異世界探求伝 第九十話 ブートキャンプ後半ー魔物たちとの晩餐会
ひょんな事で、ゴブリンたちと仲良くなったかづき達であったが
訓練兵たちも意外と違和感なく過ごしているようであった。
ひょんな事から、かづきらのベースキャンプに、ゴブリン達が大挙して現れ、当初は襲撃かと緊迫した一幕もあったが、白赤隊によるゴブリン救助の礼に来たとわかり、少しはほっとしたのだが、何せ引率して来たのがガタイの大きな大きな鬼人族だったもので、直ぐには打ち解けるという訳になるべくも無かった。
この鬼人、ティターン族の戦士ダルザ・グルモを名乗り、実は鬼人族とゴブリンが同族だと教えられ二度驚く事となる。 そして彼らが、悪い奴らでは無いと判断したかづきは、人の良いというか恐れ知らずというのか、彼らを歓迎する為の夕食会を開く事を決め、現在に至っている訳である。
途中で狼人族であるズグロウが、ゴブリンの族長の娘であるタムを手に入れるという事故も起きたが、これはなるようにしかならないという結論に達した模様だ。 しかし、思ったよりもゴブリン達の人数は多く、土魔法で作られた長テーブルは三列ほど作られていた。
よく見ると同じゴブリンでも大きさも様々で、肌の色も顔の形も様々である。 かづきのイメージでは、ファンタジーの世界でよく見られる緑色の子鬼という感じではなく、薄い緑色で人間に近いイメージだが、顔が大きめで鼻が高く耳もとんがりやや大きめである。 ワンピースのような貫頭衣を着ているが、革の鎧を身に付けているところを見る限り、ただの魔物には見えずそれなりの知識を有している事が良く分かる。
角のある固体も多いが、全てに角があるわけではなく、額の部分だけが少し盛り上がっているものもいるし、身に付けている武器を見ると、弓や金属製の武器も身に付けており、一応の戦士の身なりはしているようだ。 こうしたゴブリン達が、身近に見られる事は生態をつぶさに観察できるかづきにとっても、非常に有意義な事に思える。
気の利いた隊員たちが彼らに料理を取り分けているが、ギャッギャなどと声を出している様子を見る限り喜んで食べているようだ。 うどんには苦戦しているようだが、それはこちらの訓練兵たちも同様で、食べようとすると麵がすり抜けてしまい、見てるこちらがイライラしてしまいそうだが、概ね和気あいあいと言った感じだろうか。
長テーブルに上った料理は、およそ野外のキャンプ料理とは思えないほどのボリュームと質であった。
・カルチャーグーの腿肉のから揚げ
香辛料と特性の塩だれと、摺り下ろしたリンゴに漬けこんだカルチャーグーは、大きめのぶつ切りにされかなりの食べ応えがある。 漬け込みさえしておけば、小麦粉から取り出した浮粉をまぶして高温で揚げるだけなので、簡単に作る事ができ、あっさりした肉質のカルチャーグーと油の組み合わせはやけに相性が良い。
・ボアハッグの冷製サラダ
猪によく似たボアハッグは、塩をたっぷりと塗した後で一旦蒸しあげ、厚めのスライスをして茹でた野菜と混ぜ合わせたドレッシング仕上げだ。 腹肉である三段バラ肉は、程よく油が抜けており獣の臭みも完全に抜けている。 ドレッシングは発酵させた野菜のザワクを刻み、ワインで酸味を利かせてある。
・ロンガムベアのロースト
ロンガムベアの肉はかなりの歯ごたえがあるが、時期的に脂が乗りかなり香ばしく美味しい。 皮付きのまま荒く切ったヤム芋とキャロやセルリ、オニオを下に敷き詰め、枝肉のままのロンガムベアの塊を鉄板に乗せ、そのまま香草と塩で蒸し焼きにしている。 肉の中はロゼ色で赤いが、きちんと火入れがなされており、とてもジューシーである。
・ルビスネークのカバブー
ルビスネークを薄切りにして、オイルと塩と胡椒と軽く混ぜ合わせ、鉄串に巻くように刺し焼き上げたもので、スグリのソースが掛けられてある。
・アップルの肉詰め
リンゴをくりぬき、ラビホーンを内臓と小骨ごとミンチ肉にして、香草や木の実に塩胡椒で味付けされたものが詰め込まれ、オーブンで丸ごと焼かれたものだ。 四つ割にしてあるが外側のリンゴがソースの代わりになっており、何とも言えない味のハーモニーを醸し出している。
・ルビスネイクの香草包み
ルビスネイクの切り身を、ハスの葉のような大きな葉っぱで包んだもので、焼き石の上に並べて熱い灰を上からかぶせて蒸しあげている。 味付けは塩と唐辛子だけだが、やけに食が進む一品である。
他にも温野菜や、ザワークワウト、蒸し芋やパンや木の実にフルーツなど、盛りだくさんだが、今日はエールも許しているのでまさに大宴会状態である。 鬼人のダルザ・グルモやゴブリン達も、始めて食べるであろう料理の数々に皆一様に舌鼓を打っている。
「ダルザ、お前達と人族の関係ってどうなってるんだ?」
「ムシャムシャ、そうやな、お互い狩るもんっち狩られるちゅうもんやな」
「人間から狩られるって事か」
「いんや、おいだんも人ば狩るし、人族もおいだんば狩る獲物同士やな」
「ふーん、難しいもんだな。 じゃなぜここへ来た?」
「そらきまっとろーもん。 ゴブリンばたしゅける奴らん顔の見たかっただけくさ」
「だが、お前達は商人との取引もしていると聞いたが?」
「ああ、ティターンの里やったら、人族っちん取引ばやっちょうぞ」
「そうなのか、何が取れるんだ?」
「人族は石ば欲しのるな。 代わりに布や道具っち交換しとるちゃ」
「そうなのか、俺も鬼人の里へ行ってもいいか?」
「きさんならよかぞ、カヅキ。 こぎゃん旨い料理食わしぇてもろうた礼や」
「そうか、それは大収穫だ。 ところで鬼人族が人族の集落を襲うという事はあるのか?」
「なかな、冬ごもりん食い物ば探しで追われとっとうとーけん、ティターンにそんな暇は無かやな」
「そうか、ならいいんだが、ズナンの町は襲わないでくれ」
「約束はしきらんけんど、出きんしゃーだけ仲間には言っちょこう」
「そうか、それで鬼人の里へはどう行くんだ?」
「タムの案内しとってくれるっちゃろう。 タム頼んどくけんな」
「うん、ダルザが許可するっちいうんやったら、わかったけん、タム案内するっちゃ」
「ああこの子がタムだったな、確か族長の孫娘だったか」
「うんタム、ズグロウと一緒にいくっちゃ」
「おっ、おい!」
「ハハハ、ズグロウも一緒だな、良し了解した」
「そ、そんなぁ」
「タム、あん酒ば持っち来てくれ」
「うん? ああ『ゴブリンの滴』やね」
「ゴブリンの滴? 酒、なのか」
タムが持ってきたものは、手で持てる程度の薄汚れた木の樽であったが、栓を開けるとかなり甘い香りが漂ってくる。 かづきは小さめのグラスをいくつか出すと、タムがそれらに琥珀色のゴブリンの滴を注ぎ入れたのだった。
「うーん、旨いな。 濃厚な味だがかなり甘みが強いな。 そうだな、これは飲んだ記憶がある・・・あっ、アマレットに似ているんだな。 確か木の実だったか・・・うっ、腹が焼けるように熱い」
「だっ、大丈夫! カヅキ」
かづきの様子を見て、一目散に飛んできたのはジュリナだ。 かづきは黙って両手を広げ、見つめ続けていたが、体中を確かめるかのようにしながら、おもむろに顔を上げたのであった。
「ミシー、ディアンヌ、お前達これを飲んでみてくれ」
二人はきょとんとしながらも、互いに恐る恐るグラスを傾けたのだった。
「えっ! これって」
「これは・・・すいません誰か、デゴブさんを連れて来て下さいませんか」
「はっ、ただいま」
連れて来られたデゴブは、少しやつれていたようだった。 ディアンヌが渡したグラスを一気に飲み干すと、驚いた事にデゴブの様子が一変したのだ。 今までうつむき加減であったデゴブが、傍から見てもわかるように元気を取り戻していた。
「デゴブ、調子はどうだ?」
「はっ! なんだか知りませんが気力が、いえ、魔力が蘇って来たようです」
「そうか、もう行ってもいいぞ、デゴブ」
「はっ、ありがとうございました」
「これは、あれだな。 ソーマって奴だな」
『そーま? ですか』
「そうだな霊力の高い、うーん、つまり精霊の力が込められた幻の酒ってところだ」
「ほう、ようわかったったいね、さすがはカヅキやな、飲んだこつあるんか?」
「いや、噂だけな。 さすがファンタジーの世界ってとこか」
「ふぁんたじ?」
「いや、この世界って事さ、気にするなディアンヌ、ところでダルザ、このゴブリンの滴って、分けてもらえないかな」
「ちょこっとなら構わんけんど、公にさるるっと、ゴブリンらがおおじょうするど」
「ああ、それなら内緒にするよ。 取引するが何か欲しいものがあるか?」
「何でん良かなら、にしゃ達ん使う袋の欲しかばってん。 商人もいまり交換しようとせんっちゃね」
「あー、魔法の袋か沢山入るからな。 良し、いいだろう。 ただし、俺の作る魔法の袋は高いぞ、そのゴブリンの滴2樽で1袋だがいいか?」
「ふむ、しょんなか。 でな、ティターンん里で取引ばしちゃう。 1つん月後で20樽用意しゅるばってんくさ」
「わかった、10袋用意しておく。 だがな、さっきの商人の話を聞く限り、売りたくなかったんじゃなくて、魔力の余り無いお前達では、袋が扱えないと思ったんだろう」
「魔力か、そいやいおいだんや使えなかんか?」
「大丈夫だ、お前達でも扱えるようなものを作ってやるから安心しろ」
「カヅキ大丈夫? そんな安請け合いして」
「ああ、大丈夫さ、試作品はもうできてるんだからな、ミシー出してくれ」
「はーい、カヅキ。 言われた通り陣は両面に施してあるわ。 ついでにカヅキの紋章入りだわ」
「ああ、ちょうどいいな。 ダルザ、取り敢えず俺の紋章が入ってるから、俺の砦にも入れるぞ」
「よかとか? 先に渡しても」
「ああ、信頼の証に受け取ってくれ。 お前に贈り物だ」
「ふむ、感謝しゅる。 こいも必ず約束は守るけん、安心せい」
ダルザとカヅキは握手を交わすと、グラッパを袋から取り出し、ダルザとグラスを傾けた。 やはり、ティターン族は酒好きのようである。 40度はあるであろうグラッパを煽るように飲んだが、旨いと一言いっただけで普通にがぶ飲みしていた。
語らいは夜更けまで続いていた。 そこで様々な事を聞いてみたが、大きめのゴブリンが居たが、ボブゴブリンと言うのだそうだ。 天敵は人族よりも、オーク族だという。 オークはゴブリンの巣を狙って、雌を攫い子を産ませるのだそうだ。 時には人も襲われるそうだが女を攫うのは同じで、これはオークにはメスが存在しない為の彼らなりの生きていく術なのだそうだ。 ふむふむ、勉強になる。
晩餐が終わり、ゴブリン達も好きにごろ寝していたが、朝になるとすでにその姿を消していた。 挨拶もろくに出来なかったのが、残念ではあったがタムをここへ残しているからこその行動であったのだろう。
ところで、ゴブリンたちが感謝の証とてし持参して来たものは、魔獣の毛皮や素材などであった。 特に目を引くものも無かった為か、全て献上品としてかづきの元へと渡っていたが、ようはていの良い荷物持ちといったところか。
朝食を終えたかづきらは、これから予定通り湖へ向けて出発をする予定だったが、ビームスたち仕掛けた罠を回収する為、予定を変更せざるを得なかった。 人族の言う鬼人達のティターン族とも会う事が出来たし、それなりに取引が行える道筋が立てられた事は、思わぬ収穫と言ってもいいだろう。
「よし、これから帰還するが、仕掛けを回収しながらまずはサキュバスの館へ向かう」
『イエッサー!』
ビームスたち白赤隊の仕掛けた罠は、実に巧妙に仕掛けたものであった。 まず感心したのは、人知のあるものに対しては無効というところだろう。 落とし穴や罠の仕掛けた場所には、所々に目印がしてあり、理解したものはその場所を避けて通れるように、獣道に沿った罠が置かれている。
紐や網を使った仕掛けが多いのは、即死を避けたものであり、落とし穴などは逆すり鉢状にしている為に、生きたまま逃げられない工夫が施されていた。 特に大物仕掛けでは無い為に、食糧確保の手立てとしては、有効な狩猟方法なのだろう。
帰りは人数も多かった為に、スムーズに最初の河原でのキャンプ場に辿り着く事が出来た。 モモとミクにクリスタル・ローズへの伝言を頼むと、その日はこのキャンプ場で、一晩過ごし明けて砦村へと帰還する事になっている。 かづきはクラーク経由で、事の次第をカレン・ミルフォードへと報告しておいた、ギルドの依頼にはきちんとした報告書を上げなければならず、これで完了というわけにはいかないが、ひとまずほぼ完遂というところだろう。
次回は、クラーク閑話が入ります。




