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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
躍動編
98/172

異世界探求伝 第九十七話 シュタイン爺さん登場

キャッスルフォートの工房巡りを行っている最中のかづきであった。

しかし、思わぬとまでは行かないが賓客として滞在していた商工会ギルドの会頭が、好奇心を心に秘めながら、かづきの元へとやってきた。

 現在ガラス大工房を視察中のかづきだったが、かねてから必要性を感じていたレンズ作りの延長で望遠鏡の試作を試す事になった。 ゴルモスアゲイとジャスミの二人と共に、遠くを眺める為に外へと出たのだが、プディンが待ちくたびれて飛びついてきたので、おやつをやり(なだ)めすかしたのであった。


試作の望遠鏡は、筒の先端部分と手前部分に取り外す事でレンズを入れるすき間がある。 ゴルモスアゲイは、これらのレンズの組み合わせを予めテストしてくれている為、お勧めのレンズを試すだけで済む。


「すんごい、よぉ見えるわ」

「微調整もできるんだな、大きい筒もコンパクトな筒も両方いい具合だ。 これだけいい具合なら双眼鏡も欲しいな」

「ダブルレンズのの望遠鏡ざんすね。 取り敢えず試作で作ってみたざんす」


「ほう、どれどれ。 うーん見える距離は短いが、百m先ならばっちりだな。 もう少し、距離の調整ができるようにしてくれ、小隊に二つづつは支給したい」

「はっ、了解ざんす」

「それから、風筒銃に付けられるように小さなタイプを作って欲しい。 先端の照準とが重なるようにな」


「畏まったざんす。 来週までいくつ納品ざんすか? 」

「望遠鏡大小を十台、双眼鏡を三十台、風筒銃用のスコープを五十台揃えて、ベルミの元へ送ってくれ。 発注書は後日送る。 なおこれは、軍事機密品として扱ってくれ。」

「はっ、外部へ出ないよう個人認証付きの陣を施しておくざんす」


かづきは次の行き先をゴルモスアゲイに聞くと、愛鳥プディンにまたがり、次の部署へと颯爽(さっそう)に駆けて行くのであった。


「おお、お待ち申し上げておりましたんや、タイルの試作も出来上がっておますよって、はよ見ておくんなはれ」

(うわぐすり)はジャスミとの共同制作だったな、ウンデルク」

「せやせや、丸やら三角やら四角いのまで、なんでもありまっせ」


「おおほんとだな、より取り見取りある。 しかも発色もいいぞ」

「強度も十分だな、よし、タイル工房を新規に立ち上げてくれ。 そこそこ絵心のある奴がいいな」

「へっ?」


「へって、お前はタイル職人じゃなくて、本業をやらなきゃ駄目だろ」

「えっへへへ、そうでおました」

「ハァハァ、ただいま参上したざんす」


「ああゴルモス丁度よかった。 工房まだ余ってるだろ」

「はいざます」

「タイル専門の工房を作っておいてくれ。 専門の親方と職人も必要だが、もう技術は出来上がってるから、直ぐに稼働に入って欲しいんだ」


「はい、既に手配済みざます」

「そうか、さすがだな。 よしウンデルク、食器を見せてくれ」

「あまり数はおまへんが、見て行っておくなはれ」


「これはオードブル皿で、こっちがスープ皿とこっちがメインの皿で、サラダ用のボールにデザート皿にカップか」

「さいでんな」

「ゴルモスこれをどう見る?」


『むむっ、試されてるざんす。 領主殿のあのお顔、どう見ても不満顔ざんすが、やはり高級なデザイン的なものをお求めなのか、はたまた庶民感覚をお求めなのかが・・・ふむ、こうなったら言いたい事を言うざんす』


「嗜好に合わせたモノ作りが必要と思うざんす。 庶民なら毎日の食卓に使える丈夫な作りを、そして貴族ならば金彩や絵などのデザイン画を模していた方が、来客用にも喜ばれるざんす。 食堂ならば料理の栄えを意識して、価格的にも安くあげられる白磁のものが最適とミーは思うざんす」


「ウンデルクはどう思う?」

「ふむ、確かにゴルモスアゲイ様の仰ることはもっともでんな。 しかし具体的にどないしたら宜しいんでっか?」

「まずは、芸術性を秘めた器作りが必要だな。」


「芸術でっか?」

「ああ、これらの食器は全て肉厚で野暮ったいんだよ」

「しかし、器を薄くすれば保温効果と耐久性が」


「その為の釉薬作りだったんだよ。 色合いも勿論重要な要素だが、釉薬によって薄い器も丈夫に出来るんだよ。 軽ければ使い易いし保管にも便利だと思わないか? 数も多く作れるし、薄くてか弱い女ほど美しくもあり守りたいもんなんだよ」


「ほう! さすが領主さまざんす。 ではいつぞやのようにやろうざます」

「悪いが時間がないんだよ。 他も待ってるだろうし」

「そうででした、次に向かわなくてはいけないざんす」


「ほうほう、何やら面白い事をやっておるな領主殿。 わしも混ぜてもろうていいじゃろうか」

「これは心強いこっちゃ。 商工会ギルドの偉いさんも混ざって、楽しゅうなりまっさ」

「おう、じっちゃんか、 工房は部外者立ち入り禁止だぞ」


「フォッホッホ、はてこれはおかしなことを、身内ならば部外者ではないじゃろ?」

「だっ、誰が・・・むぅ、 良いだろう、身内特権は使わすが口外禁止だぞ」

「無論それはわかっとるよ。 但しその時に言って貰わんとなにぶん年じゃからのう。 どうも忘れっぽくていかん」


「くっ、喰えん爺だ」

「確か、商工会の長老はディアンヌ殿の祖父ざんすね」

「ふむ」


「領主殿、聞けばディアンヌ様はクロサワ様にぞっこんとか、従って孫娘に嫌われるような事はしないざんすよ。 出入り禁止にされ挙句の果てには、ひ孫の姿も見る事の出来ないような状況は作れないざんしょ?」

「お主、名前は?」

「これは失礼ざんした、シュタイナル・アベルボ-グ殿。 わたしく、ゴルモスアゲイ・ファインアートと申すもの、以後お見知りおきを」


「ファインアート家の者か、代々王族のお抱え絵師がなぜここに?」

「これはこれは、我が家をご存知とは痛み入るざんす。 とある商人の伝で、縁を結ぼうとやってきたざんす」

「お前さんも、かづきの技術を盗みに来たんじゃろうが」


「これはしたり、絵師の道を歩み、芸の何たるかを知るにはその技術を盗むのも当然ざんす。 しかし、クロサワ様には、それだけでは無かった事をお教えさせて頂いたざんす。 然るにすべてを投げ打ってでもお仕えするにあたりまする」

「ほう、大した惚れようじゃな。 よろしくのファインアート殿」

「ゴルモスで結構ざます。 シュタイン殿」


「ふむ、承知した」

「おい、お前ら二人で盛り上がってるんじゃないぞ、 次は何処だ」

「はっ、失礼ざます。 宝飾の鋳掛彫金工房ハグネット・ジュエルペットの所ざんす」


「むう、あそこはあまり行く必要が無さそうだがな。 プディン、こいつがシュタイン爺さんだ。 乗せてやってくれ」

「キュルッ、クピー!」

「うおっ! これこれ」


プディンは背中に乗せるのが嫌なのか、口ばしで襟元をくわえると、かずきに背中を見せ乗れと催促する。

 馬もそうであるが、鞍を付けて乗るのと無しでは大きく違う。 チンギスハーンが帝国を築けたのも、ひとえに鞍と鐙のおかげなのである。 つまり鞍が無いと、両足の腿の力だけで挟むようにして乗らなければならないので、乗るだけでも大変な筋力を要するのである。


「荒っぽくてすまんな、じっちゃん。 すぐ(そば)だから」

「フォッフォッフォ、楽ちんじゃわい」

「み、ミーは走るざんすっ」


 鋳掛彫金師のハグネット・ジュエルペットは、キャッスルフォートの工房には珍しいハーフエルフで、ハーフエルフ特有の気の強さは無い。 どちらかというと腰が低く、非常に物静かな芸術家と言った風情である。


「これはご領主殿、お久しゅうございます。 商工ギルド会頭もお見えでしたか」

「ハグネットか、お前さんまでおるとはな。 王都で大きな工房をやっておったのではないか?」

「ハハハ、ファインアート殿に誘われて参りました。 理由はおわかりでしょう」


「あちらでも、評判良く自由にやっておったではないか」

「まあ、これをご覧くださいませ会頭殿」

「ふむ、これは指輪の台座だな。 これは金じゃ、これは銀、そしてこれは銅、ではないようじゃ、後は緑に黒か、宝飾に使うのだから、まさか染色ではあるまい。 美しく多彩じゃのう」


「実は、これは全て金で出来ており、ほとんどが75%の含有量があります」

「そうなのか!?」

「はい、詳しくは申せませんが、配合の調整でこのようなカラフルな金が作れます」


「ハグネット、説明は良いから話を進めてくれ」

「ハハハ、せっかちですね領主殿、まずは先日お教えいただいたチェーンの出来上がり具合をどうぞ」

「上からフィガロツイスト、フィガロクロス、フレンチロープ、ベネチアン、スネーク、スエッジとなっております」


「ふむ、これは見事じゃ、フレンチロープとクロスチェーン以外は見た事がないものじゃな。 全て金細工なのか」

「いえ、こちらは全てメッキ加工が施してありますので、素材はブラスという真鍮製ですよ」

「ふむ、どれも及第点で申し分ないな。で、頼んだものは出来たのか」


「はい、これが、頼まれていたボールチェーンでございます。 中には魔石が仕込まれていますが、同じパターンでポールタイプを作成してみました」

「ほう、こっちは小さな筒の組み合わせだな。 いい出来だ」

「お褒め戴き恐縮です、クロサワ様」


「いくつお作り致しましょう」

「そうだな、三十づつ屋敷に送ってくれ」

「畏まりましたクロサワ様」


「それから認証用の指輪も、出来上がっておりますので、ゴルモスアゲイ殿にお預けいたします」

「はいざます。 受け取りの証書にサインするざんす」

「それから、こちらが奥方達、いえ、お嬢様方の認証の指輪でございます」


「おっ、見せてくれ。 龍のロゴに筆記体の名前入りだな。 五色に分けてくれたのか、良いな」

「勝手な事をして、お叱りを受けるのを覚悟していましたがほっとしました」

「彫金細工で色違いの金彩を施しておるのじゃな。 見事な出来じゃ」


「ふむ、流石ハグネットざんす」

「しかし、これだけの物を弟子たちだけでこなすのは大変じゃろう」

「いえ、全く問題ございません。 細工ゴーレムに一度教え込めば、全てこなしてくれますゆえ」


「細工ゴーレムじゃと?」

「じじぃ、これ以上は機密事項だ。 次行くぞ」

「むぅ」


「ああ、そう言えば領主殿、会頭に礼の話をしたざんすか?」

「例の話じゃと?」

「ああ、あれかちょっと待て、まずはこれを見てくれ」


かづきは鏡と板ガラスの見本を取り出すと、早速例の話とやらを切り出したのである。


「なるほど、庶民に広く行きわたらせる為に、安価で販売という事か、このような美しい鏡は見た事がないのぅ。 銅貨百枚か、ちと安過ぎるきらいがあるが、鏡職人と言うのもおらんから競合はすまい」

「手数料は無しだが、商工ギルド協賛と裏面に描かせてもらうんだがどうだ」


「話は理解した。 その前に、ガラスの件を聞いても良かろうかの?」

『食ったな』

『喰らいついたざます』


「ああ、それかこれからは窓ガラスは、庶民に家に無くてはならないものとなるだろうな」

「そのような事は、見て判るわい。 この透明感と滑らかさは今まで無かったもんじゃ。 歪が全くない見事な出来じゃ」

「そうだろそうだろ」


「じゃ、こいつも見てくれ」

「ふむ、少し厚めの板ガラスじゃな」

「そら、この木槌でぶっ叩いてくれ」


「このような、厚さでは流石に老人の手を煩わせるほどでもないわい。 それ!」

『コン!』 

「ふぐっ!」


『コン、カン、ゴン!』

「ふへっ、ふむ、硬いのう 身体強化を使わせてもらおう。 ハァーッ」

『ゴンっ! バキッ』


「くっ、木槌がおれてしもうた、駄目じゃ」

「この板ガラスを、貴人用の馬車や部屋の窓に取り付ければ、通常の攻撃では中々入って来れないというわけだ」

「ハァハァ、凄いもんじゃ。 魔法で強化すれば、盾にも匹敵するのう」


「そうだな、良いだろう。 じゃ次行こうか」

「ま、待て、これもお主の所に近しいキンダイン商会で扱うのか?」

「マウリルクの事か、まぁ俺というよりもヴァレンチノ家お抱えの商人だからな」


「では、儂に扱わせてくれ」

「えー」

「ディアンヌの祖父じゃぞ!」


「嫌と言えば、孫娘を連れ戻すざんすか? 頭取殿」

「そっ、それはじゃの・・・」

「まぁ、そう虐めるなゴルモス。 確かにデァンヌのじっちゃんだからな、顔は立てねばなるまい。 では、ガラス板とテンプレッドグラスの販売権を、シュタイナル・アベルボ-グ会頭にお譲りしよう。 契約期間は三年間とする」

「ほう、ほう、それで十分じゃ。 そうかそうか」


「では後日、それら二点のガラスの商品取り扱いの説明書と、上限価格の設定及び契約内容の詳細をお作り致します」

「ふむふむ、いい土産がでけたのう。 フォッフォッフォ」

『ちょろかったな』

『チョロイざます』


「カヅキ殿よ、ハグネットにアクセサリーを頼みたいんじゃが良いかの?」

「全くスケベ爺だな。 いくつでも頼めよ、ハハハ。 ハグネット爺さんを頼んだぞ」

「畏まりました領主クロサワ殿」


次に行くのは、新たに立ち上げた紙漉き工房である。 ものがモノだけに、水は欠かせないものなので、外周の水路の脇にその工房はあるのだ。 

いよいよ梅雨も終わりに差し掛かり、本格的な夏を迎えようとしています。

アウトドア派にはもってこいの季節となりました。 次回はギルド臨時試験開催です。

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