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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
躍動編
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異世界探求伝 第九十五話 俄然~しはじめる

昨夜の浴槽でのはしゃぎすぐによる後遺症で、女性陣は軒並みダウンの様相であった。

かづきは本来の仕事を取りまとめる為に、早くも始動を開始したようである。

 昨夜の浴場での湯あたりが原因で、女性陣は揃ってダウンしてしまい、かづきが秘かに楽しみにしていた行為は残念な形となってしまった。 当然かづきが起きると部屋には誰もおらず、彼は書き置きを残して地上の工房へと向かう事にした。 下りる途中で、キャッスルフォート勤務のメイドに呼び止められたが、食事は食堂に立ち寄るので結構と固辞し、足早に食堂でパンにあるものを適当に挟んでもらいこれを朝食とする。


かづきが早起きして工房へと向かった訳は、頼んでおいた素材や各地から集められたものが、資材置き場に山積みとなっている事を聞いていた為である。 また、工場も無事出来上がっていると言うので、視察も行わなくてはならない為だ。


「クロサワ様、お早いお出ましですな」

「なぁに、あまり仕事を滞らせてると、クラークに悪いからな。 でも流石に少し早すぎた様だし、そこの広場で少し鍛錬でもするかな」

「ガハハハッ、宜しいですな。 お供仕ります」


 クラークとの早朝の鍛錬は、ヴァレンチノ家の屋敷以来の事であった。 二人はゆっくりとストレッチを始めると、思い思いにそれぞれ独自の鍛錬を行い始めた。 かづきは鉄の棒を持ち、素振りを行うが始めはゆっくりと、次第に速度を早くしていく。 クラークはかづきから貰い受けた漆黒の斧槍『クビカリ』を手に持ち、ブンブンとうなりを上げながらも、上下左右に振り回しながら素振りを行っている。


「そろそろ、いいかなクラーク」

「もちろんですぞ!」

「障壁魔法を掛けてやろうか、怪我すると困るし」


「それはお気遣いありがとうございます」

「いやいや、俺が、だってばハハハ」

「では、互いの障壁がはげたら負けと致しましょうぞ」

「望むところだクラーク」


かづきは、素振り用の鉄棒に『アンチ・グラビリティ』の魔法を掛けて重さの調整を行い、クラークは漆黒の斧槍『クビカリ』の持ち手の部分を水で湿らせ、握りを良くした後でそれをを軽々と振っている。 クビカリはと張った鋭利な穂先で、その剣元に横刃の小型の斧刃が付けられており、反対側の石突にはバランスを取る為の重りを付けられているが、これは勿論打撃に使えるものである。 突く、薙ぎる打ち下ろしなどほぼすべての技が実践でき、馬上では大車輪の如く躍動するであろう槍なのだ。


クビカリはその穂先だけでも十㎏はあり、石突と全体のバランスを取るだけでも、重さは三十㎏をゆうに越えているはずだが、軽々振り回すその得物捌きは相も変わらず恐るべき怪力の持ち主である。 クラークの振りの鋭さからも、これます毎日の鍛錬は欠かさず行っていたらしい。


『エア・アーマーっ!』

「では、いざっ!」

「おう」


 二人には共に、かづきから放たれた風の障壁を身に(まと)っている。 風楯の特性によって体表面は守られてはいるが、鋭角な角度で切り込めば相手を傷つける事も可能である。 何より魔法の威力によって耐久性が向上するが、強烈なダメージや幾度となく攻撃を受ければ、この障壁であってもいともたやすく破壊されてしまうのだ。


供に身体強化を掛けた二人だが、クラークが最も警戒しているのは、かづきの驚異的な突進力である瞬歩と速歩を使いこなす事だ。 体力と力では負けていない事を自負するクラークは、足を殺す為にも下段への薙ぎ払いや小まめな突きを、休む間も事無く上手くフェイントを挟みながらも左右にと執拗に攻めてくる。


近距離戦闘での武器は、間合いが長くなればなるほど有利になる。 しかもクラークは、漆黒の斧槍『クビカリ』を手足の如く扱える為に、中々近づく事さえ出来ていない程の有様である。 踏み込みを行おうとする時に来る薙ぎ払いはとても厄介なもので、瞬時に後方への移動を余儀なくされている。


槍よりも短かな武器で戦う場合には、どうしても相手の懐に入らなければ勝機が無いものだが、クラーク相手ではそれさえもさせて貰えないようである。 上中段に突きを入れながらの出足払いによる攻撃で、かづきの防御は次第に削られていくのであった。


『くっ、このままじゃヤバいな。 地味に削られてくる』

『ふっ領主殿。 その足さえ止めてしまえばこっちのものでございますぞ。 我慢できなくなって飛び込んで来たら、トドメを刺してごらん致します』


クラークの攻撃は執拗な足攻めと、時折石突側での突きを交えて来る。 決して大振りする事無く、じわじわと消耗させる作戦は見えているのだが、かづきには策が無いのか特にこれといった動きは見せていない。 次第にクラークの攻撃速度がじわじわと上がってくる。 刃先で突きを見せないのは、突きが最高の攻撃であり最大のトドメとなりうるからで、そのチャンスを伺っているのであろう。


「せいやっ!」


その時トドメとも思える突きがクラークの手から放たれた。 しかし、かづきはこの攻撃を待っていたかのように素早く見切りを入れ、そのまま体を横に回転すると槍の持ち手を伝い、クラークの懐へと潜り込んだのだった。


「貰った!」


かづきは体の回転の反動で、鉄棒を力任せにクラークの側頭部を殴りつけたのであった。 確かな手ごたえがあったかと思えた。 がしかし、クラークは突きから反転横薙ぎを使い、その反動で石突部分で自分の側頭部を防御していたのである。 しかも鉄棒を弾いた反動を使い、間髪を入れずに反対側の斧の刃先で、かづきにとどめを入れに来た。


「うわっ! つっ」

「んぐっ!」


かづきはそのまま頭の態勢を後ろに反らせると、左の足でクラークの胸部を思いきり蹴り込んで、その反動を利用する事で後方に思いきり飛ぶ事で、彼との距離を引き延ばすのに成功した。


「ふむ、前足で蹴りを入れながら体を捩り後ろに飛ぶ事で、態勢を整えましたか、流石はクロサワ様。 しかし、追いつめている事も事実、このまま行かせていただきますぞ」


 クラークは、槍の穂先に細やかな回転を入れながらも執拗に追ってくる。 回転させているのは、相手の武器をその回転に巻き込みながら、かづきの得物を奪おうという技である。 かづきが押せば手元を狙われ得物を奪われ、引かせる事で態勢を前かがみにさせず、瞬歩も同時に防げるという算段である事は、彼も理解しているはずだ。  


『一瞬のスキを作る』

「フンフンフンっ、貰ったっ!」


クラークの執拗な巻き込みに、かづきの得物は奪われてしまい、そのまま漆黒の斧槍クビカリはかづきの顔面は吸い込まれていくのが見えた。 誰しも勝負はついた、そう思ったていただろう。 


「シュッ!」

「うぐっ!」

「がっ!」


「勝負あったな、クラーク、おめーの負けだな」

「覗きとは人が悪い、ハハ。 ミルフォード所長」

「いててて」


そして、その後に見えた光景は、かづきがクラークの背後に吹き飛ばされた光景でしかない。 傍から見ると、クラークの斧槍がかづきの顔面を直撃したかに見えたのは間違いない事であろう。 がしかし、その場面はクラークの巻き込みの瞬間に、かづきがその力を利用し、鉄棒を素早く引きながら槍に飛び移ると、鉄棒を袋に収納し、クラークの後方に素早く飛んだのであった。


かづきは体の回転を利用しながら素早く反転すると、再び鉄棒を取り出しクラークの後頭部を思いきり打ち据えたのであった。 その後クラークの素早い引き戻しによって、石突部分で突きを喰らってしまい吹き飛ばされたのが、その結果の全てである。


「今の勝負、最後の打撃でカヅキ殿が吹き飛ばされたが、クラークの障壁がはがれるのが先であった。 よってただ今の勝負、領主クロサワ殿の勝ちとする。 勝手に立会人して悪いが、ギルド長の俺の見立てだ、悪かねぇだろ」


「勿論でございます。 ミルフォード殿、あれがクロサワ様の真剣であったら、反撃は出来ていませんからな。 クロサワ様、お背中は大丈夫ですか?」

「ハハハ、こいつはてぇした野郎だぜ。 あの思わぬ反撃を受けながらも、素早く両手を地面に付きわざと吹き飛びやがった」


「ふむ、流石はクロサワ様、勉強になりまする」

『ウオー! クロサワ先生やっぱりスゲーぜ! パチパチパチ』

「何だ、お前達も見てたのか」


元訓練兵であったほぼ全員が、朝練であろうトレーニング用のユニフォームを着て、いつの間にやら群がっていた。 最初は隠れてみていたのであろうが、勝負がついたと見て姿を現したのであった。


「はっ、 クロサワ様の教え通り、我々一期生は早朝訓練をこれからも欠かしません」

「うん、良い心がけだ。 まだ小隊程度の規模でしかないが、お前の力は重要だと心してくれ」

「はっ、それから本日ミルフォードギルド長の審査があります」


「ああ、冒険者ギルドの登録って奴だな。 ミルフォード所長よろしく頼む」

「おお、任せておけ、それから今の戦いを、ギルドの昇級実技として考慮すると、おめーの実力はどうみてもAは下らねぇ。 だがな、その実力は認めるが、前回のいきなりランクCってのも飛び級だし、とりあえずランクBで勘弁してくれ」


「ハハハ、俺はそんなのいらねぇよ」

「そうはいかんだろ、お前の部下達の事もある」

「任せるよ、済まないが汗を流して仕事に移るから、後の事は宜しく頼むよミルフォード所長」

「はっ、クロサワ殿」

 

かづきはクラークと共に共同浴場にて汗を流すと、早速始動する事にした。 前回のように会議は行わないが、各自工房長には予め指令書と共に、作業詳細と把握できない内容の提示をかづきの巡回の際に、質問していくという形で行う事になっている。 今日は工房よりも、規模の大きな工場の出来上がり具合を確かめる為に、硝子工場と製金属加工場の視察となっているが、クラークとはこれから別行動となる。


硝子工場の責任者はジャスミ・クリスタで、同じくガラス工房の責任者でもある。 赤隊班にいたジャベとは姉弟の間柄で、人種であり赤髪の茶眼で女性ではあるが体格は非常に良く、グラマーで情熱的である。 一方、製金属加工場の責任者はバーグハム・モールドで、鉄職人だが武器作りに長けたガスドとは違い、鋳型の得意な男である。 


これら工業部門の統括責任者は、芸術家でもあるゴルモスアゲイ・ファインアートだ。 意外に思うものも多いが、全ての芸術の原点は素材にあるとの彼の意見は感嘆に値すべき点があった。 その為、かづきは純粋に素材の探求心持つ彼の話に、もっともな話であると思い、どうせなら全ての工業部門の責任者としたのである。


「クロサワ様、まずは製金属加工場のご案内ざんす」

「ふむ、俺の屋敷の後方になるんだな、馬車での移動なのか」

「クピー! キュルルルルル」


「おう、プディンか、ほったらかしにして悪かったな」

「グゥッグゥッ」

「おお、よしよし。 大人しくしていたか?」


「厩舎の担当者によると、プディン号はクロサワ様のお言いつけ通り、大人しくしていたようですが、当初は同じ厩舎にいる馬を食べようとしていたようざんす。 慌てて餌で釣って事なきを得たようですがハハ」

「こらプディン、馬は喰っちゃだめだぞ」

「ギュルッ! ギュルル」


「えっ? そうなのか、仲良くしようとしてたのか」

「キュルッ、クピー」

「そうか、よしよし。 じゃ褒美に今日は一緒に行動しよう」


「グゥッグゥッ」

「えっ、 領主様は、フォルスラ鳥と会話できるんざんすか?」

「うーん、会話というか鳴き声と仕草かな。 でもこいつは言葉をよく解ってるみたいだぞ」


「ふむ、興味深いざんす。 それからユーの羽毛はとても上質で丈夫ざんしたので、抜け毛を頂いても良いざんすか?」

「キュルッ、クピー」

「うん、良いってさ」


「ふむふむ、今のは少しわかった気がするざんす。 ミーの研究課題がまた一つ増えた気がするざんす」

「ハハハ、それは良かったなゴルモス。 じゃ俺はこいつに乗って行くから馬は不要だ」

「了解ざんす」


製金属加工場へ着いたかづきは、プディンにおやつを与えここで待機するように命令を行った。 工場内の作業場は五十℃をゆうに超える暑さであり、プディンの姿から見てもこの暑さに耐えられそうにはないからである。 しかし、周囲には六名はいるだろうか、全員武装した警備兵が工場の外周りを固めている。


「彼が案内するざんす。 頼むざんすよバーグハム殿」

「お久しゅうございます。 本日わしが色々とお見せいたしますんで、宜しゅうに領主クロサワ様」

「おう、 頼んだぞバーグハム、しかし外は厳重な警戒体制だな」


「それはそうざます。 主に鉄鋼生産ですが、貴金属の精製や鋼鉄の精錬も行っておりますゆえ、部内のものでもよっぽどの許可がない限りは、容易に立ち入る事はできないざんす」


 工場の敷地内は、いくつかの部署に分かれており、一番大きな工場は鉄鋼生産で、鉄鉱石を溶かしそこから不純物を分離する方法で、精度の高い銑鉄を作り出している。 排気口の先には特殊な魔道具が使われており、途中で枝分かれした真下に落ちるパイプから、ダストが取り除かれるようになっている。


熱風はそのまま隣の工場へと繋がっており、その工場はガラス工場となっているのだ。 製金属加工場は、ほかに鋳物工場と銑鉄を精製して作る鋼工場、鉄製品から作る加工品の為に、パイプや鉄線にプレートなども作られている。 また貴金属製の精錬と、プレートや細工用のベースなどは、最奥である中央工場で、厳重な警戒体制で行われている。 

ミク:モモっ、もう起きなきゃだよ

モモ:うーん、もうちょっとだけ

ミク:お兄ちゃん昨夜はお一人だったそうよ

モモ:えっ! おねぇちゃんたちは?

ミク:寝てる~フフ

モモ:よし、二人で抜け駆けのチャンス!

ミク:って、居ないし・・・

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