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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
躍動編
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異世界探求伝 第九十六話 大工房視察中

久しぶりに交えたクラークとの一戦は、かづきの戦闘能力の上達ぶりを物語るものであった。

このキャッスルフォートの地盤固めを、しっかりと行っておきたいかづきは、生産工房の新規開発と共に技術向上を目指すのである。

 製金属加工場へ着いたかづきは、査察を行う為に中へと入ると、やはり室内は高温でこの暑さはひとしおである。  そこへ、作業場の若い衆を連れた製金属加工場の責任者であるバーグハムが、数枚のプレートを持ってやってきたが、これは銑鉄から作られた鋼の板で、予め配合を調整しいくつか試作品を作らせていたのである。


「純度の高い鋼と、一%刻みで作らせたプレートを五㎜幅で、十枚作らせたんじゃがどうじゃろうかな?」

「一枚づつレンガを渡して置いていってくれ」

「ふむ」


 かづきは収納していた鉄棒を取り出すと、瓦割のように並べられた鋼のプレートを次々と殴りつけて行ったのである。 その内、変形してしまった半数と割れてしまったプレートを取り除くと、次に大刀『セセラギ』を取り出し、魔力を通し刀身を青白く光り輝せながらも、その刀身をプレート目がけて切りつけた。


「はっっ! パキン、パキン、ペキン」

「どうじゃろ?」

「うん、この三つならいいな。 良い出来のものから並べるとこうなるな」


かづきの吟味によって三種類に分けられた鋼は、それぞれの特性によって青鋼、白鋼、黄鋼と名付ける事にした。 青鋼は刃物などの武器とそれを叩く為のハンマーや台座、またそれらの金属を磨く為のヤスリや精密部品にのみ使用が許され、白鋼は防具向き、そして黄鋼は安価な工業用や建築資材と合金用に用途を指示すると、次の部署を見て廻る事にした。


貴金属精錬所は、基本的に金銀銅などの貴金属を扱う場所だが、金細工一つにしろ、純金の地金をそのまま使う事は無いのだ。 かづきは元いた世界で、貴金属を取り扱う会社も手掛けた事があり、貴金属会社の買収に伴ってその情報と共に貴金属の事は熟知している。


純金と呼ばれるものは一般的に24Kと記されるが、非常に柔らかな為に変形したり傷が付きやすく、アクセサリーにはあまり向いていないとされるものである。 つまり傷が付かないように配合されるのが銀であり銅であるわけだ。 1kは100÷24で計算可能で、1kは約4.17%となり、標準的なアクセサリーに使われている18kは、純金の含有率が75%という事で、一般的に使われるイエローゴールドでは、銀が15%と銅が10%となるのである。


18kは配合によって、色も自由に変化させる事ができ、イエロー、レッド、グリーン、ピンクとあるが、ホワイトゴールドは銀の配合率が高く、10Kという事になる。 また、鉄との組み合わせによるブルーゴールド、アルミニウムを混ぜたパープルゴールド、純金と炭素によるブラックゴールドなどがあり、これらの特殊な配合の色は、アクセサリーよりも金細工などに使われている。


24kが純金を示すのは昔からの名残であり、配合のレシピもきちんと行えないので、ここではかづきは24キャラットという単位は使わず、純金はプラチナと同じく%を表示する1000GDで通す事にした。 つまり、宝飾に使われるアクセサリー用の18金は、750GDと表示する事になる。


この国の金貨は、ルクサ金貨と呼ばれるもので、金の含有率は90%と高めだが絶対量が少ないのか、主力は銀貨での取引が行われている。 かづきが純度の高い99.9%のインゴットを作ったのは、その希少価値もあるが純度を高くしておく事で、後々加工し易くする為でもある。


「昨日は純金のインゴットを、全て持ち出して悪かったな」

「いえいえ、全てご領主様の持ち物であそばすゆえ何も問題無いざんす。 今の所、加工用で10Kgほど頂けて戴ければ十分ざんす」

「そうか、じゃ999GD金のインゴットを倍の20kg預けておく」


「はっ、では預かり証の発行を致すざんす」

「えっと、俺がサインと印章押して、財務に送ればいいんだよな」

「はっ、そのようにお聞きしているざんす」


「財務の責任者・・・ミシェータだったな」

「そうざんす、それから他の卑金属もいくつかできております」

「ああ、アルミとかニッケルもあったな」


これで必要な金具の数々が生産可能になった。 特にナットやネジ、バネやチェーンにピアノ線、ありとあらゆるモノを組み立てる事も作り出す事ができるのだ。 この世界では、電源となる電力の代わりに魔力を使う事が可能なので、自由な創作活動が楽しめそうである。


「この隣にあるのが、ガラス工場だったな」

「そうざんす、責任者は・・・」

「ジャスミ・クリスタだろ、女のガタイの良い奴」


「覚えてくれはったんやな、おおきに領主はん」

「赤隊班のジャベも、無事に訓練を終えたぞ」

「弟が迷惑かけてまへんやったかな」


「大丈夫だ、安心しろジャスミ」

「へへへ、それはほんにおおきに、じゃ案内しまっさ」

「これがソーダライムガラスですねん。 ほうて、こちらがテンプレッドガラスとフレントガラスですわ」


 ソーダライムガラスは、板硝子や瓶などに使われているもので、少し緑がかった色をしているが、炭酸ナトリウムと炭酸カルシウムを添加する事で、融点を低くし加工しやすくなるのである。 また、テンプレッドグラスは強化硝子の事で、ガラスを溶かして板状にする際に、表面を風に当てると言う至って簡単な方法で作る事ができるものだ。


フレントグラスは、鉛ガラスの事でクリスタルグラスとも呼ばれて、非常に高い透明度がある事はバカラやスワロスキーでお分かりの事であろう。


「驚きました、このように透明な硝子は見た事ないざんす。 まるで水晶のようざんす」

「うちもびっくりやわ、直ぐに溶けてくれはるし、特にフレントグラスの配合は秘密にせんとあかんな」

「ソーダライムは、加工しやすいから、窓ガラスに食器など一般ガラス用に使ってくれ」


「了解や、これでまともなコップや食器がでけるわ」

「テンプレッドガラスとはなんでござんしょ?」

「ああジャスミ、木槌とレンガいくつかを持って来てくれ」 


「へえ、どうぞ 木槌はおまへんが木刀なら」

「うん、ゴルモスこれで割って見ろ」

「へ? 割れたら危ないざんす」


ゴルモスアゲイは、テンプレッドガラスをしばらく何度も叩いていたが、十回を超えてからはあきらめ顔で、首を何度も横に振り苦笑いをしていた。 勿論、横にいたガラス職人ジャスミも同様である。


「ハァハァ、無理ざんす。 割れません」

「どないなっとるんかいな?」

「強化硝子ってんだ、強度は抜群だな。 ゴルモス、これは兵士のゴーグルに使うんで、防具の攻防に発注を頼む。 後はそうだな、馬車の硝子や要人の集まる部屋の硝子に使え、普通の投石や弓などはこいつで無効化できるぞ」


「ほう、凄い発明ざんす。 貴族に需要がありそうざんす」

「ただし」

『パン!』


「あっヒビが」

「砕けないのですね」

「一点に集中させて力を加えると、こうして脆くなるのが難点で、一度加工するとカットが出来ない所がネックだな。 しかし鉄線で補強すると、さらに丈夫になるぞ」


「ほう、メモメモ」

「ところで、ダイヤか金剛石は見つかったのか?」

「はぁ、名称はわからずじまいでしたが、ナカス大河下流地域に固くて使えないと言う石があったざんす」


「見せてみろ」

「はぁ、でも汚い石ころざんすよ? 先程のテンプレッドガラスのように剣でも割れないざんす。 その硬さから武器職人が加工に何度も挑戦したそうですが、無理だとわかり打ち捨てられているざんす」

「こいつか、なるほどな」


 原石と見られる頭ほどの岩と、粒になったものが手の平大の皮袋五つが、すぐさまかづきの元に届けられた。 かづきは工場内の事務所に移動すると、水晶の角の部分をこすり合わせ、さっそく分別を始める事にした。 その様子を眺めていたジャスミとゴルモスアゲイは、かづきの真似をして石英で同じように擦り始めたのである。


「よし、次はこの石を使ってやってくれ」

「はいざんす」

「へえ」


こうして選別された石はいくつかに分類され、そのうち一番硬度が硬いと思われる石同士を削り合わせていく。 つまりいくら鉄ヤスリで削れなくとも、同じ硬度ならば傷をつける事も可能となるわけだ。


「よし、色付きもあるが透明度はまずまずだ。 ゴルモス、ジャスミこれが金剛石というダイヤ鉱石だ」

「ほう、なるほど鉄も同じ鉄製のヤスリで削りますからな、合点がいったざんす」

「至急、この石を集めるんだ。 ただし、価値がある事を知られるな」


「ガッテンざます! 直ちに派遣するざんす」

「ゴルモスさん、庭の敷石に使うからって、現地の者に集めさせるとええんやない?」

「そうざんすね。 現地の日当と照らし合わせて、重さで買い取りにするざんす」


「クロサワはん、ほしたらこの部門も別に作らなあきまへんわ、研磨に手間がかかりそうですわ」

「そっか、金細工工房はあるが、宝石部門が無いのか。 ゴルモス、鉱石に明るい奴で宝飾に秀でた者を集めろ、カットの方法とデザインをいくつかお前宛に後日送っておく」

「了解ざんす」


「色ガラスも出来てるんだよな」

「へえ、陶器工房のウンデルク殿と共同で、基本の五色と共に100色はできてまっせ。 はよう食器作りできんのが楽しみでんねん」

「確か今までは、枠に押して作ってたんだよな」


「型吹き法って言いますねん」

「そうか、真鍮製のパイプを何本か作らせておけって言ったよな」

「へえ、出来てますわ」

「そっか、明日ガラス工房に火を入れておけ、宙吹き法って製法の新しい技術で作ろう」


「そしたら、ガラス食器作りが始められんですな。 やったー! わては幸せや」

「ハハハ、という事だ。 しばらくこの工場は他の者に任せておけ」

「さいざんすか、では次に鏡とレンズの試作をご覧いただきたいざんす」


「おお、鏡とレンズかそうだったな、そいつは大事だ」

「この国では一般的に、鏡は銅板に薄く銀を流して酸化させないように、磨き上げて使ってるざんすが、 ガラスにメッキを行うなど考えが及びませんでした」

「くれぐれも水銀の扱いには気を付けろよ、毒だからな」


「はいざます。 水銀のアマルガム工場は窓も無く、換気管も真空状態で水銀を戻しているざんす。 作業員はマスクと肌の露出は禁止で、作業後はすぐ横のシャワー洗浄も行っておりますです」

「鏡はすでに生産開始してるんだよな?」

「はっ! 指示通りに洗面所と浴槽用の鏡、手持ちの鏡と卓上鏡に全身を映す姿鏡、馬車に取り付けるサイドミラーも別室に並べているざんす」


「ここか、うむ、値段は?」

「はいざんす。 えっとこの小さな手鏡で、銀貨1枚で・・・」

「待てそれは高いな。 銅貨10枚にしろ」


「それは殺生ざんす。 ガラスも鏡のメッキ技術もこの世に無いものですので、もっと高くして売れるざんすよ?」

「それはわかってるが、庶民が手に入れにくいものでは駄目だ」

「しかし、工場の設備投資や維持費も必要ですし、材料の調達も手間がかかっているざんす」


「ふむ、じゃ今まで使っている金属鏡を下取りしてくれば、安く売れるだろ」

「下取でっか、古い鏡と交換するんでっしゃろか?」

「ジャスミの言う通りだ、金属の回収ができるんだから、代わりに安く売ってもいいだろ?」


「はっ、しかしどうやって庶民に知らせるのか・・・」

「龍ブランドのロゴは、表の鏡面部以外に入れてるんだよな、よし! 爺に頼もう」

「どうなさるので?」


「背面に商工会ギルド協賛って入れられるか?」

「はい、たやすいざんす」

「んじゃ、商工会ギルドに回収してもらうぞ。 キャッスルフォート印の引換券を発行して、これで交換としよう」


「ふむふむ、いいアイデアざんす。 でも見返りが必要ざんすね」

「そうだな、このガラスの版権でどうだ?」

「ふーむ、そうですな、勿体無いざんすがこの透明な板硝子は需要がかなり見込めますので、もう少し何かしら要求しても良いと思うざんす。 三年の期限付きなら良うござんしょう」


「わかったゴルモス、商工会ギルドのじっ様はここに居るから、後で話を付けておこう」

「うちの家にも欲しいなぁ」

「そうだな、キャッスルフォート在住者は割引してやんないとな。 五割引きでどうだ?」

「アハハ、そんなに割り引いたら、あたしだったら転売しまっせ」


「ゴルモスの意見はどうだ?」

「どの部門でも、同じ割引率でなくては不平が出るざんすね、しかも元々安い価格設定である事を(かんが)みても、二割引きが妥当な線ざんす」

「そうか、ではその方向で指示書を出しておこう。 ただし、鏡は生活必需品でもあるから、広く利用してもらう為にも庶民が使う標準品は安く、凝ったものは貴族や金持ち様に高い設定にしてくれ」


「はっ、では次にレンズざんすが、凹レンズと凸レンズを20種類ほど、フレントガラスで型取りしてみたざんす。 この筒にはめ込んで調整できるざんす」

「外に出て見てみようか」

「あたいもー」


表に出たとたん、待ちかねていたプディンが飛びついてきたのだが、何とか(なだ)めて試作品の具合を確かめる三名であった。


新規で建てられた、大工房2カ所を後にして、次の目的地へと向かいかづきだが、さらに意欲的に走り回る事となる。

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