパキと給仕たちの手で行われる。 サウリーネは特に鋭いまなざしといった事は無く、顔を見て微笑ましく会釈をしているが、それがモモとミクにとって嫌な予感でしかなかった。


「皆様に手短にご説明いたしますが、我がキャッスルフリークの主、カヅキ・クロサワ様は近い将来、貴族達とのお付き合いも行なわなければならない事になります。 従って側近の貴女達には、それに相応しいマナーとエチケットを学んでおかなければなりません。 これからしばらく午前中は、その為のお稽古をお付けいたしますので何卒宜しくお願い致します。 ではお祈りを」 


朝食のメニューを見てみると、ラヴァシュという薄手のパンが、手を伸ばせる位置にかごのバスケットに積まれている。 ポピュラーな家庭のパンで、厚めのチャパティのようなものだが全て半分に切られており、中が空洞になっているのでここにお好みでおかずを詰めたり、リンゴのジャムや早生バターなどをちぎって付けて食べたりもする。 そしてメインの皿には、チーズとドライトメトのフリッタータに、厚めに切って焼いたベーコンが二枚がこんがり焼いて添えられている。


フリッタータは具材の詰まった卵焼きのようなものだが、スパニッシュオムレツに近いものである。 スープは白オオマメのポタージュだが、スムージーのようなとろみの付いた濃厚なスープになっている。 これらの料理は、この地域では非常にポピュラーな食事で、一般的な朝食風景である。 


先程のサウリーネの言葉に、全員沈黙する事になったが、ジュリナは意にも介してない風な様子で、パンのお代わりをメイドに言いつけながら、白いパンが無いとか文句を言いながら食事を煽っている。 我が物顔で横柄な態度は本来のジュリナの姿でもあるので、サウリーネは特に意に介してもいない風に見えるのだが、サウリーネを良く知るモモとミクにとってはそれが不気味で他ならない。 朝食が済むと、食後のお茶を飲みながら、サウリーネからこれからの予定を言い渡された。 


「これから皆様方には、これまで学んできた基礎マナー以外にも、上流階級でも通じるルールとエチケット学んでもらいます。 宜しいですね」

「ちょっといいかしらサウリーネ。 このスケジュール表に書かれてるのは、マナー教練、ダンス教練って言うのは解るんだけど、薬学教練って、薬草学の事じゃないの?」


「いい質問ですね、ジュリナデリカお嬢様。 丁度専門家がいるようですから、ディアンヌお嬢様のご意見を伺いたいですわね」

「は、はい、薬学は薬草学よりも上位の学問で、薬草以外の鉱石や、魔物の持つあらゆる毒性を学びますわ」


「ではなぜこれを学ぶのか、お解りで?」

「そうですわね、役に立つからではないでしょうか。 私も多少かじっておりましたので、先日の初めての冒険依頼でもカヅキ様のお役に立てましたわ」

「ふぅ、それでは30点が良いところですわね、ディアンヌお嬢様」


「はぁ…」

「良いですか皆様方、攻撃を受けたり魔法を放たれたりしても、それらの気配や殺気で感知する事ができますが、毒を受けた場合対処法が無いと、致命傷にもなりかねないのです」

「確かに薬学では、解毒方法を重要視していますわね」


「そう、毒で攻撃を受けた場合、適切な処理を行わなければ死に至る事もあり、早急な解毒方法が必要になりますわ。 そして悪意の無い毒はその最たるもので、安全だと思って口にしてしまう事も多いものです」

「そうね、サウリーネとディアンヌの話でよく分かったわ。 確かに勉強が必要だわな」

「左様です。 万が一、領主クロサワ様がそうした目に合わない為にも、充分な知識が必要ですが匂いや色の変化で異変を感じる事もできますので毒を回避できますし、一番重要となるのは毒の特定になる事を覚えておいてくださいませ」


「そうですわね、毒を特定できなければ、対処の使用がありませんもの。 では本格的に学ばせていただきましょう」

「宜しい、では皆さん今から八階の訓練場へ、集合なさってくださいませ」


「はい、いちにっさん、スロースロークイック、 スロースロークイック、はいターンしてスロースロークイック、 はいそこでスローストップ、深くオーバーフローしてストップ」

「ウグッ、ガッ」

「はぅ」


「ミシェータさん、ディアンヌさん、体が少々お硬いようですわね」

「サウリーネ様、これ以上反らせるのは無理ぃ、ウグッ」

「わたくしも元来研究者肌ですので、こうした体を動かすのは不得手にございますわ」


「…左様にございますか、マイナスポイントですわね。 それから、前もって申しましたように、 わたくしには様などは必要ありません」

「では、何とお呼びしたら良いのでしょうか」

「そうですわね、私はこの度、キャッスルフォースの教育全般を指導する学部長に任ぜられておりますので」


「では、ご指導中には先生と呼ばせていただきますわ」

「左様ですね、ついでに申しますと、お三方の夜番の予定も私めのお役にございます」

「ちょっと宜しいですの? サウリーネ先生」


「はい、何でしょうミシェータさん」

「少し気になったのですが、夜番とは一体」

「ホホホ、つまり共寝の順番は、わたくしの一存で決定いたしますと申し上げているのです」


「領主クロサワ様のスケジュールは、全て私サウリーネめが差配するよう、仰せつかりました」

「カヅキの意思なの? それって!」

「まぁ、ジュリナデリカお嬢様、そんなに声を荒げるとマイナス評価になりますわよ」


「個人の恋愛にまで口出しは無用よ! サウリーネ」

「確かに、横暴なようですね、ではお三方にあえて問いますが、貴女方は領主の奥方にふさわしいとお思いでしょうか?」

「そっ、それは」


「領主殿は賢人とも揶揄される様な豊富な知識をお持ちの上、武術にも長けているご様子、しかもどのような地位の方と対峙されても、畏怖堂々たる資質をお持ちの方とお見受けいたします」

「ま、まぁそうよね」

「では、そのようなお方と貴女方が釣り合いが取れているとお思いでしょうか? いざ公の場に出た際に今のままでは、クロサワ様が貴方達の為に侮られた場合を鑑みた場合、如何なさるおつもりか」


「そんなことは考えてもいなかったわ」

「あの方はあまりにも無防備、魔物退治では如何(いか)に貴女方が即戦力であろうとも、この悪意に満ちた人の世であの方をお守りできるのは、モモとミクさんを含めた貴女方しか居ないのですよ」

「おにぃちゃん、すぐ信用しちゃうよね」


「騙されやすいかもぅ」

「うーん、確かに勧められたら何でも口にするタイプだから、簡単に毒殺されそう」

「女性には特に甘いですわね。 近づいたところをブスリと…」


「でも、それと夜番とどう関係が?」

「そうですわね、それは殿方を癒せるのは女の力しか他なりません、 しかしながら、過ぎたるは及ばざるがごとしとも申します。 多忙な身の上なればこそ、きちんと節制し健康を保つ事も我らの務めとなります

「ふむふむ、それを管理するのがサウリーネのお役目と言うわけね」


「好きで一緒にいたいと願うのは女心で御座いますが、歯止めが出来ぬままそれで身上を潰されては元も子もありません」

「いいわ、理解したわよサウリーネ」

「私も浅はかだったわ」


「わたくしもよく解りました、サウリーネ先生のお言いつけ通り精進いたしますわ」

「おにぃちゃんの為がんばるー」

「おにぃ様を守りますわ」


こうして、上手くサウリーネに丸め込まれた? 五人の乙女たちは、淑女の作法やマナーを身に付けるべく、しばらく奮闘の日々を送る事になる。 頭に厚手の本を乗せての歩行訓練や、社交界での口上のやりかた、はたまた毒の選別方法や解毒法と、抜かりの無いようにあらゆる分野を想定した防衛方法を学んでいく事になった。 


サウリーネがこうして力を注ぐのは、本心を言えばかづきを思っての事では無かった。 サウリーネはヴァレンチノ家の重鎮として先代から遣えてきた身なれば、ヴァレンチノ家の安寧が最重要課題であったのだ。 サウリーネの脳裏には、ヴァレンチノ家の正当な血筋であるジュリナデリカが、いずれかの形で跡を継ぐものだと思っていたのだが、養子である義兄のクラークが跡を継ぐ事になった。


しかもそのクラークは、ヴァレンチノ家の跡目を継いでいながら、クロサワ様に忠誠を誓われたご様子、然るにヴァレンチノ家の主筋となってしまったクロサワ家の安定を図る為にも、ジュリナデリカと結びつけて考えるのは至極当然の結末だったのである。 つまり家名こそ違えども、クロサワ家とヴァレンチノ家は同一のものでであると、サウリーネが考えたのは全くの筋違いとはならない事になる。


同時にこの考えは、サウリーネだけの判断ではなく、現ヴァレンチノ家当主であるクラークの考えでもある。 かづきは強く賢い、だが現状はそれだけであり、ジュリナやクラークを直ぐに信じこんだのは、根が素直だからだけでは片づけられるものではなかった。 悪く言えば単純であり、お人好しな所がある。 そこを突かれてしまえば、簡単に崩れてしまうであろう脆さが感じられたのだ。


その為にクラークがおり、その為のサウリーネの起用である。 またかづきが一番信頼度の厚い彼女らには、同時に彼の身辺警護も担って貰わなければならないのは当然の事で、先を見据えても必要不可欠とも言える。 


 彼女達のレッスンが続けられていたが、そこへクラークのフィアンセであるカレン嬢がやってきた。


「サウリーネ学部長殿、午後から彼女達をお預かりいたします」

「これはカレン・ミルフォード様、わざわざお越し下さらなくとも予定は承知しておりますわ。 ご一緒に昼食をお済ませあそばしでくださいまし」

「了承いたしましたサウリーネ学部長殿」


 もちろんカレン・ミルフォードがやって来たのは、ギルドがらみの事であった。 冒険者ギルドというのは、冒険者たちをまとめ上げている一つの組織の事である。 冒険者たちはギルドから必要な情報を貰い、依頼を受けて職業としての魔物討伐に及んでいる。 その成果は魔物の肉であり希少部位などであるが、これらが市場に出回る事で、食材や原材料が安定供給され、住人たちが潤う事に繋がっている。


冒険者たちは、危険の代わりにそれなりの報酬を得て暮らしを営んでいるが、それは外敵を排除する事で自分たちの生活圏の安全保障にも繋がっているわけなのだ。 冒険者達は無法者では無く、いずれかの冒険者ギルドに所属する戦闘員としての約割を果たしている為に、その冒険者ギルドの長たるギルド長は、言わば彼らのボス的存在なのである。


ギルド長は各支部に存在しているが、その大元の元締めは商工業ギルドの会頭ということになる。 つまり冒険者ギルドのギルド長は、全てが支部の長であり大陸全土に支部の数だけ存在するが、そこに身分の上下こそないのであるが、実は勢力の強さ如何(いかん)で発言力の強さも変わって来るものなのだ。


現在ズナン支部の冒険者ギルドの長は、カレンの父親であるロナード・ミルフォードであるが、ここ旧砦村改めキャッスルフォートにある、ひとつの大きな勢力を摂り入れようと画策し足を運んで来たのだった。




モモ:嫌な予感的中ぅ!

ミク:まあ、サウリーネせんせの意見ももっともだわ。 でも夜番に私たちが入っていないのは納得いかないわ

モモ:夜番ってお兄ちゃんと二人っきりで寝る権利って事だよね?

ミク:そうよ、きっと面白いお話が聞けるわ

モモ:うーん、サウリーネ先生に頼んでみりゅ

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