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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
練兵育成篇
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異世界探求伝 第八十七話 ブートキャンプ後半ーすもう?

境界の森探索中に出会ったゴブリンを助ける為に一肌脱いだ白赤隊であったが、これが重大な軍規違反に当たる事が判明し、その対処でかづき達の心は揺れ動く、果たしてその決着はいづこへと

 誰しもが経験ある事だろうが、良い事と思ってやった行動が思わない波紋を投げかける事はよくあり、今回の白赤隊によるゴブリン救助とも言える一連の行動は、部隊全体からの軍規から見ても思わぬ波紋を投げかける事になった。


要点は二つ、まず倒すべき魔物として扱われるものを、果たして手助けする対象としていいものなのか。 対象とする線引きはいったい何処であるのか、国が違えば言語も違うはずだしコミニュケーション力云々は、除外して考えなければならないだろう。


実際にかづきも獣人たちと、サキュバスとの分別はつかないし、双方とも自分らの風習や文化で助け合って生きている。 しかし、冒険者ギルドでも魔物は討伐対象とされ、実際に狩られているのは魔物たちばかりであるのも事実なのだ。 だが、かづきはラビとの会話で一つのヒントを得る事に成功し、その方法に掛けてみる事にしたのだ。


「うー、コホン。 皆さんはオークを食べますか?」

「カヅキ? 冗談で言ってるのよね」

「ジュリナ、ここは会議の場だぞ、言葉を慎め!」


「あっ、ごめんなさい、じゃなくて失礼しましたカヅキ、いえ、クロサワ指令」

「宜しいジュリナ君、ではもう一度聞こう。 君はオークを食べるかね?」

「いえ・・・でも狩りの対象です」


「質問だけに答えなさいジュリナ君!」

「はい、ごめん、し、失礼しました指令」

「オークを食べるのかね?」

「食べません」


「ふむ、では今回の探索の目的を述べよ。 ミシェータ君」

「はい、クロサワ指令、今回の目的は主な目的任務は、この境界の森に異変が無いのかを調べる目的ですが、実際は訓練兵の最終試験を兼ねての探索ですわ。 ついでに砦村の冬季食料の調達も兼ねています」


「ついでは余計だな、ミシェータ君」

「失礼しました、クロサワ教官」

「ではミク君に聞くが、ゴブリンはこの食料確保にあたる魔物か?」


「いやーん、気持ち悪」

「コホン!」

「し、失礼しひまひたクロサワきょうかん、いえ指令。 食料ではありません」


「うむ、皆ご苦労であった。 以上を総合的に判断すると、妖精族で敵対しないもの、または対話が可能な種族は討伐に値せずという事だ。 つまり、弱き者を助けた白赤隊は賞賛すべきものであり、軍議に照らしても罪には当たらないという結果になった。 これにて一件落着!」


「いっけんらくちゃくぅ?」

「ああ、全て丸く収まるという意味だミク」

「クロサワ指令! ご高閲痛み入ります」


『有難う御座いました。 クロサワ指令』

「うん、だがな、まだ難題はあるぞビームス」

「といいますと、つまりは冒険者ギルドの魔物に対する概念ですな」


「ああ、そう言う事だな。 ディアンヌ、帰ったら爺さんに渡りを付けておいてくれ」

「はい、畏まりましたカヅキ様」

「で、黄緑隊が合流するまで如何されますか指令」


「うーん、周辺の警備と探索は必須だが、後は自由行動にしようかな」

『はっ!』


女性たちは昨日と同様、それぞれのやりかけていた続きをこなすようだ。 かづきはその余暇を楽しみに費やす為に、プディンの元へとやって来た。 プディンは簡易ベッド付きの小屋を建ててもらっているようだが、何か様子がおかしい。 プディンが威嚇しているのは、人狼族のザジオであった。


「ザジ、何やってんだお前」

「あ、カヅキ兄ちゃんいいところに来た。 こいつ汚れてるから拭いてあげようとすると、蹴り上げようとするんだぜ」

「ギュルルぅ」


「ふむ、プディン? こいつはお前に危害など加えないんだぞ。 体を拭いてあげたいんだってさ」

「ギュルッ! ギュルル」

「そうか、じゃ俺が拭いてやろうか?」


「キュルッ、クピー」

「ハハハ、そうかそうか」

「なあ、カヅキ兄ちゃん何言ってるのか解ってるのか?」


「ハハハ、狼は嫌いだってさ。 多分ジュリナが原因なんだろう。 後は俺がやるからいいぞ」

「くぅ、白巫女様なら、文句が言えねぇな。 仕方が無いから狩りでもしてくるさ」

「ああ、気を付けて行ってこい。 一人での行動は慎めよ、命令だぞ」

「はっ! クロサワ指令」


かづきはザジオから受け取ったブラシで、プディンの羽を丹念にこすってやると、うっとりした様子でかづきにもたれ掛かってくるのであった。 特に自分自身では、手入れをする事のできない首周りや頭の部分はとても気持ちよいらしく、猫のゴロゴロという感じで喉の奥下から何やらグゥッグゥッと鳴らしている。


「たっ、大変! 誰か、カヅキ様が魔物に食われています! 助けて下さい」

「ハハハ、大丈夫だよディアンヌ。 プディンがじゃれて甘噛みしているだけさ」


ディアンヌから見れば、完全に口ばしの中に入っているかづきの頭を、美味しそうにモシャモシャしているので、傍から見るとまさに食べているしか見えないだろう。 プディンは口ばしの中で舌を器用に動かせながら、口内でかづきの頭から顔中までをベロベロ舐めて甘噛みしているのである。


「ぷはっ、もういいだろプディン、お前から喰われてると周りがびっくりしてるぞ」

「キュルッ、クピー」

「あー、ビックリしましたわ。 今でも膝がガクガクしてますわ」


「驚かせて済まなかった」

「いえ、ホホホ、でもフォルスラ鳥が、こんなに大人しいのは驚きですわ」

「そうなのか、可愛い顔をしているぞ」


「はい、でも獰猛で有名なんですが・・・」

「そうだな、人間でも獰猛な奴や大人しい奴もいるからな。 きっと個性って奴だろ」

「個性ですか」


「クロサワ教官、いえ、クロサワ指令、お暇ですか?」

「おぅ、ズグロウか、どうした」

「手が空いていましたら、一手ご指南願えればと」


「雨だぞ?」

「はっ、あちらに場所を設けました」


見れば四角形の土を盛り上げた土俵が(しつら)えてある。 上部には障壁が張られてあり、雨は降っているがまるで屋根に滴り落ちる様に弾かれており、その土俵は魔法で水分を抜いたのだろう、しっかりと乾燥している。


「うーん、ゆっくりしたいんだがな。 まぁ、お前のたっての願いだし、相手してしてやるよ」

「かたじけないであります、指令殿」


以前ズグロウとは何度かやり合ったことがあり、戦い方はいつも力任せの一撃狙いだった。 パワーやスピードはこの部隊の中でもかなり突出しているが、小回りが利かないというよりも猪突猛進型であった。 こうしたタイプはいなせば脆く、攻撃さえ受けないようにすれば簡単に攻略できるものだ。


「なぁ、ズグロウ、徒手空拳でやってみないか? お前さんのスタイルは武器よりもそっちの方が合いそうだぞ」

「としゅ!?」

「としゅくうけんだよ。 つまり素手でやろって事さ」


「ハハ、素手の喧嘩なら負けた事は無いですよ。 いいんですか?」

「ああ、勿論だとも、じゃさ、聞くけど負けたらどうすんだ」

「自分は何も差し上げるものがありませんので、お好きなようにしてください」


「お前が勝ったら何が欲しいんだ?」

「いえ、それは恐れ多い事、自分を鍛えて頂きたく・・・」

「ふむ、まぁいいだろう」


こうして、戦う事にはなったが、折角の土俵があるので、ロープを周囲に埋め込む事で土俵を作ってもらう事にしたのだ。 勿論手つきの印を土俵の中心に二つ付け、相撲ルールでの戦いだ。 ズグロウにもわかりやすく土俵を出たら負け、ひざから上を地面に点けたら負けというルール付きだ。


相撲ルールだが、これはけがを極力減らすためのルールである。 拳では殴らない、蹴りは無しなどとしたのは縛りを付ける事と、限られた攻撃方法で何ができるのかを自分で見つけ考えさせるためである。 さすがにふんどしこそ締めはしないが、お互いに丈夫な装備にズボンベルトをしているので問題はないだろう。


行事は公正を期する為に、ゴーレムのアロンに判定をして貰う事になった。 審判としてはこの上なく公正な判断を下してくれる事だろう。 騒ぎを聞き駆けつけてきた訓練生たちは、あれよあれよと土俵周りにへばりついて双方の応援に付いた。 当然だがズグロウ九割に、かづきが一割以下だったことは言うまでもないだろう。


「ンー・ガーッ!」


アロンの合図で戦いの幕は切って落とされたのだが、相撲初心者のズグロウには少しにが重たかったようだ。 アロンのはっけよい! の号令でかづきはズグロウの腰に突進し、ズグロウは即尻餅をついたおかげであっけなく勝負は終わってしまったのだ。


周囲を見回すと、かづきの勝ちは理解しているのだが、余りにもあっさりと負けてしまったので、ズグロウの手抜きと見なされているようだった。 かづきは仕方がないので、勝負抜きで相手する事にした。 動きづらいのと汗をかく事も加味して、本格的にふんどしも作らせる事にした。 廻しを着けるともなるといよいよ本格的な相撲の始まりである。


「クロサワ指令、どうやって着けるんですか」

「そうだな、まずフリチンになれ」

「えっ!?」


周囲も面白がって廻しを付けるのを手伝ってくれたが、着け方は至って簡単である。 まずふんどしとなる生地を二つ折りにして、しっかりと折り目を付けておき肩にふんどしをゆるりとかけ、片側を股間に通し腰に横巻にして行くのだが最後は尻側の部分で、巻き始めの部分にしっかり通し結び目がほどけないように、後ろでしっかりと締めておく。


ふんどしは日本人独自のものだが、祭りには欠かせないものである。伝統芸能の一つである力士の廻し姿も良いものだが、自分で付けてみるとやはり心が引き締まる思いがするものだ。 但しズグロウは獣人である為に、尾が生えているのが難儀である。 仕方がないので尾は軽く曲げて帯の間に巻き込むような形になったが、特に問題はなさそうであった。


「ふむ、これがクロサワ指令の故郷の男の正装ですか」

「正装とは少し違うな、精神的なもんだな。 心が引き締まるだろ」

「うーん、股間と尾が締め付けられて、何やら圧迫感が」


「まぁいいだろう、そのうち慣れて来るぞ」

「はっ、ではご享受を願おう」


ズグロウは棒立ちしては、先程のようにやられてしまうと思い、かづきと同じ様に前傾姿勢を取り突進してきたが、その瞬間ズグロウの前からカヅキの姿は消え、そのまま背後から土俵の外へと押し出されてしまった。


「ふむ、奥が深い」

「だろう、瞬時の判断で相手の動きを予想するんだぞ」

「はっ」


ズグロウは、幾度か左右に振られ押し出されていたが、そのうち慣れて来たのだろうかづきと胸を合わせる事ができるようにはなったが、廻しを取られては何度も何度も投げ飛ばされる。 体格は勿論ズグロウの方が大きいのだが、相撲の場合は廻しを取られ引き付けられると初心者では太刀打ちできまい。


「ぜぇぜぇ」

「頼もう!」

「おっ、ビームスか、ふんどし姿が似合ってるな。 よし上がれ、ズグロウは休んでいろ」


「ゼェゼェ、ハ、はい」

「しばらく見ておりましたが、廻しを取れば有利なようですな」

「ハハハ、見るのとやるのは違うぞ、さぁこい」


案の定見物していただけに、ビームスが突進してくるような事は無かったが、逆にかづきが突進して吹き飛ばしていく。 不利に感じてビームスが突っ込むと、やはりいなされて土俵外へと弾き飛ばされていく。 白熱した展開になり、土俵周りはいつの間にやらほとんどのものが集まって来て活気にあふれてきた。


「ハァハァ」

「わしも頼もう」

「おお、ジャベか、上がれ」


ジャベは、ガラス職人であるジャスミの弟にあたる。 上背はあるが線が細いので、筋肉をつければかなりの力を付けると睨んでいる男だ。 経験の薄さもありほとんど相手にならないのだが、食らいついて来る精神力は中々のものである。


「お願いします」

「へっ!? ジュリナ」

「駄目? 上着来てるからいいでしょ」


「うーん、胸に晒し巻いてこい」

「はーい♪」


こうして、ジュリナも参戦し、ふんどし姿の者が八人になったので、一通りけいこを付けた後で互いにけいこを付けさせることになった。 ジュリナは俺以外の男に触れさせる事は、決してないのは言うまでもないだろう。 勝負勘を養うのには相撲は最適である。 瞬時の判断で勝負が左右するので、気を抜く暇もないのである。


「ギユルッ、クピー」

「ん? お前もやりたいのか」

「俺にやらせて下さい、クロサワ指令」


『俺も、俺も』

「うーん、まぁいいか、やりたい奴は好きにしてくれ」


しかし、プディン相手では相撲というよりも、一方的な結果だけで終わってしまいそうだ。 案の定、プディンは口ばしで相手の頭にかぶりつき、ポイポイと紙屑のように投げ飛ばしてしまった。


「よしプディン、俺が相手だ」

「キュルッ、クピー」

『うおお』


かづきはアロンの掛け声とともに前へと飛び出すと、あんぐりと開けた口ばしの側面を狙って思いきり殴りつけていた。 一応周囲には横っ面を引っぱたいたかのように見えているが、本気の一撃でないとプディンの力は止められない事をかづきは知っているのだ。


かづきは口ばしが横にそれた合間を縫って、プディンの胸元に食らいつく事に成功していた。





 


ひょんなことから、相撲へと発展した手合わせになってしまいましたが、元々この相撲も格闘技の一つで、殺し合うまで行われた事もありました。現在は多くの禁じ手を作り安全なスポーツとなっていますが、目つぶしや殴るなどほとんど何でもありの死合だったのです。

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