異世界探求伝 第八話 ズナンの町お買い物
この世の獣人は、人と余り外見的には差異がありません。
まぁ考えてみても、単に耳や尾が生えていたとしても
中々見分けは付きませんよね。ただし、個人差もあります
遺伝が色濃く出ると、先祖返りみたいなことがあります。
俺とジュリナは武器屋の親父であるガスドロビコフの伝手で防具屋に赴いていた。
ギルベスタ防具店ってんだな。
「武器屋のおっさんから聞いて来たんだが、えっと、ガスド・・・」
「おう! ガスド兄貴の店だ」
「カヅキって、本当に名前覚えられないのね」
ジュリナから少し小馬鹿にされてしまったが、どうも長いカタカナと外国名は苦手だ。
「ガスドロビコフの紹介で来ました。 黒沢かづきです」
「ん? 貴族か」
「いえ、一般人ですが。 防具を見せて頂きに来ました」
「おい、お客さん案内しな」と、ぶっきら棒に言うこのおっさんは、ガスドの弟で店主らしい。
呼ばれて出て来たのは十四、五歳の男の子? 子供、髭面やん。 俺が驚いているのを見ると、悪戯っ子の様にジュリナは教えてくれた。
「うふふ、彼らはドワーフ族なのよ。 手先が器用なの、十歳を超えると毛深くなるわ」
「へぇ」
「なんだお客さん、ドワーフ見るの初めてかい?」
「ああ、かづきって言う。 宜しくな坊主」
「坊主じゃねぇよ。 イワニールって言うんだ」
「そうか、防具には詳しくないから色々教えてくれ」
俺は動きやすい革装備を一揃い出して貰う事にした。 コーディネートは大事な要素だが、本当に大事なのは命を守る事。 俺はこの条件と、色具合を気にしながらチョイスした。
「うん、このベストなら普通の刃物は通らないよ。 魔獣の素材を使っているからね」
「ブーツは要らないな。 パナマ帽とか無いのか?」
パナマ帽は解らないだろうから、紙を貰いデザインと寸法を書いて渡した。 内側を補強する事で防御力のあるものが作れるそうなので、任せる事にした。 マントは野営にも暖を取るのにも必要と言われたが、今羽織っているコートを見せて、丈夫な素材で作って貰う事にした。 後は革ズボンに肘当て、ついでにジャケットも頼み込んだ。
ガントレットは使わないかと聞かれると、ハッと俺は思い出してグローブを新調する事にする。 ついでに改造をお願いした。 指先は無しで、拳には厚めのパッドと鉄板を頼んだが、金属を入れると破れやすいとの事なので、言われるままに他の素材で強化して貰う事にしたが、陸王亀の甲羅を使うらしい。 両親指の補強と改造を紙に書いて説明をする。 何か変わった客だと思われているみたいだが、これだけ買うので上客扱いだろう。 イワニールは寸法を測り、ここの主人であるギルベスタに、色々と指図を仰いでいる。
「お待たせ旦那さん、金貨四枚でいいよ」
「ちょっとお待ち!」
しゃしゃり出て来たのは、ジュリナ様である。
「ギルベスタ! あたいがお客を連れて来たんだ。 判ってんよね?」
「げっ! ヴァレンチノか、しょうがねぇな」
ギルベスタは硬貨の入った革袋をジュリナに投げ渡した。 ジュリナは袋の中身を確認すると、それをそのまま俺に渡す。
「えっ、これはお前の斡旋料だろ」
「いいえ、割引だわよ」
こういう事は、固執すると恥を掻かせる事になるので、黙って受け取る事にした。 後で何か買ってあげようっと。
「旦那はカヅキって言ったな。 急いでも四、五んち掛かるから、連絡先を教えて貰えるかい?」
俺がどうするか言いよどんでいると、ジュリナが代わりに答えてくれた。
「あたいの所に連絡くれればいいんだよ」
「おう、ジュリナデリカ、判ったぜ」
何か俺との会話のギャップが凄い気になるが、可愛いし気にするまい、うんうん。
「次はどこなのかしら?」
店主との会話の違いに少し引きつりながらも、次に向かう魔道具屋に案内を頼む。
「魔道具ミシェータ・・・ここよ」
至って普通の佇まいだ。 店内はオドロオドロしくて、とイメージが先行していたが意外と明るい。
「誰かいるかい? ガスドロビコフに聞いて来たんだが、色々見せてくれるかな?」
「ああ、いらっしゃいませ。 いいわよ、説明したげるわ」
「助かるな、俺は詳しくないんでね。 えっと・・・」
「あたくし、ミシェータ・アベルニキュアよ。 ミシェータって呼んで良いわ。 貴方お名前は?」
「ああ黒沢、いやかづきだ。 宜しく頼む、ミシェータ」
ミシェータは見た目ヒューマンであるが、身長は低めの百五十㎝位でたれ目のかわいいタイプの女性だ。
是非、メード服を着せて萌えをさせたい思いが沸くが、健全な男なら守ってやりたいって感じるだろうな。
「ふふん、あたくし宜しく頼まれちゃったー。 ところでカヅキは独身?」
「んんっ! これは何だい?」
魔道具を手に取り、いきなり二人の間に割って入ったのはジュリナである。 ここで彼女たちの口撃が始まった様だ。
「あら? これはこれは、ジュリナデリカさんじゃないの」
「もしかして、お二人はお付き合いなさってるのかしら?」
「・・・いや、カヅキがこの町は初めてだからね、案内している」
「ふーん、じゃ、カヅキは知り合いが居ないのね。 良かったわ」
「待て、好ま道具の説明がまだだ」
「ふーん、これはどの家庭でもある照明器だわ。 子供でも知っているわよね。 まさか貴女が知らないとでもいうのかしらね。 ふふっ」
「あっ、い、いや。 間違えた、これだ!」
「ふーん、虫よけの魔道具がどうかしたのかしら?」
「うっ」
弾んだ会話? を邪魔しない様に店内を見渡して行った。 ミシェータが飛んで来ては、それを追う様にジュリナデリカが追って来る。 ジュリナは腕を掴んで俺にしがみついて来た。
「カヅキ! もっと良い魔道具屋があったわ。 そこへ行きましょう」そう言いながら、急いで腕を取り引っ張って行く彼女だったが、俺は一点に目が留まった。
「ミシェータ、この剣は何だい? 魔剣とか?」
「いやそれは魔剣では無いわ。 見たいなら見せてあげるから裏庭に来て」と今度はジュリナから腕を振りほどいて、ミシーは俺の手を引っ張り裏のドアを開けて進む。 奥のドアを開けると、そこは庭になっていた。
「結構広いな」
「ええ、ここで試し打ちするのよ」
彼女が剣を握ると、芯の部分が光り始めてそれが先端に集中する。
「ドン」と大きな音がして、的に火の玉が飛んで穴が開いた。
「どう?凄いでしょ」と小ぶりな胸を張り、虚勢を張るミシー。
「うーん、時間が掛かり過ぎるし魔力の消費も多そうだな。 それに剣である必要があるのか?」と俺は疑問を素直に口にした。
「うっ・・・やっぱり判るぅ?。 直接魔法を放った方が早いって売れないのよ」
「ハハ、そうなんだ。 でもこの魔力を吸っている金属? 何だい」
「ああ、これはミスリルを使っているわ。 純度が高いと柔らかくて剣じゃ使えないから」
「剣にする時は、固い金属に混ぜ込む訳だな」
「そう、でもねそうすると、魔力の伝導が悪くなるのよね」
俺はこれを見て「ピン」と来た。
「魔力を貯め込む装置は?」
「ああ、魔石をはめ込むと形が剣じゃなくなるの」
「剣に拘る必要はないさ」
俺は店内に戻って、ミシェータから紙とペンを借りて絵を描き始めた。 書いているのは、そう『銃』だ。
「ここに、一旦魔力を貯め込んでおく弾倉だ。 これは引き金で引くと一定の魔力が発射されるんだ。 さっきのミスリルの棒はここに仕込んで、先端と手前のここには両方を見る事で照準とする訳だ」と俺は銃の説明をトクトクと話しだす。
「ちょっと! これす、凄いわね」
「この弾倉を個々のグリップに入れるんだ。 後は誤射を防ぐ為に、引き金を固定させる安全装置を付ければいい」
「ちょっ、ちょっと待ってね。 ジュリナデリカ、あんたこれを見た事がある?」
「あ、ある訳無いよ」
「え、えっと・・・カヅキ、さん?」と口籠りながらも、ミシェータは上目使いで見上げている。
「ん?」
「あ、いえ 昨日来たばかりですわよね。 この技術の登録とか、して無いわよね?」
ああ、そういう事か、そう思ったが、俺は自分のしている事の本当の重大さを、余り理解して居なかった。 息を飲んだ二人はお互い顔を見合わせていたが、ミシェータがいきなり床に座り込んで正座をする。
「カヅキ・クロカワさん! いえカヅキ様」
「えっ! いきなり何だ」俺は何だか判らずに、ミシェータの綺麗なつむじを見下ろしながら、この世界にも正座はあるんだな、と一人違う方向に気が向いていた。
「これはとても重要なお話ですわ。 是非この不肖ミシェータ・アベルニキュアに開発、生産の任を命じられたく存じ上げます」と、頭を下げて来る。 俺は軽い気持ちで即答した。
「ああ、いいよ。 他に魔道具屋の知り合いも居ないし」
「おーっ、神様ありがとうございます」
ミシェータは両手を握りしめ天を仰いでいた。 何てこいつは仰々しいんだろう。 俺は不思議に感じながらミシェータを立たせてあげる。 彼女は急いで店をクローズすると、場所を移動してテーブルの席に座らされた。 香りの良いハーブティーを飲みながら、ミシェータはこれからの計画と相談を始めるようだ。
「まずはカヅキ様に申し上げます。 この『ジュー』なる代物はこの国には御座いません。 恐らくは他の国にも・・・これはカヅキ様が、『占有特別許可証』の所有者と認められます」
「うん?知的所有権か。 パテントだな」
「その通り、そして私は開発担当の権利を得ましたが、ここまでは良いですね」
「うん」
「で次に専売権が生じます。 これはこの町の流通経路を牛耳る組織の、元締めにやって貰おうと思いますが如何でしょうか?」
「えっ? でも元締めって俺知らないんだが? 殺られたりしちゃわない?」
「ホッ、オホホホ、殺るのあんた?」と言った彼女の目は、ジュリナを見据えている。
「や、やるわけないでしゅ」
あっ噛んだ。 で、何でジュリナが言ってんだ? 俺は訳が分からない。
「カヅキ様、改めてご紹介致しますわ。 元締めのジュリナデリカ・ヴァレンチノですわ」
「えっ? えっ」俺は戸惑うしか無かった。 ジュリナは襟を正し、背筋を伸ばすと俺にこう言ったのだ。
「ご、ご紹介に預かりました。 ヴァレンチノ家のジュリナデリカです」
「ジュリナデリカ? ヴァレンチノ?」
「で、でも父の代を受け継いだだけなんです。 非合法な事はやっておりませんわ す、少ししか」
「へぇー、そうだったんだ。 ああ、俺はそう言うのは気にしないぞ。 前居た所でも裏社会とは繋がってたしな。 マブダチもいるぜ」
正直ジャパンで言えばどっかの組のお嬢さん・・・・・・いや「ドン」なのか。 でもここはさほど驚かない方が無難だと俺は判断した。
「ほっ、ごめんなさい。 今まで人に色眼鏡で散々見られて来たので、言うのか迷っていました。」
「ハハハ、大丈夫だよ。 で、流通経路って?」
「はい、ヴァレンチノ家は代々、商船や馬車を護衛する仕事を取り仕切っております。 勿論店の用心棒も」
「成程ね、販売網を抱えているって訳か、こりゃ心強いな。 でも護衛とかは、冒険者が居るんじゃ無いのか?」
「冒険者は強い者も居るのだけれど、そういう方達は強い魔物狩りとか、ダンジョンに入った方が実入りが良いのですわ」とはミシェータの弁である。 そしてジュリナもそれに同調して見せた。
「そうね、余り戦力にならない日和見冒険者を護衛で雇うより、出先も身元のしっかりしている組織の方が重宝がられるのよ」
「ふむ、言われてみればその通りだな」
俺は二人の言葉に納得して、話を進めて貰う事にした。
「では、ジュリナデリカも居ます事ですから、早速契約を進めましょうか」
ミシェータは正式契約書を取り出して来た。 これは霊木から作った紙だそうで、強制力がとても高いのだそうだ。 『占有特別許可証』の所有者名、開発製造権所有者名、独占販売権所有者名にそれぞれ特殊なインクに血を落とたもので、サインを書き連ねると、俺はジュリナデリカに一通りの説明を受けた。
「精霊王の名の元に―― 古の崇高な契約をここに誓う」
『インポーテント』
金色に光り輝く魔法陣が契約書から飛び出ると、三人の額にそれらが吸い込まれて行く。 それを見て光の色の変化に違和感を覚えたので聞いて見ると、これは最高位の契約魔法と教わった。 契約が無事に終わり、三名は放心状態から戻って漸くリラックスしたのだった。
「ふぅ、無事に終わったわ」
「これで後は、設計図と完成品を持って王都へ行くだけだわ」
「王都?」
「ええ、王都の『健令院』へ提出して認可を貰うのよ」
「成程」
「心配しないで、私たちも一緒よ」
「うん、まぁ旅行がてらいい旅が出来るな」
「カヅキ、まだ事の重大さが判って居ないようね」
「そうそう、ホホホ、その内判るわよ。 所で、カヅキ様」
「様は要らないぞ、ミシェータ」
「じゃ、カヅキ、早速これ清書して、部品の構造と概略図と数値もお願い」
「うっ! あ、明日でもいいか? まだ用事が済んでないんだ」
「もう、しょうがないわね、ジュリナデリカ、きちんと護衛なさいよ」
「わかってるわよ! 離さないわ」
いや、ちょっジュリナ、離してもイインダヨ・・・きつく腕を取る腕に、弾力のすこぶる良い双丘が当たりまくっている。
こうして無事に契約を終えた俺達は、用のあるミシェータを残して店を出ると、二人は昼食を取る事にした。 次は冒険者ギルドに寄るつもりなので、道すがら屋台で買い食いする事にした。 程なく満腹になった俺達は次にギルドへと向かう事にした。
「なぁ、やっぱり冒険者ギルドの身分証の方がいいのか?」
「そうね、商業ギルドでも同じだけれど、魔物討伐は冒険者の方が意識が高いから」
「そう言えば、武器もまだ買ってねぇな」
「何を買うの?」
「うーん」と、悩んでいる内に冒険者ギルドへと辿り着いた。
重い扉を開けると、そこには様々な冒険者達が装備を携え、テーブルで座って話ている様が見えた。
「ここの扉は重いんだな、建付けが悪いのかよ」
「いいえ、子供や老人なんか非力な者が、立ち入らない様にしているの」
「成程ね、誰でもなれないんだ」
「ええ、人の生き死にが掛かってるもの。 ほら、あそこが受付よ」
彼女の指さした方向へと進んで行く。
「ここが受付で宜しいでしょうか?」と俺はつい、丁重に答えてしまう。
「ええ、そうですけど、随分ご丁寧ね。 で? 要件は何でしょう」と、受付嬢は事務的に対応して来る。
「はい、わたくしこちらで、身分証を頂きたく参上しました」
「ホホホ、面白い方ね。 身分証って冒険者になりたいのかしら?」
「はい、こちらで良いのですよね」
「では、こちらの用紙に必要事項をお書き下さい」
「えっと、ペンを貸して戴けますか?」
「宜しいですよ。 銅貨一枚戴きますが」
どうも、こう言ったお役所的な所は肩が凝る。 地球では役所で権利書や契約の不備を指摘され、頭下げて回ったからなぁ。 ある意味、職業病かもしれんな。 カヅキは固定観念を振り払うかの如く、頭を振りながらジュリナの元へと向かった。
感想有難うございます。
励みに致しますので、今後ともよろしくお願いします。